ALL機械製造マシン(形状左手)
僕はお父さんを探していた。どうしても伝えたいことがあった。
「父を知りませんか?」
聞くのは、これで10人目だ。僕が会社でうろつくのが、皆の日常となり、
「ああ、社長のとこの次男坊ね。どうも社長の意向らしいよ。社会勉強だってさ。」
と、勝手な噂が流れていた。
「さあ、知らないなあ・・」
得する確率100%の駒野さんが眠そうな目で答えた。なぜこの人が得する人なのかわからない。しかも100%は駒野さんだけだった。申し訳ないけど子供の僕から見ても、とても仕事が出来そうには見えなかった。謎である。
それにしても、お父さんはどこにいるんだろう。誰もお父さんの居場所を知らなかった。あと探していない場所は倉庫だけだ。僕は一度も行ったことがない。駒野さんに場所を聞き、倉庫へ向かった。入口がわからなくて途中で同じ場所をグルグルしてしまうハプニングはあったものの、僕は無事に倉庫にたどり着くことが出来た。
臭覚があったら、きっとむせていたに違いない、ごちゃごちゃとした狭い通路を進む。少しひらけた場所へ出ると、そこにお父さんがいた。死んだ魚のような目で、うずたかく積み上げられた金属の部品のようなものをボーっと見上げている。
お父さんは僕に気づくと
「ああ、のぼるか・・最近会社に出入りしているらしいな。」
と力なく笑い、
「会社、大丈夫なの?」
と僕が聞くと、金属の山を見上げながら
「・・どうしたもんかな、、もうダメなのかもしれないな・・」
と弱弱しく言った。少し涙目だった。
僕はどうしても伝えたいことがあったが、そんなお父さんを見ていたら言う気が失せた。こいつはもうダメだとクルリと向きを変えると、うちに向かって走り出した。お父さんを慰めるような心はなかった。結局お父さんに会ってわかったことは、タイムリミットが迫っていることだけだった。
会社をたたむべきか、続けるべきか、万能計算機が出した答えは後者だった。お父さんに「会社をつぶしちゃだめだ」と伝えようと思ったが自分で何とかするしかない。お母さんもふさぎ込んでいるし、全く頼りにならない。
僕の人生、とばっちりを受けるのはごめんだ。
うちに帰ると、僕は真っすぐに自分の部屋へ向かい押し入れを開けた。無かったらどうしようかと思ったが確かに存在していた。ロボットから貰った左手だ。見た目ほど重くはない。僕は左手を持ち上げ、机の上に置いた。よく観察してみる。左手マシンは、手の部分と腕の部分で構成されており、腕側の先端部は丸くなっていた。どうやって動かすんだろう・・スイッチらしきものを探したが見当たらない。もしかしたらあれか?接触スイッチみたいな?触覚必要?それは関係ないか・・。左手マシンを持って上げ下げしてみる。すると、腕側の先端の丸みを帯びた部分がポッと明るくなった。と同時に左手マシンは起動し指を足みたいにして机の上を走り出す。
うおお、動いた。僕は左手を追いかけるが、そいつはまるで僕の部屋を調べるかのように、壁やら床やらベッドやらを走り回っていた。ついでに僕自身も調べられ、しばらくすると気が済んだのか、静止した。何なんだこいつは・・・僕が再び、腕の上部、丸みを帯びた部分を手で包み込むと、またポッと起動した。どうやら体温で反応するのか?それとも僕の指紋認証か?ちょっとよくわからなかった。
「お前はなんだ?言葉通じる?」
声をかけてみたが反応はない。「元気?」とか「ヤッホー」とかアホみたいに、いろいろ話しかけてみたが、どうやら声は認識していないようだ。とすると、、どうやって指令を出すのか・・僕は何か手掛かりを見つけるべくスマホを取り出し検索しようとした。すると左手マシンが僕からスマホを取り上げ床に置き、指でトントン叩きだした。どうゆうことだろう?何か文字が打ちたいのか?でも指がごついからスマホで文字は打てないようだ。僕は壊されたらたまらないとスマホをそいつから取り上げた。何トントンしてんだよ・・見ると左手くんは、まるでパソコンを叩いているかのような動きをしている。そうか!キーボードか。キーボードで何かメッセージをくれるのかな?
パソコンか・・・小学生の僕がパソコンなど持っているはずはなかった・・・。うーん、どうしよう?お父さんもお母さんもうちにはあまりいないからパソコンは会社に置いている。お母さんの古いノートパソコンはあるかもしれないけど、どこに閉まっているのかわからなかった。残るはお兄ちゃんか・・。
なかなか先に進めない状況に僕は焦っていた。
でも、あきらめるわけにはいかない。
僕は左手マシンを持つと、お兄ちゃんの部屋へ向かった。