閑話3:姉妹の見る夢
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【閑話です】
より深く楽しみたい方への特別な贈り物です。
物語の小さなヒントが見つかるかもしれません。
「母さん、またお話ししてよ、じゃないと眠れないの」
夜のしじまに、まだあどけなさの残る、甘えた声が響いた。
「わかったわ。じゃあ二人とも、ちゃんとお布団に入ってね」
温かく、そして少しだけ、子守唄のように柔らかな母の声。
姉の腕の中に、妹が、まるで巣に帰る雛鳥のように、するりと潜り込む。古い毛布の、お日様のような匂いが、二人を優しく包み込んだ。
母は、娘たちの髪を、ゆっくりと、ゆっくりと撫でながら、静かな声で、あの物語を語り始めた。
「――昔、むかし、この世界がまだ若かった頃のお話……」
**
世界には、昼を照らすお日様と、夜を照らすお月様が、仲良く暮らしていました。
お日様は、いつも元気で、その光を浴びた森の木々や動物たちは、すくすくと育ちました。
お月様は、物静かで、その優しい光は、夜に迷う動物たちの道を、そっと照らしてあげていました。
でも、ある日、悪い竜が、お月様を飲み込んでしまったのです。
夜の森から光が消え、世界は、真っ暗闇に包まれました。
動物たちは道に迷い、悪意を持った獣たちが、我が物顔で森を支配し始めました。
森は、悲しみと、恐怖に満ちた場所になってしまいました。
そんな森の、一番静かな場所に、『白沢』と呼ばれる、美しい沢がありました。
その沢のほとりに、一羽の、それはそれは美しい、黒羽根の小鳥が住んでいました。
他の鳥たちは、その子のことを『変わった子だ』と、少しだけ遠巻きに見ていました。
なぜなら、その小鳥は、他の鳥たちのように、美しい声で歌うことができなかったからです。
その代わり、その小鳥には、不思議な力がありました。
彼女は、お日様が沈んだ後も、森の木々がどこに生えているのか、獣たちがどこに隠れているのか、知ることができたのです。
それはまるで、瞳の中にお月様の光が、少しだけ宿っているかのようでした。
黒い羽根の小鳥は、夜の森で迷っている動物たちを見つけると、歌う代わりに、そっと、安全な道を教え、危険な場所を知らせてあげました。
彼女のおかげで、たくさんの動物たちが、悪い獣から逃げることができました。
動物たちは、いつしか、その小鳥のことを、感謝と尊敬を込めて、『小さなお月様』と呼ぶようになりました。
ある日、一匹の賢いフクロウが、小鳥に言いました。
『君のその力は、素晴らしい。でも、君の力だけでは、森全体を照らすことはできないのだよ。』
『飲み込まれたお月様を助け出さないと、この森に、本当の平和は訪れないのだよ』
『どうすれば、お月様を助けられるの?』
小鳥が尋ねると、フクロウは、遠い、遠い、東の空を指さして言いました。
『東の空に、明けの明星が一番強く輝く時、森の奥深くにあるという、お日様を写す銀の鏡が見つけられるのだよ。』
『そして、その鏡だけが、お日様の光を集め、失われたお月様の輝きを、この夜空に取り戻すことができるのだよ……』
『でも、その鏡は、どうすれば見つけられるの?』
フクロウは、答えようと、そのくちばしを、ゆっくりと開きました。
**
優しい母の声が、ふと、途切れる。
隣で、すう、すう、と、安らかな寝息が聞こえ始めたからだ。
母は、眠ってしまった幼い妹の額に、そして、まだ目を開けている姉の額に、それぞれ、優しい口づけを落とすと、ランプの灯りをそっと消し、静かに部屋を出て行った。
姉は、隣で眠る妹の、あどけない寝顔を、じっと見つめていた。
(私が、ちゃんと照らさないと、お月様は光らないのね)
窓から差し込む月光だけが、二人を優しく包み続けた。
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明日から【第二部】を開始します!
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