初受注
「よし!これで準備完了・・かな?」
範囲を半径3Mに設定し、念のため床に目印のテープも貼っておく。
僕は倉庫にいた。時間は深夜0時。誰もいない時間だ。
カレーライスの試食は、工場に来ている掃除のおばちゃんにお願いすることにした。おばちゃんは、いつも直球だ。僕が元気でも、そっけなくても構わず話しかけてくる。
「あら、のぼるちゃん、いらっしゃい。調子はどう?あらこれ私に?カレー?のぼるちゃんが作ったの?やだ!いいの?1食分助かっちゃうわ~」などと言いながら1口食べて、
「うん、、おいしいわ、おいしいけど、あれね?これジャガイモの芽が取れていないわね?それに何だか、う~ん、これ炒めた?なんか変な感じするわね。」
と言った。おばちゃんという人種は、心の中の声がストレートに出てくるから、本当に助かる。特に僕みたいな面倒くさがり屋にはありがたい人種だ。僕はカレーを炒める手順をすっかり忘れていたこと、ジャガイモの芽を取ることなど、クックポンの調整が必要なことが分かった。フムフム、僕は一応メモった。
「あ、あと灰汁を取るの忘れちゃダメよ。」
「アク?アクって何?」
おばちゃんの灰汁取り口座はお昼の休憩が終わるまで続いた。僕はメモしながら、マッスルに指令を出す説明文を作成した。こうして僕は、微調整を繰り返しながら、おばちゃんに試食してもらい、クックポンを何とか満足できるものに仕上げていった。その間、その他の資材集めも続けていた。もちろんあだ名はカラスだった。
仕上がったクックポンを見て僕は、どうやって売ろうか考えた。そもそも小学生の僕に販売する権利はあるのか・・?でも、お父さんに相談する気はなかった。僕は全部自分でやってやろうと決めていたのだ。お父さんの会社では、直接商品の販売はしていないし、、そもそもホームページとかあるのかどうかも疑問だった。僕は”有限会社ハマテツ”と入力して、スマホ検索してみた。
「あ・・・あった。」
小さな会社ながら、しっかりとホームページは開設していたようだ。ただ開いたホームページ画面は残念な内容だった。全体より少し大きな字で「有限会社ハマテツ」とあり、載せている情報は所在地や連絡先くらいで、地図さえ掲載していない。もちろん会社のロゴとかそんなものもない。何とか、このホームページ内にクックポンを掲載して、ネット販売できないだろうかと考えた。僕はまずホームページを修正しようと思い、そのための方法や必要なソフトなどを調べた。以前とは違い、僕はパソコンにも詳しくなっていた。
僕はクックポンの写真を数枚撮り、会社の事務所へ行った。お母さんがいたが、いつも通り電話中だ。 僕を見る余裕すらない。こっそりパソコンを立ち上げた。パスワードはふせんで貼ってあった。面倒くさがり屋の血筋だ。思った通りホームページ作成ツールがあったので内容を変更する。クックポンの写メも載せて、値段はよくわからなかったので5万円とした。一応検索で引っ掛かりやすいように工夫する。僕は変更を更新して事務所を出た。それから数日間ホームページを見守ったが、まるで反応は無かった。こんなんで売れる訳ないか・・・と、その時は半分あきらめ、ホームページも見なくなっていた。でもしばらくしてホームページを確認したら注文が、なんと526台も来ていたのだ。僕は即座にホームページを更新し、クックポンを販売停止にした。これ以上増えたら大変だ。その日から、526台クックポン制作大作戦が始まったのだった。
で、現在に至る。僕は倉庫内を見回し、漏れが無いことを確認すると、スマホの入力画面に526と打ち込んだ。大量生産は初めてだがうまくいくだろうか・・・?作業の流れはこうだ。半径3M以内に材料を入れ、マッスル君がクックポンを作成する。出来上がったら僕が運び出し、材料が足りなくなったら補充する。
ウィーンという音と同時にマッスルが張り切りだした。
夜中の倉庫で、ひとりの人間と左手の奇妙なマシンの挑戦が始まった。




