禁じられた魔法と新たなる導き手
学園恒例の初級魔法演習が幕を閉じた。
最下位候補と見なされていたAカップのハルトとティアは、奇跡的な連携で試合を制し、周囲を驚かせた。
だが──
その勝利は、学園側にとって見過ごせない“警告”でもあった。
本選翌日、ハルトは教師陣と学園長から呼び出され、厳重な通告を受ける。
「ハルトくん、君の魔法の使い方は明らかに異常です。エレメント形成が不安定すぎる」
医療魔法に長けた女性教師レーナは険しい表情で言い放つ。
「暴発の状態で魔法を繰り返せば、魔力回路に深刻な損傷を与えかねません。最悪、一生魔法が使えなくなる危険性もあるわ」
そう言って、彼女はハルトに**「無期限の魔法使用禁止」を命じた**。
「い、いきなりそこまで……」
動揺を隠せないハルトに、学園長ゼノンは静かに語る。
「これは君の将来のためじゃ。今は一度、立ち止まる時と知るがよい」
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その後、同じカップ内の生徒たちには重たい空気が流れていた。特にティアの様子が明らかにおかしい。
(私の魔法と混ざったから、成功したんじゃ……私が、あの暴発を助長させたんじゃないか)
無自覚とはいえ、危険な状態のハルトを支えたつもりが、結果的に間違った方向に導いてしまったのではないかという罪悪感がティアを苦しめていた。
あからさまに口数が減り、笑わなくなったティア。
そんな彼女を見て、ハルトはある決断をする。
「ねえ、ティア。今度の休日、ちょっと外出しない? 気晴らしにさ」
はじめは戸惑っていたティアだが、ハルトのいつもの調子に少しずつ心が緩み、二人は外の街へ出かけることに。キールとリサも誘い、4人での小さな休日が始まった。
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にぎやかな市街地。
露店や大道芸、甘いお菓子の香りが漂う中で、ティアは徐々に笑顔を取り戻していく様子だった。
「……ふふ、あんた、やっぱりバカね。禁止されてんのに魔法使って屋台の風船割ろうとするなんて」
「えっ、いや、それは……反射的に手が動いたっていうか」
「言い訳禁止。……でも、ありがと」
「ん?」
「街に誘ってくれたこと。……カップリングパートナーなんだから、って理由でも……嬉しかった」
そう言って、ほんの少しだけ赤くなって目をそらすティア。
不意を突かれ、僕も照れ笑いで返す。
「そ、そんなの当然でしょ。だって、僕たち、パートナーなんだし」
この日、また少しだけティアとの距離が近づいた気がした。
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一方その頃、学園長室では、教師たちがハルトの処遇について協議を続けていた。
「このまま魔法を封じてしまうのは早計では?」
「だが、暴発傾向が強すぎる。何らかの指導が必要だ」
意見が分かれる中、静かに手を挙げた男がいた。
「……学園長。俺に預けてくれませんか。あの少年を」
周囲がどよめく。名はザカリー=バルハンク。
魔法適性ゼロの“無属性”でありながら、盾一つで魔法戦を生き抜き、“最強の無属性使い”と呼ばれた伝説の男。
「俺もかつて、才能が無いと笑われた。だが、あの少年は──間違いなく“何か”を持っている」
ゼノンが、微笑みを浮かべてうなずく。
「よかろう。ザカリーよ、あの子の未来を導いてやってくれ」
新たな師弟関係の始まりが、静かに幕を開けようとしていた──