波乱の幕開け!デート前日と追走の朝
女の子と二人きりで街に出かける。
その事実だけで、僕の心臓はここ数日、ずっとバクバクしていた。
(まさか、サナからデートに誘われるなんて……)
このところずっと、まともに寝られていない。
目を閉じても、あの控えめな微笑みと「……一緒に街に行かない?」という言葉が頭を巡って離れない。
──翌朝の予定に向けて、心を落ち着かせたい僕の前に現れたのは。
「……ねえ、ハルト。明日、ちょっと訓練に付き合いなさいよ」
ティアだった。
いつものようにツンと澄ました顔で、訓練場での一騎打ちでもする気満々だったが、
僕は思わず視線を逸らしてしまった。
「え、えーと……ごめん、明日はちょっと予定があって……」
「……ふうん? なんの予定?」
「えっ、いや、ほら、その……ちょっと買い物?みたいな……」
あまりに曖昧すぎる返答に、ティアの目がじとっと細められていく。
「……まあいいわ。別にアンタの自由だし。勝手にすれば?」
そう言って寝台へ戻っていったティアの背中が、少しだけ寂しげに見えた気がした。
(……うう、罪悪感……)
だが明日を逃したら、サナとのデートチャンスは二度と来ないかもしれない──
そう思い直し、僕はベッドに入り、今日こそはしっかり寝ようと布団をかぶった。
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朝の学園食堂にて
「おはよー、ティア」
食堂でゆっくり朝食をとろうとしていたティアに、元気な声が飛び込んできた。
「ユーニ……アンタも早いわね」
「ふふん、今日は自主訓練サボってお休みにしたの。よかったら一緒に朝ごはん食べない?」
「……まあ、いいけど」
特に予定もなくなったティアは、自然とユーニの隣に腰を下ろした。
パンとスープを手に、二人でゆったりとした朝を過ごし始める。
「そういえばさー、サナのやつ、今日は朝からすごい気合い入ってたんだよ」
「……? サナが? どこに行ったの?」
「デートだってさー、先に出かけてったよ」
「……は?」
ティアの手が止まり、パンを口に運ぶのを忘れていた。
(デート? サナが?)
あの控えめで人前に出るのも苦手なサナが、誰かと……?
しかも、朝から気合いを入れていたということは、相手は間違いなく──
「……で、その相手って誰?」
ユーニはスプーンを口に運びながら、軽く首を傾げた。
「え? 聞いてないの? サナの相手、ハルトだよ?」
「……はあああああっ!?」
学園食堂に響き渡るような声を上げ、ティアは思わず椅子から立ち上がった。
「は、は、ハルトがサナとデート!? うそでしょ、あいつ昨日私の誘い断ったじゃない!」
カッと頭に血がのぼり、昨日のやり取りが脳内でフル再生される。
──『明日はちょっと予定があって……』
──『買い物? みたいな……』
(そういうことだったの!?)
「……あー……これ、私、言っちゃいけないやつだった?」
ユーニは申し訳なさそうに頭を掻くが、もはや止められない。
ティアの怒りは沸点を越えた。
「街に出かけるわよ! 追いかけてやる!!」
「……ふふ、ティアのそういうとこ、嫌いじゃないよ。私も行く!」
こうして、二人の少女による追走劇が始まった。
街に出かけたハルトとサナ。
しかし、彼らを待ち受けるのは静かなるデートだけではない──
恋の火種は、すでに灯されていた。