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二話

  緋流が後宮入りしてから、一月が過ぎた。


 火耀王太子は二日に一度は訪れている。いわゆる夜のおとないだ。けれど、緋流は火耀王太子の背後にいる悪霊が気がかりだった。とは言え、告げようものなら。夜の訪いが無くなってしまう可能性が高い。お飾りの正妃と言われるのは避けておきたかった。仕方なく、黙っておくことにするのだった。


「……女御様、今日も顔色が悪うございますね」


「そう見える?」


「はい、何かありましたか?」


 心配そうに女房の讃岐が訊いてくる。緋流は小さくため息をついた。


「讃岐はお祖母様の元で修練を重ねていたわね」


「確かに、そうですけど」


「なら、そなたには話すわ。その代わり、他言無用で頼むわよ」


 そう言うと、讃岐は何かを察したらしい。真面目な表情で頷いた。


「分かりました、絶対に秘密にすると約束致します」


「……実はね、王太子様の件なんだけど。あの方の背後にたちが悪い霊がいるのよ」


「そう言う事でしたか、何やら悪しき気配がするなと後宮に入ってから思っていまして」


「ええ、ちなみに。まだ若い女子おなごの霊よ、王太子様にどことなく顔立ちが似ていたわ」


「まあ、もしかして。五年程前に儚くなった姫宮様でしょうか。王太子様の腹違いの弟宮おとみや様に当たる方です」


 讃岐が告げた事柄に緋流は驚きを隠せなかった。そして、儚くなったという姫宮の呼び名を思い出す。


「確か、交野かたのの姫宮様かしら。大層、美しい方で歌や横笛など風流事にけていらしたとは聞いているわ。穏やかな性格だったとも」


「ええ、交野宮様はまだ、十八程でいらしたはずです。お労しい限りですけど」


 成程と緋流は思った。これは火耀王太子にだけでも、報告した方がいいかもしれない。悪霊が血縁なら、厄介な事になりかねないからだ。


「王太子様には私から申し上げてみるわ、讃岐も先程の約束は忘れてちょうだい。せめて、お祖母様にも聞いて頂く必要が出てきたから」


「分かりました、白梅の宮様には私から申し上げておきます」


「お願いするわ」


 緋流は頷き、王太子にどう説明するかを考えた。ちなみに、白梅の宮は祖母の呼び名だ。讃岐は立ち上がり、祖母の元へ向かったのだった。


 翌日、緋流は火耀王太子の訪いがあったので早速に交野の姫宮の事をそれとなく告げた。

 すると、王太子は持っていた桧扇を鳴らす。人払いの合図だ。静かに女房達は退出していく。人の気配が遠のき、完全に緋流と王太子の二人きりになる。それを見て取り、おもむろに説明した。


「……殿下、ご配慮をありがとうございます。先程に申し上げた姫宮様の事ですけど」


「うむ、交野の宮の事だろう。話してみなさい」


「ええ、後宮に入った日からずっと、殿下の背後から睨みつける若い姫君が私には視えていました。最初はどなたかと思いましたけど。気にしないようにつとめていたのです」


「して、何故に私に話す気になった?」


「昨日にあまりに気になり、私付きの女房に打ち明けたのです。その者はすぐに姫君は儚くなられた交野の宮様ではないかと申しまして。ならばと、殿下だけには報告しようと思い、申し上げました」


 緋流が言い終えると王太子はしばし、考え込む素振りをした。どう言おうかと思っているようだ。

 少し経ってから、王太子は告げる。


「……さすがに、白梅の宮様の血筋ではある。そうだ、私の背後にいるのは妹の交野だ。あの子にはかつて恋人がいた。名を胡月うづき、私や交野のはとこに当たる男でな。文のやり取りだけで清い仲ではあったが」


「そうでしたか、胡月様が」


「ああ、だがな。胡月は交野を捨てた、他の女子おなごと駆け落ちをしてなあ。それを知った交野は怒り狂ったよ、寝食を忘れる程に。交野は都を出た二人に呪詛を掛けた」


 呪詛と聞いて緋流は背筋に冷たいものが走った。交野の宮はなかなかに激しい一面を持っていたらしい。


「けれど、呪詛は跳ね返された。一緒にいた女子が高い霊力を持っていたからな、其奴により呪詛返しをされたんだ。交野はまともに受けて寝込んだよ、三日三晩は高熱にうなされてな。結局、儚くなったが」


「はあ、では。姫宮様はご自身の呪詛により、命を落とされたのですね」


「そう言う事だ、仕方ない。緋流、すまぬがな。今から交野を祓ってくれぬか?」


 王太子の言葉に緋流は驚きを隠せない。まさか、交野の宮を祓う日が来るとは。けれど、少しばかり祓うための準備が必要だ。


「……うけたまわりました、殿下。私が宮様を浄土にお送りします」


「本当にそなたには酷な事をさせる、必要な事や物があれば。遠慮なく言ってくれ」


「はい、でしたら。交野の宮様のご遺品を何かお貸しください。それを宮様にお話する媒体に致します故」


「分かった、すぐに持ってこさせよう」


 王太子は頷く。手早く、簀子縁に控えていた女房に交野の宮の遺品を持って来るように命じた。緋流は立ち上がると讃岐を呼びに寝所を出た。



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