夜の帰り道と、告げられなかった言葉
川沿いでの帰り道――夕日が沈み、辺りに少しずつ夜の気配が滲みはじめる頃。
僕たちは学園への帰路についていた。
ショッピングストリートの明かりが、ポツリポツリと灯っていく。
ふと見ると、ティア、ユーニ、サナの3人の顔に、それぞれ違った表情が浮かんでいた。
ティアは少し物思いにふけったような目。
ユーニは、まだ名残惜しそうに口を尖らせている。
サナは何かを決意するような、揺れる目で前を見つめていた。
(なんだろう……今日、3人とも笑ってくれてたけど。やっぱり、それだけじゃないんだよな)
そんなことを思っているうちに、校門前にたどり着く。
「じゃ、また明日ね」
ティアが先に口を開き、さっと振り返った。
けれど、その足は少しだけ、迷うように止まった。
「うん、またね~! 今日、ほんとに楽しかったよ!」
ユーニは元気に手を振る。だが、去っていく背中が少しだけ寂しげに見えるのは、夕闇のせいだろうか。
「……ありがとう。ハルトくん」
サナの言葉は、短くて――でも、心にやけに残った。
3人はそれぞれ別方向に歩いていく。
校門前に残された僕は、その場に立ち尽くした。
(……僕は、ちゃんとできたのかな)
みんなの力になりたい。
でも、僕の気持ちだけじゃ、足りないものがある。
胸の奥が、わずかにきしんだ。
---
夜、それぞれの部屋で
ティア・クラヴィアの部屋
ティアは脱いだ服をベッドに放り、ため息をついた。
鏡の前で、髪をほどく。
(……ばかみたい)
雑貨屋でペアのペンダントを提案した自分を思い出し、顔が熱くなる。
(でも、あいつ、ちゃんと褒めてくれた)
『ティアには似合いそうだな』
鏡の中の自分が、少しだけ柔らかい笑みを浮かべていた。
「……次は、ちゃんと、正直に伝えてみようかな」
小さくつぶやいたその声は、まるで誰にも聞かせたくない秘密のようだった。
---
ユーニ・グランシェルの部屋
ユーニはベッドの上で、もふもふのクッションを抱きしめながらバタバタと転がっていた。
「うぅぅ……“あーん”とかしたのにぃ~、進展ゼロぉ~っ!」
くるくる回って、ベッドからずり落ちそうになる。
(でも……ハルト、最後にちゃんとありがとうって言ってくれた)
その言葉を思い出すと、胸がほんのり熱くなる。
(……わたし、ちゃんと、好きになっちゃったかも)
顔をクッションにうずめて、ユーニはそっと笑った。
---
サナ・リヴェールの部屋
サナはカーテンを開けて、夜空を見上げていた。
月の光が、静かに部屋に差し込んでいる。
クレープのとき、カフェのとき、ふと近くに感じた彼の温度を思い出す。
(……恋人みたい、なんて。あんなこと、どうして言ったんだろう)
自分で言った言葉が、いまさら心をざわつかせる。
(……本当に、そうなりたいのかも)
窓の外で、ふっと風が木々を揺らした。
(でも……そうなると、ユーニが――)
サナは胸に手を当てて、そっと目を伏せた。
---
そして、僕――ハルトは
ベッドに寝転がりながら、テーブルの上に置いた《記録晶石》を見つめていた。
これは、街で記念に買った魔道具のひとつ。
視覚と魔力を記録して、後から思い出として映像を再生できるという水晶だ。
僕はそっとそれに触れ、今日の一場面を思い返した。
ティアの微笑み、ユーニの“あーん”、サナの優しい眼差し。
「……みんな、ちゃんと笑ってた。よかった」
そうつぶやいて、水晶をそっと伏せる。
だけど――その胸の奥で、何かが引っかかっていた。
(……どうしてだろう。嬉しいはずなのに、なんだか、もやもやする)
今夜、彼女たちの誰かの心が、自分に向いていたことを――
まだ、僕は気づいていなかった。




