表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ballare!  作者: ポメ
4/18

万能計算機

 それに気づいたのは、全くの偶然からだった。


 その日僕が学校から帰ると、めずらしく人がいた。玄関にいくつかの靴がそろえられていたのだ。そっと和室の方に行ってみると、声が聞こえる。僕はふすま越しに様子を窺った。どうやらお父さんの会社の人たちだ。お父さんとお母さんもいるようだ。みんな神妙な面持ちで話し込んでいる。この間お兄ちゃんが言っていた発注ミスの事だろうか。僕は全神経を耳に集中させ、ふすまの隙間にぴったりとくっついた。触覚は無いが圧力は感じる。奇妙な感覚だ。僕は一生懸命、言葉の破片を集めてみた。

「会社」「存続」「ほかの選択肢」「赤字」「倒産」「難しい」

以上の言葉から察すると、うちの会社はかなり、やばい状態だということか。このままだと、よくドラマとかで出てくる「夜逃げ」とかしなければいけないのだろうか・・・。そんなのは嫌だった。


 いきなり、ふすまが開いた。目の前に叔父がいた。僕は慌ててたのか瞬時に頭に手を当てた、と、その瞬間、僕の視界の中に数字が飛び込んできた。ジジジ、ジジジという電子音とともにデジタルな光る数字が、2つ浮かび上がる。その数字は少しした後、はっきりした数字をはじき出した。


gain 0% loss 76%


僕の視界に、そう表示されると、次の瞬間消えてしまった。


 僕はしばらくボーっとしていたのだろう。叔父の声で我に返った。

「のぼる、どうした?」と言われ

「あ、叔父さん、こんにちは、ちょうど今帰ったところで・・」と言うと、叔父は僕の顔をじっと見て

「盗み聞きは良くないな。顔に線がついてるぞ」と言われた。

「え?あっどうも」そそくさとお辞儀をして、その場から離れた。

顔に線・・?鏡を見てみると、ふすまに押し付けた時についたのか、顔に線がしっかりとついていた。触覚が無いと加減がわからなくなる。

 それにしても、今のは何だったんだろう・・・よくわからなかったが英語も表示されていた。gから始まる言葉と、loss・・ロスならわかる、失くすみたいな意味だよな・・・あ!僕は思い立つと、即座にスマホで検索する。翻訳ページを出し調べてみる。

損 → loss

と出てきた。となるとやはり・・

得 → gain

ビンゴだ!得って英語でgainていうんだ・・。と、言うか、損得計算機だー!違った、万能計算機だっけ?どっちでもいいけど、あったんだ。やっぱりあったんだ。嘘じゃなかった。ロボットは約束を守ってくれたのだ。

 あの朝から、とにかく最初は新しい自分の体に慣れる事で大変で、他の事はすべて後回しになっていた。ロボットがくれた左手に関しては、シーツにくるんで押し入れの中に閉まっている始末だ。ただ言語能力は身についていることは自然とわかったが、万能計算機については本当に搭載してくれたのかがわからなかった。

 どうしていきなり出てきたんだろう・・?あの時の状況を思い返してみる。叔父の顔を見ながら、どうしてたんだっけ?うーん、ああ、どうも頭に手を乗せていたような気がするが・・・思い出せない。それにしても叔父の確率も気になる。gain0%って事は得する確率0%?一緒にいて得しない相手ってこと?叔父が?叔父はお父さんの会社で働いている。僕はお正月に会うくらいで特に面識はなかった。お年玉はくれたから、少しは得しているはずなんだけど・・?本当に万能計算機は信じられるのだろうか?疑問だらけだった。


 その日から僕は、万能計算機を使ってみたくて、いろんな人の顔を見て、いろいろ試してみることにした。クラスメイトや先生、ご近所の人たち、時には道で会った人の顔をじっと見て、睨まれたこともあった。普段、どちらかというと他人に興味がない僕が、突然顔を覗き込んでくるものだから、周りの反応は「とまどい」と「後ずさり」しかなかった。僕のあだ名は「変人」から「変態」へと変わったが、おかげさまで傷つく心は無かった。

 その結果わかったことは、顔を見ながら「つむじ」を押すと数字が出てくることだった。簡単だが、偶然が無ければ一生わからなかったかもしれない。何しろロボットは説明も取扱説明書も残してくれていないから、僕は手探り状態だ。全く不親切にもほどがある。


 僕は、叔父の件があったので、お父さんの会社の人たちで万能計算機を試してみることにした。会社と言っても家のすぐ近くにある、工場と事務所と倉庫から成り立つ中小企業だ。僕は学校から終わると会社へ行き、いろんな人の顔を覗き込んだ。変な顔をされたが、みんな忙しそうで僕に構っている余裕は無さそうだった。僕はついでに探偵のごとく、顔、名前、役職まで調べあげていった。

このまま、負け組なんて絶対嫌だ!

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ