栄光と辱めと、謎の幼女との邂逅
トーナメントから数日が経った。
激闘の末、ハルトたち4人のグループは、続く準々決勝では惨敗を喫した。
「うーん……やっぱりあの時の反動でみんな疲れすぎてたかな」
寮の中、ベッドの上でうつ伏せになりながら、ハルトはぽつりと呟いた。
全力を尽くした──それは間違いなかった。
だが、次の試合では、あのキール戦のような勢いは影を潜め、あっけなく敗北を喫した。
それでも、敗れた彼らに向けられる周囲の目は、以前とはまるで違っていた。
「すげえよな、あのBカップ組!」
「ベスト8って、マジ伝説!」
「でもあのシールドの形は……いや、あれはアートだろ」
「笑いの才能があるって意味で、すごいと思う……」
結果として、ハルトたちのチームは、BカップからDカップへ飛び級進級。
これは学園内でも異例の成果だった。
ティア、ユーニ、サナの三人は、美少女ぞろいの実力者ということで、進級とともに一躍学園内の有名人となった。
「ねえティア様って本当にクールでかっこいいよね!」
「ユーニちゃん、マジであの風魔法エグかったわー!」
「サナちゃんってFあるらしいよ……俺、ずっと水属性信じてたけど今確信した」
一方、ハルトも注目はされたものの――その内容は複雑だった。
「おっぱい魔法の人だよね!」
「変態だけど、強いっていう新ジャンル」
「いや、笑わせに来てるだろ絶対」
女子からは遠巻きに冷たい視線を浴び、男子からはネタ枠としていじられる日々。
「……僕の魔法、何か間違ってたかな……」
どこか切ないハルトの学園生活が始まっていた。
◆ ◆ ◆
そんなある日。
休日の昼下がり、ハルトは学園外れの草原近くの公園をぶらぶらと散歩していた。
(何も考えずに歩くのも、たまにはいいな……)
穏やかな陽射し。涼やかな風。平穏な時間――
「ん……?」
ふと視線を感じて、足を止めると、そこにひとりの小さな少女が立っていた。
年のころは六歳か七歳ほど。薄桃色の髪に、大きな青い瞳。
どこか浮世離れした雰囲気をまとっていた。
「……どうしたの? 迷子かな?」
近くで声をかけると、少女はぱちくりと瞬きをしてから、ハルトの顔をまじまじと見つめ――
「……お兄ちゃん、すごいね」
「へ?」
「しなないんだね。すごいね、お兄ちゃん。ほんとに、しなないんだ……!」
「え、いや、え? えぇ!? ちょ、ちょっと、なんで!? 抱きつかないでーっ!」
突然、満面の笑顔でハルトに飛びつく幼女。
その光景を遠くから見たら、どう見ても危ない構図だった。
(ちょっと待って!? これ、今もし誰かに見られたら――完全にアウトじゃない!?)
周囲に誰もいないことを全力で祈りながら、ハルトは少女の話に耳を傾けた。
「お兄ちゃん、いっしょに遊ぼ!」
「え、えぇ……まぁ、いいけど……」
その後、ハルトは少女と一緒に草原を駆け回ったり、小川の石を飛び越えたり、花を摘んだりと、のんびりした時間を過ごすこととなる。
少女は明るく、人懐こく、そしてどこかハルトに懐かしさすら感じさせる不思議な子だった。
やがて夕方になり、遠くから「○○ちゃーん!」と母親らしき女性の声が聞こえた。
「じゃあね、お兄ちゃん! またね!」
「う、うん……じゃあ、気をつけてね……」
ハルトは少女の名前も知らぬまま、彼女を見送った。
(……不思議な子だったな)
あの謎めいた「しなないんだ」という言葉が、何かの予兆であるとは知らずに――。




