廃遊園地の憂鬱
この作品は小説ではなくて詩です。お門違いですが許してください。
錆びた土に煤けた空
主を無くした遊園地は
今日もひとりで佇んでいた
歓喜だとか絶叫だとか
いつかここで反響していただろう熱情の声は
今となってはもはやどこにも見つからず
ただ僕の中で木霊するのみとなっていた
観覧車は泣いていた
キイキイと
耳の奥を引っ掻くような声をあげながら
涙の代わりにと一滴だけの雨粒を垂らして
咽ぶように 泣きじゃくっていた
彼の足もとに広がった
小さな 小さな水たまりには
彼が 見せたいと願ったものとはまるで違った
大人の僕と
終わった世界が映っていた
メリーゴーランドは怒っていた
カンカラと
雄々しく猛々しく空回りを続けながら
揺れ動く思いの丈を 未だ帰らぬ騎士にぶつけて
喘ぐように 怒り狂っていた
木馬の行き先を殺し
同じ螺旋へと誘った騎士達は
丸くなった剣先を 満足げに見つめ
延々と回り続ける彼らを遠巻きに蔑んでいた
首の千切れかけたぬいぐるみが
溶けたバニラと 色とりどりの風船を持って
僕に近づいてきた
彼は一ついかがと風船を差し出した
僕は少し悩んで 黄色の風船をもらった
去り際 ぬいぐるみはこう告げた
「決して手を離してはいけません
空に消えればもう二度と
同じ風船には出会えないのです」
言葉の意味は分かっていたつもりだった
けれども僕は
それでも僕は
手を離してしまったのだ
風船は淡々と空に昇っていった
必死に手を伸ばしてみても届かない
あがけばあがくほど見苦しい
もがけばもがくほど遣る瀬無い
僕は諦めて座り込んだ
ふと
後ろで
びちゃりと バニラの落ちる音を聞いた
すると
さっきまでいたはずの
泣いていた観覧車も
怒っていたメリーゴーランドも
腐り果てたぬいぐるみも
みんなみんな
すっかり 消えてなくなってしまった
空を見上げると
雲の切れ間から黄色い風船が覗いていた
ぷかぷか浮かぶそれは
うずくまった僕を嘲りながら
遠く灰色の空に消えていった
廃墟の雰囲気が好きなので書いた詩です。初めて締め切りとか無しで書けた奴です。