ティアの心配
トーナメントが終わってからというもの、学園は以前よりもざわついていた。
進級によってDカップにクラスが変わったハルトたちは、授業内容も難しくなった分、忙しくも充実した日々を送っている。
とはいえ、そんな中でもハルトは変わらず、ティア、ユーニ、サナと日々を過ごしていた。
だが、ティアの心には、ある小さな“棘”が刺さったままだった。
――あの日。
ユーニとサナ、それぞれが見せたハルトへの“感情”。
「……やっぱり、あの子たち……ハルトのこと、意識してる」
学園の中庭のベンチで、ティアはひとり、遠くを見つめていた。
ほんの少し、胸の奥がざわつく。
だがその気持ちに、彼女はまだ明確な名前をつけることができなかった。
◆ ◆ ◆
その日の午後、訓練の後の休憩中。
ハルトが珍しく疲れ果てたように水筒を傾けていた。
「ふぃー……今日はキツかったなあ……」
その様子をティアはじっと見つめていた。
(……本当に、無理してない?)
思えば、ハルトはいつも無茶をしていた。
自分の力不足を感じ、誰よりも努力して、今までずっと仲間の背中を追いかけていた。
(あのシールド魔法だって……変な形だったけど)
ぷっ、と少しだけ笑ってしまった。
(でも……あの時、本当に、ハルトはかっこよかった)
そう、確かに思った。だからこそ、気になるのだ。
あの無理が、どこかで限界を迎えるんじゃないか。
誰にも言わずに、苦しさを抱え込んでしまうんじゃないか。
「ティア?」
「……え?」
ふと顔を上げると、ハルトがこちらを見ていた。
「さっきからずっと黙ってたけど……どうかした?」
「……別に。ちょっと、考え事してただけ」
「そっか。疲れてるなら、少し休む?」
「それはあなたのセリフでしょ。ほら、汗かいてるわよ」
ティアは無言でハンカチを差し出す。
「え、あ、ありがと……?」
戸惑いながらもハンカチを受け取るハルト。
「変なこと、言うかもだけど……あまり無理は、しないで」
「……ティア?」
「別に深い意味はないわ。……私がパートナーなんだから、倒れられたら困るのよ」
ふいっと目をそらすティア。その頬はほんのり赤かった。
(……何よ、私。らしくない)
けれど、その“らしくなさ”こそが、ティアの心の奥にある、確かな優しさと不安の表れだった。
◆ ◆ ◆
その夜、女子寮の部屋でティアは鏡を見つめていた。
「……胸の大きさ、じゃないわよね。問題は……」
視線を落とす。
(私は……ハルトのことを、どう思ってるの?)
その問いに、まだ答えは出ない。
けれど、確実に芽吹いた何かがある――
そして、その小さな感情の種は、これから静かに、確実に育っていくことになる。




