温度差
「こら、起きなさい」
近くで先生の声が聞こえる。ええと。あ、そうだ授業中だった。起き上がると、クスクスという笑い声が聞こえた。昨夜の疲れのせいか体がだるい。
昨日あれから、マッスルと一緒に、クックポンの大量生産にとりかかったが、1時間かかって出来上がったのは、わずか20台だった。単純計算で1台作るのに3分時間が、かかっていた。このままでは明け方まで終わらないと考えて、試しにマッスルへの説明文に倍速モードを入れたところ、1台40秒で作成できた。(それ以上早くしようとするとクックポンが変な形になったりしたのでやめた。)僕は、マッスルに電気ストーブで十分休憩させた後、朝までに何とか526台製造をやりとげたのだった。
ふらふらしながら体育を受け、学校が終わると真っ先にうちに帰った。僕のあだ名はカラスから怪獣グースカに変わった。
家に帰ってすぐに僕は会社の倉庫へ向かった。作ったクックポンをどこかへ移動させなければいけない。朝どこかへ運ばなきゃと思ったのだが、元気もなかったし面倒くさかったのだ。ふだん倉庫に人がいることはほとんど無かったので1日くらい大丈夫だろうと思っていた。倉庫に着いて、自分の考えが甘かったことに気づく。人の話し声がしたのだ。すかさず影から様子を見た。
お父さんがいる・・。あともう一人源さんもいるようだ。源さんは物作り40年のベテランで、数少ない得する確率の人だった。何パーセントかは忘れたけど・・。
お父さんにばれてしまった。どうやって説明したらよいのかわからない。このまま知らんぷりすることも考えたが、クックポンの行方を考えると、やめた方がいい気がした。でもマッスルの事がばれたら、きっと全ての事を話さなければならなくなるし、どう説明していいかもわからなかった。僕はどうしたらいいかわからなくなり、倉庫の外に出た。
「教えて」
と声に出す。即座に万能計算機が声に反応し、「選択肢をお聞かせください」と言われた。万能計算機は”おしえて”の4文字に反応することがわかっていた。僕はお父さんに本当の事を伝え方がいいのかどうか万能計算機に確認したが答えはNoだった。
次の質問を考えて「教えて」と言ったら
「何をだ?」
という声が頭の上で聞こえた。お父さんだった。
「いや、別に何でもない」
と僕が言うと、お父さんは僕をじっと見て
「・・・のぼるなのか?のぼるが何かしたのか?あそこにある製品は一体なんだ?発注した部品はどこへいったんだ?」
と言った。僕が答えないでいると、源さんがクックポンを1台持って、倉庫から出てきた。
「社長、これは、おそらく調理機器だと思いますよ。」
と言った。
「調理機器?」
とお父さんが聞くと
「ええ。私は長年いろんなものを見てきたが、こんな精巧な作りをしているものを見たことがない、、よく出来ている。どうやって作ったのか全く分からない・・。」
と感心している。
そこへ武智さんという社員さんが走ってきて、
「社長!奥さんが至急事務所に来てほしいそうです。なんかクックポ?ていう物の問い合わせ殺到しているようで、教えてほしいって。」
「クックポ?いやちょっとわからないな。」
お父さんは困っている。
「僕わかるよ」
そう言うと、僕は事務所に向けて駆け出した。とにかく、その場から逃げようと思った。
それからは大変だった。僕がクックポンについて説明しながら、お母さんは電話対応した。電話が鳴りやまないものだから、お母さんに詳しく説明する暇もない。だから電話で質問がくる度にお母さんに説明した。就業時間が終わるころには、お母さんはクックポンについて一人でも電話対応できるようになっていたが、同時にすっかり疲れ果てていた。
その日の夜、お父さんがめずらしく僕の部屋に来た。すごく機嫌がいいようだ。
「ちょっと、いいか?」
「う、うん。」
「あの製品のことだが、クックポン・・か?ホームページで販売したのはお前か?」
僕はうなづいた。
「526台注文が来ていたが、倉庫で数を数えたら、そのくらいあったようだ・・あの製品は、のぼるが作ったのか?」
僕が答えないでいると
「源さんも感心していた。とても人間技とは思えないってさ。一体どうやって作ったんだ?」
と言った。僕は何も言えなかった。
「・・・言えないのか?」
僕は沈黙するしかなかった。なんて答えたらいいか、わからなかったし、マッスルの事も言う訳にはいかなかった。僕の顔がだんだん険しくなってくると、お父さんは慌てたように
「わかった。法は犯していないんだな?何か悪いことはしていないな?」
と言い、僕がうなづくと、
「そうか、ならいい。もう何も聞かない。」
と言った。まるで、このいきなり訪れた、すばらしい夢が冷めるのを恐れるかのようだった。僕にとっては都合が良かったが、同時に、お父さんのその確認不足が発注ミスになったのでは・・?と意地悪く考えたりした。
「あとはお父さんが引き継ぐから、いいな?商品化は簡単なことではないんだ。販売するまでに安全性を何度も確かめる必要はあるし、販売した後もメンテナンスとかいろいろあるんだ。そこら辺は何とか源さんの方でやってくれるみたいだから安心しなさい。」
と言い、嬉しそうな顔で
「とにかく、ありがとな。のぼるのおかげで父さん助かったよ」
と涙目で言った。
僕は、お父さんと一緒に喜びを分かち合うことができずにいた。
心が無いせいなのか、わからない。
果てしなく温度差の違う親子が、そこにいた。




