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魔法のレフ板

〈朝寢してこの世の終はり見過ごせり 涙次〉



【ⅰ】


「僕、安条展典(あんでう・ひろのり)。テンテンつて呼んでね。悦美ちやん」初對面で悦美にこんな馴れ馴れしい口を利ける職業と云へば、寫眞家と相場は決まつてゐる。新進フォトグラファー・安条との悦美のセッションについてお話を一くさり。



【ⅱ】


 誰しも何かに魂を奪はれるやうな、傾倒の經驗はあるだらう。少年だつたらサッカーにバスケ、野球とか、アニメ、ゲームとかだ(と云つて幾らサッカーに傾倒したからつて、誰もがプロサッカー選手になれる譯ではない)。安条にとつてそれは寫眞だつた。彼が斯道で名を知られたのは、彼に才能があつたと云ふ事なんだらうが、彼自身は「魔法のレフ板」のお蔭だと固く信じてゐた。

 このレフ板を使ふと、だう云ふ光學的説明をすればいゝのか、兎に角「ふんはり」とした色合ひで、寫眞が撮れる。どんな狀況下でも、だ。

 で、傾倒、と云ふ事なら彼の場合、寫眞に傾倒する余り、【魔】を呼んでしまつたのか... そのレフ板には【魔】が憑り付いてゐたのである。そのレフ板を使つて撮つた寫眞(生寫眞)を見ると、恐らく魅惑の余りか、「寫眞の世界」に引きずり込まれてしまふ。それはまさしく惡魔的な魅惑なのだつた。



【ⅲ】


 今日もその被害者が一人、謎の失踪を遂げた。それが、悦美ファンの一青年であつたのは、何かの皮肉なのか。

 悦美は安条と、JRと私鉄各社が連盟し依頼したポスターで、共演してゐるのである。大がゝりなプロジェクトだ。勿論、寫眞を撮つたのが安条で、撮られた側が悦美である。「電車で、行こうよ。」とコピーが躍る。

 これが、何らかの賞を受賞するのは間違ひないとさへ云はれた、傑作フォトなのだ。やはり「ふんはり」とした色調が、悦美の美しさを際立たせてゐる。これも「魔法のレフ板」のお蔭なのか...

 失踪者は日に日に増えて行く。焼き増しされた生寫眞が、悦美マニアの間に廣まつてゐたせゐである。「寫眞の世界」に取り込まれてしまつた、哀れなマニアたち。

 世間が気付いたのは、遅過ぎたかも知れない。兎に角、悦美関係の寫眞に、待つたを掛ける聲が上がったのも、無理からぬ話であつた。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈雁供養旅に病む人涙ぐむ 涙次〉



【ⅳ】


 悦美自身ですら、「わたし何か惡い事をしたみたいで、イヤだわ」と云ふ程、被害者は多数出た。彼らが持つてゐた生寫眞を見れば一目瞭然なのだ。寫眞には、「取り込まれた」被害者が冩り込んでゐる。然し何故か風評ばかりが立つが、それも實際その寫眞を見て云つてゐる譯ではない。これもまた、おかしいと云へばおかしい。

 テオなどは、これは絶對に【魔】の仕業だと、断定してゐるぐらゐだ。その聲の髙まりに沿つたカタチでの、カンテラの出馬であつた。



【ⅴ】


 カンテラの八卦には、やはり「生」と出た。すぐに手配して、生寫眞を見たのは正解だつた。

 一目見れば分かる。それには被害者の哀れな、「寫眞の世界」に取り込まれた姿が冩つてゐた。そこから推測すると、安条が【魔】の1・2匹飼つてゐるのは自明過ぎる程、自明だつた。

 すぐさま安条のスタジオに踏み込んだカンテラとじろさん。「な、なんだなんだお宅ら!!」-注意して見ると、【魔】を見慣れた目にははつきりそれと分かるのだが、レフ板がだうやら怪しい。だうにも、安条が大事にし過ぎて(まるで崇拝するかの如くして)ゐる様が、臭いのである。

 じろさんがぐい、ずるりとレフ板より引きずり出したのは、「光學魔神」だつた(これもはぐれ【魔】の一員)。「げ、カ、カンテラと此井!!」かうなると呆気ないもので、後はカンテラがそいつを斬つて終はり、以外にはないのである。「しええええええいつ!!」「光學魔神」は乱叛射を殘して、この世を去つた...。

 因みに、「光學魔神」が最期を迎へたその事で、被害者全員現世に帰つて來たのは云ふまでもない。



【ⅵ】


 云ふ迄もない、と云へば、仕事の料金を支払つたのは彼ら悦美マニア達だつた。だが、そこには、女性アイドルのマニアらしい、一抹のマゾヒズムが感じられたのも、これまた云ふ迄もない事だつた。


 

 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈マニアック濱の眞砂は盡きるとも世に石川のマニア盡きまじ 平手みき〉



 お仕舞ひ。

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