性質変化って、マジで変化球
午後の実技演習――
Dカップクラスの生徒たちは、魔法実習棟の第3演習室に集められていた。
部屋の奥には、黒板ではなく魔力反応を映す水晶パネルが設置されており、中央には標的用のダミーゴーレムが数体。緊張感を漂わせる中、僕たちは整列して立っていた。
「Yo! 待たせたな、未来のトップ魔導士たちィ!」
ドアを開けて入ってきたのは――
「オレが今日のお前らの実技担当――“シャイン先生”だッ!」
片側だけ刈り上げたドレッドヘアに、だぼだぼのジャージ。胸元のゴールドチェーンがゆらゆら揺れている。何より、その喋り方が妙に軽い。
「え……先生、なんですよね?」
「そこに食いつくなよティーチャーへのリスペクトを忘れんなYO? 見た目じゃねぇ、中身で語るのが魔導の流儀ってやつさ!」
「…………」
「なんだよその顔! 先生にだってスタイルってもんがあるんだぜ?」
思わず生徒たちが顔を見合わせていると、シャイン先生はにやりと笑った。
「見た目でナメるとケガするぜ。――さて、今日は“性質変化”の基礎。火なら熱、雷なら電流、風なら圧力って具合に、自分の属性を『どう扱うか』がキモってわけだ」
パネルに魔法陣を浮かべながら、先生は続ける。
「魔法は“属性”だけじゃなく、“性質”で勝負する時代。雷属性っつっても、ビリビリさせるだけじゃねぇ。破壊、麻痺、加速、帯電……使い道は無限大ってワケだな!」
その言葉に、リサがすっと目を細めた。
「……なるほど。“属性の幅”を知るってことね」
「お、そこのお嬢、なかなか見込みあるじゃん。よし、最初のデモンストレーション、ユーに任せるぜ?」
リサは小さくうなずくと、前に出た。
静かに手をかざし、雷の魔法を発動。バチリと音を立てて迸る電光が、空中で一度収束し、やがて細い針状に変化して標的を正確に貫いた。
「……制御型、貫通雷。威力よりも精度重視」
「おおぉ、見事な“性質変化”! ただの雷を、貫通特化にしてるじゃねぇか!」
生徒たちがどよめく中、シャイン先生はサムズアップで笑う。
「こーゆーのが“応用力”ってやつよ! 単に力任せにぶっ放すだけが魔法じゃねぇ!」
続いてティアが手を上げる。
「……じゃあ私もやってみるわ」
彼女は炎属性。
火球を生み出したかと思えば、それを渦状に変化させ、スピンを加えて放つ。標的に命中した瞬間、火の塊は爆ぜることなく“燃焼の霧”となって広がった。
「……拡散型の性質変化。小規模範囲に持続的な熱を残すタイプ」
「ハハッ、イイねぇ~! お前ら、やるじゃん!」
先生が嬉しそうに手を叩き、生徒たちの士気も自然と高まっていく。
「じゃあ次! 我こそはってやつ、いるかぁ?」
「はーいっ!」
元気よく手を挙げたのは、もちろんユーニ。
「風属性で、いきまーす!」
両手を広げて構えると、風が渦巻き始めた。
だが――
「ユーニ、それ……巻き込まれてない?」
「えっ? きゃっ――わあああああっ!」
突風が逆方向に暴発し、彼女は宙に舞い、後方のハルトにドーンと激突。
「うぐっ……ユ、ユーニさん、顔が……すごく近いです……!」
「えへへ、ごめーん☆」
シャイン先生が大笑いしながら叫ぶ。
「ダイナミックな失敗も経験のうちだぜ! でもよー、少しはコントロールも考えような~!」
サナが顔を赤らめながら、ユーニを引きはがす。
「……も、もう……ハルトくんの顔の上に乗っちゃって……」
「え? 何が? え、乗ってた?」
「気づいてなかったの……!?」
ポカンとしたユーニの表情に驚くサナ。僕はドギマギしながら、ユーニの柔らかいお尻のことで、頭がいっぱいだった。
そんな騒動の横で、シャイン先生が言った。
「Oh、少年!それじゃ次はオマエがやってみYo!」
なんか愉快な先生だな。
僕は切り替えて立ち上がり、魔法を展開しようと両手を前に出した。
性質変化……。僕は前にもやったことがあるはず。おそらく、トーナメントで出したあの魔法。
キールとトーナメント戦で対決した時のことを思い出しつつ、サナを見やる。
「…………」
たまたまサナの隣にいたティアからなぜか無言の圧力を感じる。
あの時の魔法、あれと同じものを出したら授業後に僕の命は無い……!
必死に別のイメージを思い浮かべ、僕はシールド魔法を展開させた。
「……Oh、少年。……それはサプライズがすぎるぜ」
僕の前に現れたシールド魔法を見た生徒一同が沈黙。シャイン先生も絶句していた。
「……お、お尻じゃん」
生徒の1人が沈黙を破ると、一斉に笑いと罵声が飛んできていた。
僕の前にあるのは、スリムながらもぷっくらとした女性のお尻のような形をしたシールド魔法(性質変化後)があった。
僕は真顔で触ってみると……うん、たしかに柔らかい。これはまるで、さっきのーーー、
「ハルトのエッチーッ!」
ぱぁん!
一発、平手打ちが決まり、顔がくるりと反転するような衝撃が決まった。
「うわっ……ぐはっ……!? ぼ、僕の性質変化は……保護緩衝型、の予定だったのに……」
顔を真っ赤にして、すこし涙目になっているユーニ。その後ろで、シャイン先生が爆笑していた。
「ハハッ、サイコーだぜお前! 今の魔法、完全に性質を別モンにしちまってたな!」
「いやいや、違う意味で誤解されてる気が……!」
「いいんだよ! オレはそういうトチ狂った発想、嫌いじゃねぇ。クールな男だぜ、ハルト、お前」
「……褒めてます? それ?」
* * *
こうして午後の実技演習は、笑いと熱気に包まれて進行していった。
教師のキャラは濃い。でも、伝えるべきことはブレていない。
「お前ら、魔法は“変化”してナンボ。型にハマるなよ? 自分の“色”を信じな!」
放課後の鐘が鳴るころ――
シャイン先生のその言葉が、教室にしっかりと刻まれていた。




