料理をしよう!――調理編
朝早く出掛けたサーフェルレーンが帰ってきたのは、昼をだいぶ過ぎた頃だった。
龍形態で入り口に降り立ったサーフェルレーンは、前脚の爪に引っ掛けていた大きな包みを地面に置き、人型へと変わる。しなやかな裸体に包みから取り出したローブを纏ったところで、洞窟の奥から彼女の愛し子が駆け出してきた。
「おかえりなさい、レーン母さん!」
「きゅー!」
笑顔で出迎えるセレス。――と、その頭の上に乗っている羽根付き仔猫。
小さな翼をぱたぱたと振る仔猫をじっと見つめ、サーフェルレーンはふむ、とひとつ頷いた。
「駆虎の幼体か。そろそろ孵る頃合いだと思っていたが、丁度であったな。肉に良く合う香草を手に入れてきたぞ。煮ても焼いても旨いはずだ」
「孵化するのわかってたんだ! ううん、それよりも、まさかの食材扱い!?」
「きゅきゅー!?」
いい笑顔で香草を差し出すサーフェルレーンに、一人と一匹は叫ぶと同時に距離をとった。
ぐつぐつと煮えたぎるお湯の中へ、肉を投入。ぶつ切りというしかない、大きさの違う野菜も入れて、後はしばらく放置。
塩と香草を突っ込んで味付けを済ませて掻き混ぜたならば、
「か、完成……?」
「ききゅー……?」
木製のおたまを手に、セレスは出来上がったソレを眺めた。相変わらずセレスの頭上に乗ったままの仔猫――駆虎も、サーフェルレーンも、同様に鍋を覗き込む。
ちなみに、食材扱いはセレスの必死の訴えにより一時棚上げとなった。セレスはまだ不安だが、とりあえず捕食的な話し合いはなくなったからか、駆虎と呼ばれた羽根付き猫に怯えの色は無い。むしろもっと警戒したほうが、といいたくなる呑気さを発揮していた。
「……どろどろしておるの」
「きゅー」
形のいい弓なりの眉をきゅっと潜め呟いたサーフェルレーンの言葉に、駆虎も深く頷き同意を示す。びくっと肩を揺らしたセレスに気付かずに、サーフェルレーンは続けた。
「溶けてどろりとしている野菜と全く煮えておらぬ野菜が混ざっておるし、皮も綺麗に剥かれておらぬな」
「きゅー」
「肉の塊も大き過ぎではないかの。スープの色も何故か毒々しい赤紫色になっておるし……」
「ききゅ」
「これは果たして料理と呼べるのかどうか……」
「きゅー……」
サーフェルレーンと駆虎は、そこで恐る恐る作り手である少女を見やり、うっと口籠もった。
「………………」
セレスは落ち込んでいた。それはもう、ものすごく。
地面に生えたキノコですら、こうまでじめっとはしていないだろうというくらいに落ち込んでいた。カビと同化しそうなほどにその表情はどろりと暗く、普段は星のきらめきを宿す菫色の瞳は虚ろだった。
しまった言い過ぎたとばかりにサーフェルレーンと駆虎は慌てて励ましにかかる。
「……美味しいご飯作って、たまには一緒に食べたかったなあ」
セレスは慰めを受けながらしょんぼりと肩を落とした。
美味しいご飯を食べたかったし、いつも優しいサーフェルレーンに感謝を込めて食べさせてあげたかった。
そして、人間だった頃のように一緒に食卓を囲みたかったのだ。木の実や果物ではちょっと雰囲気が出ないし、干し肉や乾パンではいまいち味気ない。もちろんスライムなどは論外だ。断固として却下したい。
美味しい手料理を振る舞いたかったセレスだが、しかし。彼女の前世はずっと寝たきりで、ろくに包丁を握ったことも無かった。
そのうえコンロも調味料も無い状態での調理。
少し考えたならば結果は分かり切っていたのであった……。
無駄になってしまった食材と、せっかく買ってきて貰ったサーフェルレーンに深く謝罪して、セレスはよし、と決意した。
「たくさん練習して、絶対に美味しいご飯をつくってみせる……!」
「きゅきゅ―」
「まあ、無理はせぬようにの」
一人と一匹の生ぬるい声援を背に、握りこぶしをつくるセレスだった。




