乙女たちの攻防戦!ハルト争奪、静かなる火花
サナとの衝撃的なデート(?)から一夜明け──。
ハルトはベッドで天井を見つめながら深いため息をついていた。
「……僕、ただデートしただけのはずなんだけどな……?」
昨夜の“壁ドン脅迫スマイル”が脳裏に焼き付いて離れない。
人生で一番スリリングなデートだった気がする。
「ユーニちゃんのこと奪ったら、分かってるよね?」
あの笑顔、絶対に笑ってなかった。背筋が凍るとは、こういうことかもしれない。
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朝の教室。
ティアとユーニはふたり並んで、教室の席に着いていた。
「で、昨日の感想は?」とユーニが問いかける。
「べ、別にどうでもいいし!」
「でも結局、展望台まで追いかけたじゃん。……ふふっ、ティアってば~」
ティアはぷいっと顔をそむけたが、その頬はほんのり赤い。
(別に……ハルトのことなんて……)
けれど、昨日見た“壁ドンされてたハルト”が頭から離れない。
──なんなのよ、あの胸に顔が埋もれるラッキースケベとか!
──カフェでの仲良し雰囲気とか!!
(……う、うわぁぁぁぁ!! なんで私がこんなこと気にしてるのよ!!)
ティアは机に突っ伏してゴンゴンと額を打ちつけた。
カフェでの仲睦まじい二人の様子や、胸に顔をぶつけたラッキースケベシーンなどが頭から離れず、ティアの中で感情が渦巻いていた。
「あいつ……なんであんな……っ!」
もはや顔を真っ赤にしながら、机に突っ伏すティアに、ユーニがくすくす笑う。
「……ねぇ、ティア。やっぱりハルトのこと、気になってるんじゃない?」
「っ……ち、違うわよっ!! “カップリングパートナー”としての義務感なだけよ!!」
──だがその発言をした瞬間、教室のドアが開き、タイミング悪くハルトが入ってきた。
「あ、ハルトくんおはよ……」
「うわ、すごいピリついてる……?」
ティアとサナの視線が交錯し、にらみ合いが始まる。教室の温度が数度下がった気さえした。
(あれ……これ、もしかして……僕、修羅場に巻き込まれてる?)
ハルトは内心ひとり戦慄していた。
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その日の放課後、中庭ではティアとサナが言葉少なに並び立ち、睨み合い。
「あら、今日も仲良しですね?」
「そちらこそ、ハルトくんと“ずいぶん親密”そうだったじゃない」
視線のやり取りだけでバチバチと火花を散らすふたり。
物陰からそれを見ていたキールが呟く。
「おい、リサ。……ハルト、死なないよな?」
「うーん。今のうちに遺言くらいは書かせておいたほうがいいかもね」
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その頃──場所は学園長室。
学園長とザカリーが机を挟んで向かい合っていた。
「最近、ハルトくんの様子はどうじゃ?」
「順調に魔法の扱いがサマになってきてますよ。……これなら良い結果を残せるかもですね」
ザカリーの銀縁眼鏡が鈍く光る。
「それで、準備は?」
「万端です。来月──『カップ無差別グループ対抗トーナメント』が開催されます。今年から入学した生徒たちも順調に成長しており、良い試合が望めます。」
「……うむ。それは楽しみじゃのう」
「そうですね。今年はどのグループが優勝するんでしょう」
机の上には、学園内の優秀な生徒に関する書類が重ねられていた。
その中に、一枚──ひときわ赤黒い紋章が異様な存在感を放っていた。
そして、その書状を見つめるザカリーの表情には、どこか険しい影が混じっていた。