繋がる魔力、交わる想い
ザカリー=バルハンクのもとで始まった、数日間にわたる魔力制御の特訓。
それは、ただ魔法の使い方を学ぶものではなかった。
「いいか、ハルト。“魔法”というのは発動の前に“整える”ものだ。溢れる魔力をぶつければいいってもんじゃない」
「う、うん……分かってる……つもりだけど、やっぱり難しいな……」
僕は、ひと息ごとに魔力が乱れていくのをなんとか抑えながら、呼吸と集中を繰り返していた。
──そして、彼が時折見せる“ある魔法”。
それは、属性の色もない透明な魔力が、空中で壁のように展開する光景だった。
「……それ、ザカリーさんの魔法?」
「ふむ。まぁ、おまえに今すぐ扱えるものではないが……いずれ教えることになるだろう。“無属性”には、属性の壁を超える技がある」
そう言ったザカリーの眼鏡の奥の瞳は、いつもより真剣だった。
(無属性魔法……もしかして、僕の魔力とも関係があるのかな)
そう思ったが、それ以上は教えてくれなかった。
ただ、ザカリーが時折僕の魔力の“揺れ”を細かく見ては何かを思案している様子は、印象に残っている。
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数日後。
ようやく、魔法の暴発が制御できるようになったと判断され、僕の魔法使用禁止令は一時解除されることになった。
「やった……!」
「おめでとう、ハルト。少なくとも、最悪の状態は脱したようだな」
「ありがとう、ザカリーさん!」
「礼を言うのはまだ早い。おまえにはこれから“魔法を操る理由”が必要になる。その時、本当の意味で成長するだろう」
──その言葉の意味は、まだ僕にはわからなかった。
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学園では、新たな掲示が話題を呼んでいた。
> 『野外実習告知:A〜Dカップリング合同実施』
『対象:魔法基礎実習修了者/魔物との接触を想定した演習』
騒然とする生徒たちの声が校舎中を駆け巡る。
「ついに本格的な魔物戦か……!」
「これは……死ぬやつも出るかもしれんぞ」
僕とティアにも、教員から特別通知が届いていた。
> 『安全管理の観点より、Aカップ:ハルト&ティアにはBカップの協力ペアを随行させる』
「え、Bカップのペアと一緒なの?」
「ふーん。まあ、あんた一人じゃ不安ってことね」
ティアはどこか不満げに言うが、でも以前よりずっと優しい声だった。
(僕がちゃんと、少しずつでも変わってるって、分かってくれてるのかな)
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実習当日を前に、夕暮れの校舎裏。僕たちは合同実習の相手について話していた。
「どんな人が来るんだろうね、Bカップのペアって」
「どうせ胸ばっかデカくて自信満々なやつでしょ。気にしないでね、ハルト」
「え、う、うん……?」
そのとき、二人の影が僕たちの前に現れた。
「あなたたちがAカップのハルトくんとティアちゃんね?」
凛とした声と、整った顔立ちの少女。長い黒髪に紫がかった瞳。自信に満ちた表情。
「私は、Bカップのユーニ=グランシェル。こっちは……」
「ふぇぇ……やっぱり人前こわいよぉ……」
小柄でおどおどとした少女が、背後からそっと顔を出した。栗色の髪を肩で結んでいて、控えめな印象だけど、どこか不思議な存在感を放っている。
「えっと……サナっていいます……お、お手柔らかに……」
──新たなペア、新たな出会い。
次なる実習は、魔法だけでなく“絆”の試練も僕たちに課してくるようだった。