揺れる心、動き出す実習
風がざわめき、木々の隙間から柔らかな陽光が差し込む。
学園からほど遠く離れた演習指定区域。ここが、僕たちの初めての**“実戦の舞台”**だった。
ティアと僕、そしてBカップのカップリングペアであるユーニ=グランシェルとサナ=リヴェール。
4人で組んだ特別合同チームの野外実習が、ついに始まった。
---
「ふっふ〜ん! さあ、皆! 安心して私に任せてちょうだい!」
ユーニは自信満々に腰に手を当て、風をまとった杖を振る。
その身にまとう制服のジャケットは短く、揺れる豊かな胸元(Bカップ)がその誇りを語っているようだった。
「うぅ……だ、大丈夫かな……こわいよ……」
サナはというと、ティアの後ろにそっと隠れるように立ち、胸元のリボンを握りしめていた。
その胸元――明らかに重たそうなFカップが彼女の細い体を圧迫しているようにも見えた。
ユーニの魔法属性は風。鋭く俊敏な動きと広域制圧が得意。
一方でサナは水属性。防御と治癒、そして流れるような柔軟な攻撃が持ち味だ。
「ティアちゃんは火でしょ? ハルトくんは……えっと、無属性だっけ?」
「うん、そう。まあ、まだ上手く使えるとは言いがたいけど……」
「ふーん……カップリング相手の魔法、ちゃんと制御できてるの?」
「うっ……そ、それは……その……」
僕はティアの顔色を伺いながら口ごもった。
「……まだ練習中ってとこね。でも、少しはマシになってきたわよ」
ティアはそう言ってくれたが、微妙に視線を逸らしていたのは見逃さなかった。
---
実習の前半は、周囲の地形把握と小型魔物の討伐訓練。
森の小道を進んでいくと、突如茂みから牙を剥いた魔物が飛び出してきた。
「くっ、来た! サナ、後ろに下がって!」
ユーニが風の刃を放つ。
鋭い一撃が木の枝をなぎ倒し、飛びかかろうとした魔獣の前足を切り裂いた。
「ティア、援護! 僕もやるよ!」
「火球、前方に展開!」
ティアの火炎が魔物の動きを封じ、僕は魔力を集中させて自分なりの魔法を――
「くっ……!」
発動寸前、魔力の制御が崩れ、またしてもエレメントが暴れてしまう。
(また……!)
なんとか暴発は最小限に抑えたが、僕の魔法は狙った位置から外れ、魔物の真上を通り過ぎた。
「危ないっ!」
サナの水壁が咄嗟に展開され、僕とティアはかろうじて被害を免れる。
「……ハルト、あんた、もっと慎重にやってよね!」
ティアの叱責に、僕は小さく肩を落とすしかなかった。
(……まだ、僕じゃ皆の信頼には届かないんだ)
---
休憩時間。キャンプ用のシートの上に座り、簡易食を口にしながらユーニはニヤニヤとティアに詰め寄っていた。
「で? ででで? カップリングパートナーとして、どうなのハルトくん?」
「……は? 何が?」
「なにって、朝は誰が起こすの? 洗濯は? 一緒にお風呂とか入ったりする?」
「そっ、そんなわけないでしょ!! な、なんでそうなるのよ!?」
「え〜〜? じゃあハルトくんの寝顔見たことある? とか、一緒に寝たことは? とか──」
「やめろって言ってるでしょーーっっ!!!////」
ティアの怒号が森にこだました。顔を真っ赤にして、両手で自分の頬を叩きながらぷんすかしている。
「ふぇぇ……ティアちゃん、怒ってる……?」
サナはおろおろしながらも、どこか微笑ましくその様子を眺めていた。
(……僕って、まだまだ、彼女の隣に立ててないんだな)
僕は少しだけ、離れた木陰に座って、風に揺れる葉の音に耳を傾けた。
---
そんな和やかな時間の裏で。
森のさらに奥深く、魔力の波長に異常な乱れが生じていた。
──ドクン……ドクン……
不気味な脈動とともに、大地が微かに震えた。
異変に気づいた者は、まだ誰もいない。
だが、それは確実に“迫って”いた。