ユーニの悩み
トーナメントも終わり、学園は再び平穏な日常を取り戻しつつあった。
朝の空気は澄み渡り、新しくDカップに進級したハルトたちは、新しい制服に身を包み、それぞれの生活に戻っていた。
「ハルト〜!次の授業、一緒に行こっ!」
元気いっぱいに駆け寄ってくるのは、もちろんユーニ・グランシェル。
風属性の魔法適性を持ち、快活で明るく、誰にでも気さくに話しかけるムードメーカーだ。
「うん、いいよ。っていうか、ユーニ、走るの速いね……」
「えへへ〜。風の加護ってやつかなっ♪」
周囲の生徒たちも、もうユーニのことはすっかり認識していた。笑顔が眩しく、男たちはドキリとし、女の子たちからも好意的に見られている。
……だが、そんな彼女にも、誰にも言えない「悩み」があった。
◆ ◆ ◆
放課後、ユーニはひとり学園裏の庭園に腰を下ろしていた。
優しく風が吹き、木の葉がさらさらと音を立てている。
「ふぅ〜……やっぱり、静かなとこって落ち着くね」
と、そこへティアとサナがやってきた。
「ユーニ。こんなところにいたのね」
「風に……呼ばれたんですか?」
「いやいや、呼ばれてない呼ばれてない! ちょっと、考え事してただけ」
ふたりは不思議そうに顔を見合わせた。
「考え事って、珍しいじゃない」
「もしかして……何か悩み、ですか?」
「……うーん、うん。ちょっとだけね」
少しだけ言いづらそうにしながら、ユーニはぽつりと呟いた。
「ねえ、サナ。ティア。……わたしって、子どもっぽい?」
「……それ、どこからどういう意味で?」
「胸じゃないよ!?」
即座に否定しながら顔を赤らめるユーニ。
「……うん、ま、まあ。ちょっとだけ……無邪気すぎるところは、あるかも」
「元気いっぱいで、素敵だと思います。でも……確かに、ハルトくんの“女の子”として見る視線とは、ちょっと違うような……」
ユーニはため息をつく。
「やっぱりそうなんだよねぇ。ハルトって、サナの胸にぶつかった時もすっごく慌ててたし……なんかさ、わたしのこと、そういうふうに見てくれてないのかなって」
「それってつまり……ハルトに、女の子として見てほしいってこと?」
ティアの核心を突いた言葉に、ユーニは目を泳がせながらも、ふいっと目をそらして答えた。
「……べ、別にそういうわけじゃないけど……ちょっとはさ、そういう目で見られたいっていうか……」
「ふふっ、そういうのを“恋”っていうんですよ」
「うぐっ……」
自分でも言葉にできなかった気持ちを、他人の口から聞いてしまい、思わず赤くなるユーニ。
「……もう! やっぱり来なきゃよかった〜!」
バッと立ち上がり、その場を駆け出していくユーニ。
しかし、去り際の顔はどこか、ほんの少し、恥ずかしそうで嬉しそうにも見えた。
「ふふ、青春ね」
「……ユーニちゃんが一番、素直ですよね」
残されたふたりは、軽く微笑み合いながら、夕暮れの風に吹かれていた。
◆ ◆ ◆
その夜、ハルトの部屋では――
「……なんだろう、今日のユーニ、なんか変だったな」
夕方、たまたま講堂で見かけたユーニに声をかけると、急に顔を赤くして「わ、わたし用事あるから、またねー!」と逃げるように去っていった。
思い出しても理由がわからず、ハルトは小首をかしげるだけだった。




