試験開始!そして──ピンク色の絶望と奇跡
「次、受験番号五三番。キール・バリオット!」
試験官の声に、キールが肩をポンと叩いてきた。
「行ってくる。お前も、緊張すんなよ」
「……うん。頑張って」
大きく頷いて、彼は前へ進んでいった。
ここは《メルゼリア王立魔法学園》の試験会場。
目の前には、試験官たちと、台座に置かれた不思議な水晶玉。
この水晶に触れることで、魔力量と魔法適性が測定され、試験の合否が決まるらしい。
魔法属性は7つ──火・水・風・土・雷・光・闇。
どれかに適性が出れば合格の可能性はある。だが、無属性の判定が出ると……その時点でほぼ不合格。
ここが、人生の大きな分かれ道だ。
キールが水晶に手を触れると、それはゆっくりと濃い茶色に光った。
「土属性、適性あり。魔力量……中の上。合格」
試験官の声が響くと、キールは軽くガッツポーズをしてこちらに振り返った。
「よっしゃ、合格。ハルト、後で会おうぜ!」
手を振って、キールは合格者の列へと進んでいった。
(……さあ、次は僕の番か)
「受験番号五四番。ハルト……えっと、名字は無記入か?」
「はい、記憶喪失……らしくて」
「なるほど。では、手をかざしてください」
緊張しながら、水晶に右手を伸ばす。
(……頼む。せめて……何かしらの属性が出てくれ)
しかし、水晶は……ほんの少し、淡く光っただけだった。
色が変わらない。つまり、7属性のどれにも適性がない。
「これは……無属性の反応か……?」
試験官たちがざわつき始める。
(やばい……このままじゃ、不合格だ!)
僕は、必死に意識を集中した。
(神様……頼む、魔力無限大ってお願いしたろ!? ここが見せ場じゃないのか!?)
その瞬間、水晶がぐぐっと白く明るさを増し、試験官たちが目を見開いた。
「こ、これは…!? 光属性の反応か……?」
だが次の瞬間――
ピンク色に光が変わった。
いや、そんなレベルじゃない。
そのピンクの輝きは会場全体を包み込むほどの閃光となり、まるで花が咲くように、周囲の空気までも甘ったるく染めた。
バリィィィンッ!!
眩い光とともに、水晶が割れた。
会場が静まり返る。
「い、今の……光属性の魔力量で割れたのか?」
「いや、あの色は……ピンク……?」
皆の目が僕に集中する。
(……やっぱり、神様からもらったチート、魔力無限大だったんじゃ!?)
そう確信し始めた、その時。
「あなた……試験中に、なんてエロい妄想をしてるの!?」
試験官の女性が怒鳴り声を上げた。
「え……えっ!? いや、してませんけど!?」
「してるわよ!! この水晶は、古代の医療道具でもあって、精力が高い者に反応する時はピンク色に光るのよ! しかも……最大値を超えた反応……!」
「最大値……?」
(まさか……)
も、もしかして……神様……僕にくれた能力……魔力無限大じゃなくて……やっぱり精力無限大……?
理解した瞬間、僕の世界は音を立てて崩れた。
「……ふざけた試験態度にしか見えないわね。不合格です」
試験官の冷たい声が、トドメのように響く。
僕はうなだれたまま、その場に座り込んだ。
(こんな……嘘だ……違う……違う……僕は、モテたくて……チートで……魔法で……!)
その時だった。
「──その不合格、ちと再考させてもらおうかの」
会場に響く、年老いた男の声。
皆が振り返ると、そこには豪華なローブに身を包んだ白髪の老人が、杖をついて立っていた。
「が、学園長……!?」
白髪の老人が試験の場に現れたことに試験管の女性は驚いた様子だった。学園長と呼ばれた老人はそっと僕に顔を向けて口を開いた。
「ふむ、面白い。おぬし、名をなんという?」
「……ハルト、です」
「ふむ、精力値のみで水晶が割れたか。いやはや、なかなかに面白い人材じゃな……」
そして、老人はにやりと笑い、その後に続けた言葉は、試験管や絶賛センチメンタルな僕でさえも驚愕する言葉だった。
「ーーー入学、認めよう。ワシの推薦でな」