嫉妬に濡れた水の牙
「あなた……よくも、マルクを……!」
怒気を孕んだ声が、戦場に響き渡る。
サナの前に立ちはだかるのは、Dカップチームの三将。先ほどの雷属性の眼鏡男子・マルクとカップリングを組んでいた少女――エミリア=ローデン。
端整な顔立ちに長い蒼髪、冷たい水色の瞳。普段は知的で落ち着いた物腰と評判の少女だが、今はまるで別人。
頬は紅潮し、目は怒りに潤んでギラついている。
「マルクは……わたしが好きだってことに、いつか気づいてくれるはずだったのに……」
ギリッ、と歯噛みするエミリア。まるで恋路を邪魔されたかのような視線で、サナを睨みつける。
「……えっ、あ、あの……?」
サナは戸惑っていた。
だって、マルクが自分に突っ込んできたのは事故。しかも勝手に鼻血を出して倒れたのに……。
(どうして、こんなことに……!)
「許さないわ。あなたみたいな“男を惑わすタイプ”、一番嫌いなのよ!」
エミリアが杖を掲げると、空気が一気に冷えた。
次の瞬間――
「《水刃連牙》!」
その詠唱とともに、鋭く尖った水の刃が複数飛来!
サナは飛びのいてなんとか回避するが、すれすれでローブの裾が裂ける。
(あんな攻撃……わたしのよりずっと速い……!)
「避けるなんて、意外としぶといのね。でも……!」
水刃の雨が、矢継ぎ早に降り注ぐ。サナは水の盾で必死に防ぐが、その衝撃は徐々に身体を蝕んでいく。
「ふふ……ふふふ……ほら、服が濡れて透けちゃってるわよ? それって、男ウケ抜群なんじゃない?」
エミリアの口元が歪む。表情は笑顔のまま、言葉には嫉妬と怒りが滲んでいた。
「ちがっ……! わたし、マルクさんにそんなつもりは……!」
「言い訳しないで!!」
攻撃がさらに過激になる。水魔法が鞭のようにしなり、鞭打ちのようにサナの肩に直撃。地面に叩きつけられる。
観客席がざわめく。
これは――もう、ただの試合じゃない。
「……うっ、うぅ……!」
サナは身体を震わせながら、それでも立ち上がろうとした。
胸の奥で、何かが疼いていた。
(ティアちゃんやユーニちゃん、ハルトくん……みんな戦ってる。わたしだけ、負けたくない!)
再び構えるも、エミリアの攻撃が止まることはない。
次の一撃が決まれば、立ち上がれなくなる――
「ストップッ!!」
試合場に魔力が走る。
審判が間に入ると、即座にエミリアの魔法を強制解除する。
「これ以上は危険と判断し、試合を中止する!!」
審判の声が宣言され、場内が静まり返る。
ゼェ、ゼェ……と息を荒げるサナは、肩を押さえながらも最後まで立ち上がろうとしていた。
そんな彼女の姿を見つめながら、観客からは小さな拍手が起こる。
ハルトは拳を握りしめながら、その姿を見つめていた。
(……今の僕じゃ、守れない)
ティアがその横で静かに立ち上がる。
「次は、私の番、ね」
その声には、冷たい炎のような凄みがあった。
「仲間を傷つけられたら……黙っていられないのよ」
ティアの髪がふわりと揺れ、赤い双眸が燃える。
次に戦うのは、彼女――ティア。
炎と嫉妬の因縁が、いま交差しようとしていた。




