デートじゃないけど、デートみたいな日
休日の街は、いつもより人が多く賑わっていた。快晴の空の下、カップルや家族連れ、学生たちが行き交う中、僕――ハルトはティア、ユーニ、サナの3人と並んで歩いていた。
「ここが最近できたショッピングストリートか。案外広いのね」
ティアが腕を組みながら周囲を見回し、視線を巡らせる。
「うわ~、あのクレープ屋さん、すっごくおいしそう~♪」
ユーニがウキウキと指を差し、スカートの裾が軽やかに揺れた。
「……あんまり甘いもの食べ過ぎると、体重が気になっちゃうよ?」
サナがふっと微笑む。その仕草は控えめながらも、どこか色っぽさを感じさせる。
3人とも、笑ってはいる。――でも、どこかぎこちない。
それもそのはず、3人はそれぞれ、自分がハルトと“デート”だと思って今日を迎えていたのだから。
(僕がやりたかったのは、みんなにリフレッシュしてもらうことなんだ。今日だけは、少しでも楽しい思い出を作ってほしい)
心の中でそう願いながら、僕は笑顔で言った。
「ね、せっかくだし、いろんなとこ回ってみようよ。カフェもあるし、服屋とか雑貨屋も面白そうだし!」
すると、
「それじゃあ、わたし、あの雑貨屋さん行ってみたいな」
「だったら私は、カフェで一息つきたいわ」
「……クレープ、食べてからでもいい?」
――まさかの三者三様の行き先希望。
(うわあ、これは……選び方次第で誰かの機嫌を損ねるパターンだ……!)
僕が冷や汗を流し始めたその時。
「……順番に行きましょう。今日は一日あるんだし」
ティアがさらりと口にした。
「うん、それなら、わたしも文句ないよ~!」
「……わたしも、それでいい」
お互いに一歩引いた対応をする3人。――けれどその裏では。
(ふふん、最初に希望を出したのは私よ)
(あっ、様子見しすぎた……)
(……後でハルトくんと二人きりになるチャンス、作らないと)
それぞれの胸の内では、水面下の静かな火花が散っていた。
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「それじゃ、まずは雑貨屋さんに行ってみようか?」
最初に行ったのは、ティアが興味を示していた可愛らしい雑貨屋。
ガラス細工やハンドメイドのアクセサリーが所狭しと並ぶ店内。
「このペンダント、魔力の流れを安定させるのか……ふうん。ティアには似合いそうだな」
「……そ、そう? じゃあ……一緒に、つけてみてくれる?」
突然差し出されたもう一つのペンダントに、僕は一瞬戸惑った。
「え、い、一緒に?」
「……別に、深い意味はないけど。ペアっぽいなって思っただけよ」
ティアがほんのり赤くなったのを見て、なんだか胸がドキドキした。
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クレープ屋にて
「すいませ~ん!チョコバナナクレープくださいっ!」
ユーニが元気よく注文し、店員さんが微笑む。
「ティアは何にする?」
「そうね……無難にストロベリーとクリームにするわ。量が多すぎないものを」
「僕はブルーベリーのやつにしてみようかな」
「……じゃあ私は……抹茶とあんこ。和風の甘さ、好きなの」
サナはゆっくりと選びながら、ちらりと僕を見た。
ベンチに座って、それぞれのクレープを食べる時間。
「わぁ~、このチョコバナナすっごく美味しそう〜!……ねぇ、ハルトくん、あ〜んして!」
「え、いや、さすがに店先でそれは――」
「いいからっ!」
「うわ、わかったって! あーん……もぐっ……うん、うまい」
「えへへ〜♡ でしょ? じゃあ次はわたしが食べる番ね、あ〜ん♡」
……人目があるのに。なんで、女子の方がこういうとき強いんだろう。
ユーニの無邪気な行動にドキッと心臓が高鳴った。
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カフェにて
午後の光が差し込むカフェの窓際で、僕たちはアイスティーやパフェを楽しんでいた。
ティアはスプーンでパフェを丁寧にすくいながら、何やら難しそうな本を読んでいる。どうやら、魔法の応用理論に関する書籍のようだった。
ユーニはミルクティーにたっぷりの砂糖を入れてぐるぐると回していた。
サナはそんな様子を、どこか微笑ましそうに見ていたが、ふいに視線を下げてつぶやいた。
「ここ、落ち着くね」 「……でしょ? 時々、ひとりで来るんだ」
そんなサナの秘密を知れた気がして、ちょっとだけ嬉しかった。
注文したのは、ハート型にデコレーションされたペアパフェ。
「こ、これ……ちょっと恥ずかしいな……」
「ふふ……可愛いって、思ってくれたならいいよ」
スプーンをそっと差し出すサナ。
ティアやユーニとはまた違う、静かな距離の詰め方に、僕は少しだけドギマギしていた。
「……ねえ、こうしてると、なんだか本当の“恋人”みたいだね」
その言葉に、場が一瞬だけ静まり返る。
「えっ……」
僕が返事に詰まっていると、サナはすぐに笑って言った。
「……冗談だよ、冗談」
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川沿いの帰り道
買い物も済み、スイーツも食べ、カフェでひと息ついたあとは、川沿いの道を並んで歩いていた。
茜色の空が、水面を優しく染めている。
「なんだかんだで、今日は楽しかったなぁ~」
「……そうね。みんなで出かけるのも、悪くないわ」
「うん……ハルトくん、ありがとう」
3人から感謝の言葉を受け取った僕は、照れくさそうに笑った。
「そっか、よかった。みんな、最近ちょっと疲れてたみたいだったから……僕なりに、少しでも力になれたらって思って」
その言葉に、3人はハッとした表情を浮かべる。
(ハルト、ちゃんと私たちのことを見てたんだ……)
(ずるいよ、そんな優しいこと言われたら……)
(……心が、また揺らぐ……)
そっと吹いた夕風が、4人の間に静かな余韻を運んでいった。




