その後のぼく
ロボットの言った事は本当だった。
あの日、ロボットは、僕に超合金の骨を見せてくれた。骨と言うから腕の骨だと勝手に想像していたが、ロボットがくれたのは人差し指の骨だった。何だか詐欺のような気もしたが、確かに骨は骨なので文句は言えなかった。ロボットは医療技術にも優れていたらしく、僕の体に「超合金の骨」と「言語能力」「万能計算機」を施すと言った。僕は少し怖くなったが、ロボットが「おまけの左手だけは別に与える。普通の人間の体では、フル稼働できない」とブツブツ言っているのを見たのが最後で、急に眠くなった。その後の事は、よく覚えていない。目覚まし時計がうるさく鳴り響いて、気が付いたら僕は自分のベッドにいた。ロボットとのやり取りは夢だったのだろうかと思ったが、次の瞬間そうではないことに気づいた。
__あったのだ。机の上に、ロボットの左手が・・・
何と言ったらよいのか、その存在感はすごかった。昔映画で見たような未来の金属みたいな銀色に光る物体だ。ごつごつした指と筋肉ばった形状の腕は大部分が銀色の光る金属で覆われていた。そして所々に透明のプラスチックのようなものに覆われている部分があり、中が透けて見えていた。
それは、いつもの僕の部屋の風景に無遠慮に存在しており、全くなじんでいなかった。
「と、すると・・。」僕は即座に自分の指を見た。なるほど、、左手の人差し指に重みを感じた。ベット際の壁をとんとん叩いてみた。何とも言えない、壁が指に吸い付くような重みがあった。同時に自分の指の感触もなくなっている事に気づいた。指だけじゃない、全身の触覚が無くなっていた。ベッドの柔らかさも感じない、その奇妙な感覚は他の何にも形容しがたく、もちろん生まれて初めての感覚だった。慣れない体で階段を下りてみる。いつも通り、リビングには誰もいなかった。夜遅く帰っても誰も気づいていないだろう。しかし、昨日はどうやって帰ってきたのだろう。謎だった。ロボットが運んでくれたのだろうか・・。
僕はお腹がすいたので朝ごはんのシリアルをよそって食べてみた。匂いについてはシリアルだし、よくわからなかったが、どうやら舌の触覚は残してくれたようだ。きっとロボットには必要ないからだろう。味覚はあるのに舌の感触が無いのは、おそらく残念なので、大変ありがたかった。
それから僕は新しい自分の体に少しずつ慣れていった。退屈な生活が一変して新しい世界になった。心をなくした僕は、いじめっ子に震えることもなかった。ある日いつものようにトイレに連れ込まれ僕を蹴り続けるので、「やめろ」と左手でガードしたら、人差し指がそいつの顔面にあたってしまい怪我をさせてしまった。超合金の骨の威力は指1本でも十分強かった。その後、お母さんが学校から呼び出されたが、幸いにもケガは大したことはなく、僕は謹慎処分で済んだ。お母さんにばれるかと思ったが、同じ頃、うちの会社で発注ミスがあり、僕の問題どころの話ではなくなったのだった。
こうして僕は、臭覚がなくなり、触覚がなくなり、心をなくした代わりに
超合金の骨1本(人差し指)
言語能力(120ヶ国語)
万能計算機
ALL機械製造マシン(形状左手)
を手に入れた。