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ファンタジー小噺

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作者: 白猫商工会
掲載日:2025/12/19

「最近、呼ばれなくなりましてね」


目の前の彼は、静かに言った。


それは一抹の寂しさと諦観。

だが、かつて世界を沸かせた存在としての熱は、彼の瞳の奥でまだ消えていなかった。


「そうなんですか?

お強いのに。今だって、アビスデーモンの群れを一掃したじゃないですか」


ヨイショなどではない。

彼のメガバーストフレイム改・MrkIIの破壊力は、いまだに健在だ。


だが、彼は少しだけ遠い目をした。


「強さ……ですか。

それだけで一線を張れる時代じゃない。

……それで片付けられるものでもありませんが」


そう言って、わずかに自嘲気味に口元を歪める。


――昔は、そんな顔を見せたことなどなかったのに。


いつも雄々しく、獄炎の中からあらわれ、惑星をひとつ破壊してから、大空を滑空する。

その姿に、胸を躍らせたものだ。


なぜか今日は、彼の憂いが気になった。


モンスターを殲滅したあと、僕は納品書を受け取り、日付とサインを受領書へ記入する。


そして彼は、高次元へと帰還。


本来なら、それで終わる。

そんな淡々としたプロセスのはずだった。


――けれど。


少し、話をしてみたくなった。


転移魔法陣を展開した彼に、僕はそっと声をかける。


「呼ばれなくなった、と言いましたが……。

何か、理由があるんですか?」


魔法陣が、ふっと消えた。


彼は一瞬だけ間を置いてから、

なんとも言えない目つきで、こちらを見つめる。


小さく息を吸い込み、ぽつりとこぼした。


「……長い、らしいのですわ」


「長い?」


「ええ……召喚時の演出です。

あれが長いので、周回には扱いづらいとかで」


――そうかな。


僕は、あの宇宙規模のカタストロフが嫌いではない。


彼から放たれるビームが、ドーム状の輝きとなって地表を覆い尽くす。


破壊であり、儀式であり。

そして一流のエンターテイメントだ。


少なくとも、僕にとっては。


そんなワクワク感とロマンを、かつては同僚の召喚士たちと一晩飲み明かしながら、飽きもせず語り合ったものだ。


その気持ちは、彼に伝えるべきだろう。


「少しくらい長くても、いいじゃないですか」


そう前置いてから、僕は続けた。


「僕は昔から好きですよ。

あのトゥートゥートゥートゥートゥートゥートゥー……って溜めて、口元から光が溢れ出してくるやつ」


彼は、少し嬉しそうに目を細めた。


「そう。分かってますね。

あそこ、トゥーの音程にはかなり試行錯誤したんです。

何度も譜面を直しては、C♭を入れたり」


やはり、と思う。

彼のこだわりと美学は、声高に語られることはない。

けれど、そうした細部にこそ、作り手の情念は静かに染み込んでいく。


だが、彼は一転して顔を曇らせた。


「しかしですね。今はすぐに結果が欲しいらしいのです」


「“それ、スキップできませんか?”

“即バフ技はないんですか?”

……しまいには、“召喚枠にいるだけで効果だけ付与してくれればいいんで”と」


数秒の沈黙。


「……最後のは、自分がいる意味、ありますかね?」


なるほど。

若い連中に人気の召喚獣は、そういうものだと聞いたことはある。


彼は、さらに言葉を重ねる。


「演出ですけど。こちらとしても、いろいろ投資しているわけですから。

0秒でドン、というご要望にはなかなか……。

やはりフル尺でいかないと、回収が厳しくて」


そして、俯きがちにこぼした。


「イントロだけで五十秒は、いまどき盛り上がれない、と。

……つまり、時代が求めるものが変わった。そういうことなのです」


そうなのかもしれない。


僕は「でも……」と、言葉を探した。


「若い世代にも、じっくり腰を据えて楽しむというニーズは、なくならないと思うんです。

即時で報酬系を刺激するだけが、召喚の妙味じゃない。

そう思いますよ」


彼は、じっと僕の目を見て言った。


「初心者の召喚士さんは、“わぁ、これはこれでエモいー”と喜んでくださるんですけどね。

でも、初回だけで。二回目からは、スキップを要求されます」


少しだけ、間が空いた。


そう言われてしまうと、さすがに返す言葉がなかった。


それも、時代なのだ。


僕が無言になると、彼はこう締めくくった。


「長い序章があるからこそ、破壊のカタルシスがある。

……このスタイルは、時代に迎合できそうにありません。

不器用だと言われてもね」


そう言って、くるりと踵を返し、転移魔法陣を展開する。


「本日はご利用ありがとうございました」


その背中に、僕は声を張った。


同情ではない。

あの時代、同じ熱を共有した戦友として――

どうしても、言わずにはいられなかった。


「また、召喚しますから!!

来週は水の四天王戦!!

お待ちしてます。僕、あの演出……本当に好きなんでっ!!」


背中を向けたまま、彼の肩が小さく震えた。


転移魔法陣が、いっそう強く輝く。


「ありがとう」


小さく、だが確かに、彼はそう呟いた。


――そして。


「でも。さっき……。

あなた、ずっとスマホいじってましたよね」


魔法陣の光とともに、彼は帰還した。

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