放課後のカフェテリア
「……今日もなんとか生き延びたな」
夕焼け色に染まりはじめた校舎の廊下。僕――ハルトは、へとへとになりながらDカップクラスの教室をあとにしていた。
シャイン先生の授業は楽しいけど……いや、楽しいけども、体力も精神も削られるのはどうにかしてほしい。
「ハルト、こっちこっちー!」
ユーニが手を振っている。僕の視界に、キラキラと元気に輝く金髪がまぶしく映る。
その隣にはティア、サナ、キール、リサの姿。放課後の恒例となりつつある、6人での“お茶タイム”らしい。
「……なあ、毎日行くの、決まりなのか?」
「なに言ってるの。放課後は糖分補給とコミュニケーションの時間よ」
ティアが当然のように言う。既に手には自前のスイーツクーポンが握られていた。抜け目がない。
「まったく……女子ってのは甘いものに弱い生き物なんだな」
キールが苦笑まじりに呟くと、すかさずリサがツッコミを入れた。
「それ、安直すぎて逆に失礼よ」
「はいはい、すみませんっと」
そんなやり取りをしながら、僕たちは学園敷地内にある生徒専用のカフェテリアへと足を運ぶ。
* * *
カフェテリアの2階、ちょっとしたテラス席に腰を落ち着けた僕たち。
テーブルの上には、可愛らしいケーキやパフェが並んでいて、見た目からして甘さ全開だ。
「サナ、またミント系頼んでる……」
「……落ち着く味だから」
「わたしはチョコバナナパフェ~♪」
「……甘すぎて気持ち悪くならない?」
「ティアちゃん冷たーい!」
相変わらずユーニのテンションは高く、ティアはそれを軽く受け流している。キールとリサはというと、それぞれ珈琲とレモンケーキ。大人の組み合わせか。
「ハルト、今日はなに頼んだの?」
「ん? これ。ベリーヨーグルト。……ちょっと疲れた胃にちょうどいいかなって」
「あら、意外とオシャレなのね」
ティアの言葉に、「オレの予想じゃメロンパンかと思ったぜ」とキールが割り込んできて、皆が笑う。
「まあ、メロンパンも好きだけどさ……それだけじゃないよ?」
「ふふっ、少しは進級して“大人”になったのかもね、ハルトくん」
「……なんだかサナの“それ”は、ちょっと圧がある気がするんだけど」
「気のせい、です」
* * *
ケーキをつつきながら、おしゃべりを楽しんでいると、不意にユーニが声を上げた。
「ねぇねぇ、次の実技ってどんな課題になるのかな?」
「そうね……“性質変化”の応用って、次はきっと“複合魔法”とか……」
リサが顎に指を当てて考え込む。
「そ、それって難しそう……」
サナがちょっとだけおどおどしながら言うと、ティアがふっと笑った。
「ま、ハルトにはとりあえず“お尻の盾”を卒業してもらわなきゃね」
「ちょっ……!」
「ティア!? 恥ずかしいから思い出させないでよ!」
ユーニが顔を真っ赤にして、ティアに言う。
「ハルトも! 次やったら本気で怒るからね!」
「はい、反省しております」
「まったく……ハルトのエッチ」
プンスカと頬を膨らまして、ユーニはめずらしく僕を睨んでいた。
「ハハッ……ほんっと飽きねぇな、お前ら」
キールが笑いながら頬杖をつき、リサは「話題の収拾がつかないわね」と苦笑していた。
でも、こんな何気ない時間が、どこか心地いい。
進級して、環境は変わったけど――僕たちの関係は、こうして変わらず、続いている。
* * *
陽が傾き、空が朱色に染まっていく。
「さて、今日はこのへんでお開きにしましょ」
ティアのひと言に、それぞれが席を立ち始める。
「ユーニ、パフェの底までちゃんと食べなよ」
「ハルトもねー、残したらだめだよー!」
「わかってるって……」
そんな日常のやり取り。
特別じゃない。でも、だからこそ大切な時間。
次は、どんな授業が待ってるんだろう?
……いや、それよりもまず、あのシールドを再現させないようにしないと。
(それにしても……性質変化、あれってどう見ても“記憶の暴走”だったよなぁ……)
頬を押さえながら、僕は心の中で小さくため息をついた。




