まだ早いと言われたが、もう遅い
ちょいぐろ。
「…お前だけでもいけ、まだ間に合う…」
下半身を削られ、息も絶え絶えな仲間が俺にそう言った。
…いや、もう遅いよ。俺たちは道を間違えた。僕らが見ていた明るく輝く未来は、確かにそこにあった。でも、僕らはその手前の落とし穴を、明るさで見失っていたんだ。そして、その穴は何処までも深く、底はなかった。明るく輝くそれだけを見ていたせいで、俺らは二度と戻れない。
…そんなこと、面と向かって言えるはずがない。
けど、そんなことを考えてしまうほど、状況は絶望的だった。
俺たちのパーティーは、世界有数の難易度を誇るダンジョンに来ていた。
そこは、俺たちの実力なら十分対処できるはずだった。少々危うい部分もあったが、なんとかなるだろうと皆、確信していた。
それほど俺たちは強く、そして盲目だった。
…いや、俺たちではないな。リーダー以外のメンバーだ。
リーダーは、何が起こるか分からない。十分に注意すべきだと口うるさく何度も訴えた。
俺たちはそれを、蔑ろにはしていなかった。しかし、甘かった。
できることを全てしたか?と問われたら、俺たちは快く頷けないだろう。それほど、詰めが甘かったことを、今、この瞬間思い知らされた。
俺たちは順調に階層を突破し、その奥へ、奥へと、足を止めなかった。
休憩は取ったが、それは踏破による名誉というものが、焦りと興奮を生み出し、十分とは呼べるものではなかった。
その結果が今の現状だ。
突如として壁を突き破り現れた、半人半牛によるダンジョンの反撃が行われた。
俺たちは狼狽えながらも、必死に抵抗した。
しかし、相手は尋常ではなかった。普通の半人半牛であれば、疲れていたとしても余裕を持って倒せただろう。だがそれは、一切の知性を感じられなかった。
獣であろうと、ある程度の知性、理性がある。実際、勝てないと判断した相手からは、尻尾を巻いて逃げる。
それを、相手からは感じられなかった。
自身の、相手を殺し、喰らいたいという欲望を抑えられないまま、その感情に則って行動していた。それは、言うことを聞かない機械のように、暴れ回った。
まず、前線の対処が遅れた。
登場と同時に、前衛が姿を消した。
その巨体の登場を祝うかのように散った花吹雪、かのように見えた壁のかけらの一つ一つが弾丸のように降り注ぎ、仲間を反対側の壁へと押し潰した。
次いで、敵がその姿を現した。5mをゆうに超える巨体と、それをも上回る大きな斧を、登場とともに、意図も容易く振り下ろした。
それは、重力に従い、それをも力として地面に叩きつけた。
轟音と共に、地面は揺れ、土埃が舞い、衝撃波を産んだ。俺は一瞬、身動きが取れなかった。
間一髪、リーダーがその刃先をずらしたことで、前線に立つもう1人の味方は生きていた。
「防御重視!!後衛による攻撃を軸に、前衛は錯乱、隙を見て攻撃!!!」
それが空気を伝って、全員の脳に届いた瞬間、皆が一斉に動き始めた。
中衛の俺と前衛の仲間は、距離を少し取り、後衛の魔法使いが、即座に炎の槍の流星群を生み出した。
流星群は一つも欠けることなく、敵に降り注いだ。
まずはの試し撃ちとして放たれたそれは、生半可な敵は生きていられない火力。
どれだけ傷つくかによって、行動を変えるつもりだった。
ごっそりと、皮膚が抉れ、焼け爛れたならそのまま続行、あまり入っていないなら、前衛の動きやすい環境を作る。そう考えていただろう。
結果は、予想通り、悪い方へと傾いていた。
敵の皮膚に火傷を負わせことはできたものの、重大なダメージを負わせるに至らなかった。
「ちっ…これはこれは面倒だな…」
魔法使いがそうぼやく。それは、俺たちの耳にもはっきりと届いたが、続く敵の咆哮が全てを掻き消した。
欲望に、怒りが混ざった敵は、即座に行動を開始した。
1番近くにいる仲間へと、その巨体を大きく揺らし近づく。
一歩、また一歩と足を踏み出すたび、地面が揺れ、一歩が大きいため、一気に距離が詰められる。
「ガアアアアアアアッ!!!!!」
一撃、振り下ろされたそれは、味方の真横を掠める。
瞬間、魔法が敵に命中する。
振り向き、新たな獲物を見つけた敵は煩わしそうに、咆哮。
その目に映ったのは、光り輝く槍。
「ガアッ!!!」
隙を晒した敵に、俺たちの総攻撃が浴びせられる。
少しずつ、しかし確実に敵に傷を付けていた。
ここまでは、順調だった。ここまでは。
警戒はしながらも、各々のスキルを駆使し、確実に攻撃を入れていく。
地を翔り、剣を振るい、皮膚を裂き、血を撒き散らす。
敵が斧を振りかぶるも、その寸前に魔法が飛翔し、邪魔をする。
勝てる。皆そう確信していた。
それは、分かり切った油断だった。
俺たちの見事な連携により、隙を晒し続けていた敵は、突如として動きを止めた。
俺たちは不審に思いながらも、宙を舞う魔法に合わせ、再び攻撃を仕掛けようとした。
しかし、それが間違いであったことを、すぐに理解させられた。
呆気に取られた声、悲鳴、ついで轟音が鳴り響いた。
なんと、敵は魔法を弾いたのだ。そして、勢いを止められない味方を、宙に放り投げた。
宙に浮いた味方の顔は忘れられない。自由を奪われた鳥のように、不自由な羽を羽ばたかせるも、そこに地面は迫ってきていた。
その時は寸分だけ速く訪れた。
敵は自由を失った味方を、周りを飛び回る羽虫のように、地面に叩きつけた。
衝撃波が、砂埃を伴ってたどり着いた。
それには、若干と感じる血の匂いがあった。
呆気に取られた俺たちは、取り返しのつかない隙を晒し出してしまった。
瞬間、敵はその大きな斧をバットの様に振り回し、魔法使いに向けて巨大な岩石を飛ばした。
「あっ」
そのつぶやきは、誰から発せられたかわからなかった。けど、それは嫌にみんなの耳に響いた。
再び轟音、そして、空気を裂く音が空間を響かせた。それは、希望が崩壊する音にも聞こえた。
そして、そこには上半身を失い、慣性のまま倒れ込む魔法使いだった者があった。
あとは、崩落の道を辿るだけだった。
隙を生み出しにくくなった、いや、生み出せなくなった俺たちを、怪物はただ蹂躙するだけだった。
斧を思うがままに振い、体を切り裂き、血肉を撒き散らす。
攻撃を加えることは、逆に相手に隙を晒す行為へと、成り代わってしまった。
一番、悲惨だったのは、リーダーだろう。
諦めず、何度も攻撃を加えるリーダーを、敵はただの食事の前菜にしか見えなかったようだ。
敵は、リーダーを片手でつまみ、そのまま口に放り込み、咀嚼した。
血が、肉が、髪の毛が、辺りに飛び散った。
ベッタリと、自身の頬についたそれは、拭っても拭っても、恐怖と暖かさはいつまでもそこにあった。
味方の1人は、大きな斧で下半身を潰され、もう移動することすら許されなかった。
「…お前だけでもいけ、まだ間に合う…」
もう無理だよ。それは、口に出さない。
ただ淡々と、俺は敵への攻撃を続けた。
「…俺は、お前がいてくれてよかったよ。お前が俺たちを笑わせてくれたおかげで、ここまで来れた。わかってるだろ?お前がいつまでも俺たちのパーティーにいたのは、その雰囲気を作り出せる力だったんだよ」
味方が何か言ってるが、全て聞き流す。
わかってる。俺は弱い。パーティーの中でも一番だと、自分でも自覚していた。だから、皆んなが一番いい状況で戦えるように、気持ちを通じ合えるように、頑張ってきたんだ。
「ありがとう、お前のおかげでここまで来れた。笑って。お前には、それが一番似合ってる」
そう言うと、味方は一言も話さなくなった。
頬を水滴が伝うのを感じた。
俺は、自分の頬を伝うそれは、戦いによる汗だと言い聞かせた。
轟音、次いで最後の一人が息絶えた。
笑って、か。誰がこんな状況で笑える?
パーティーは俺以外全滅。生還も絶望的。
「ははっ。くそだ」
それでも、なんとか笑おうと頑張った。
「笑えないな…」
顔は涙で汚れ、引き攣った笑顔しかできない。
これが、現実か。
「…やるか」
見上げなければいけないほどの巨体は、まるで一種の彫刻にも見えるほどの美しさと悍ましさを兼ね備え、見るものの心に絶望を植え付ける。
俺は、覚悟を決め、精一杯の笑みを作り、敵に向かって突撃した。
しかしそれも、あっけなく敵に跳ね返され、無駄に終わる。
「ははっ…」
痛い。苦しい。それでも、笑みは消せない。
これは俺が俺であるための、俺がこのパーティーの一員であるために、決してなくてはならないものだから。
…ああ、短い人生だが、楽しかった。
諦め、眠りにつこうとした。
その時、
『スキル、道化師を入手しました』
何処からか声が聞こえた。
瞬間、体中を、耐え難いほどの幸福と、力が漲った。
それは、神が俺に垂らした操り人形の糸。しかし、圧倒的な耐久性と、太さを兼ね備え、天へと昇るのは確実と思えるほど仕組まれているようにも感じた。
なんだこれ。スキルを新しく得たのか?しかし、道化師ってなんだよ。
痛み、疲労は消えて、体の奥底から笑みが込み上げてくる。
まだ間に合うってことか?じゃあやってやるよ。
俺は勢いよく起き上がり、自身の武器である小さな短剣を強く握りしめた。
もう、止まれない。
壁を走り、一気に怪物との距離を詰める。
そして、地面に落ちている味方を喰らう怪物の頭に短剣をブッ刺す。
「ガアアッ!!!!」
予想外の攻撃に混乱するも、怪物は自身の頭を叩く。
「ハハッ!当たるかよ、カスがッ!!!!」
飛び上がって天井に足を着け、力強く踏み込む。
大きな凹みを生み出し、弾丸が、飛び出す。
俺は自身の力を短剣に纏わせる。
ゆらりと、淡く輝く陽炎が剣に纏わりつき、脈打つ。
圧倒的な質量と質量が衝突し、衝撃波が吹き荒れる。
壁は凹み、地面は揺れ、物体は等しく吹き飛ぶ。
圧倒的不利な状況だというのに、笑いが止まらない。
それに伴って、力の上昇も止まるということを知らない。
時間が経てば立つほど、俺の力は増していく。
徐々に、しかし確実に押し返す。
翔り、大胆に、そして美しく、怪物を相手する。俺は、大胆不敵に、空を踊る。
空をも、地面のように感じられるほど、体は軽く、思った通りに動く。
そして遂に、怪物の斧を破壊した。
「これで終わりだッ!!!!」
思いっきり短剣を振りかぶり、指向性を伴ったエネルギーの刃を飛ばした。
一刀両断。
怪物は体を綺麗に2つに割り、内側からとめどなく血と内臓が溢れる。それは、一つの泉のように、その場を赤黒く染まった水で埋め尽くしていたった。
「…やったよ」
いつもなら、強敵を倒せば味方から歓声があがり、皆で勝利を祝った。
だが、今はもう誰もいない。
勝利の宣言をするリーダー。後ろから近づいてくる魔法使い。俺の安否を確かめる仲間。
全ていなくなってしまった。
残ったのは俺と、微かに残る仲間の血、肉、臓器、髪の毛、防具、武器。そして、全員がつけていた、光り輝く、栄光を讃えるバッジ。
俺は、それを一つ一つ拾い上げ、集めた。
もうどうしようもないが、せめてあいつらが生きていた印だけは残しておきたかった。
悲しさと寂しさが何度も、感情というダムに押しかけてきた。
だが、それは全て、楽しさという感情の統率者に鎮圧され、それしか残らなかった。
一生、俺は泣けなくなった。何があってもこの楽しさはいつまでも、俺の中に居座り、他の人間どもを王様一人が全てを決め、好き勝手にする独裁国家のように、全てを統治する独裁者のように、押し殺していくだろう。やがて、俺の中には、必死に抵抗する感情すら表れなくなるのかもしれない。それだけは嫌だ。
もし、そうなったら、俺は人ではなくなってしまう。人の見た目をした、化け物になってしまう。それだけは、嫌だった。
だから、これを集めた。
これがあれば、沈黙していた感情たちが、過去の事を理由にまた奮起してくる。たとえ、独裁者が殺そうとも、ひっそりと、しかし確実に生き続けるだろう。
「ああ、やはりクソだ」
笑うことしかできない。かろうじて苦笑いはできた。だからなんだ。
味方の遺品を集めている時、下半身を失った仲間の死骸があった。その顔は、清々しく笑っていた。
俺は、こんな風に笑えているのだろうか。作り上げた笑顔は、こんなに美しく輝けるだろうか。
お前は、誰かを笑わせるために生きてるんだ。
不意に、こいつの声が聞こえた気がした。
それだけ、気がどうかしてるのかもしれない。
……誰かを笑わせるか。
「いいさ、やってやるよ」
道化師として狂ったように笑い、もっと多くの人を笑顔にさせる。させてやる。
悲しい顔なんて見せない。
それは、おどけてわざと失敗して、得られるかもしれない。
はたまた、それは敵を殺すことで得られるかもしれない。
もしかしたら、俺が死ぬ事で、笑う人がいるかもしれない。
…なんにせよ、生き残った身だ。
「笑って笑って、笑わせてやるよ」
自嘲を含んだ笑顔には決意と、そして怒り、そして悲しみを含んでいた。
俺は狂ったように笑い、笑い、笑う。
この笑いで、一人でも笑顔にできるように。
はい。ここまで読んでいただきありがとうございました!!
いかがだったでしょうか?なかなか、良さげには書けたと思うんですが。ぜひ、皆さんの感想を聞かせて欲しいです!
評価で自身が受け取る、この作品の感想。
★←なんなんこのクソ小説。これは小説とは言えませんね間違いない。
★★←う〜ん、まあクソだね。こんなんが世に出回っていいのか?
★★★←ちょっと普通、3点。
★★★★←まあええんちゃうんか。まだクソな部分もあるが。
★★★★★←いいんじゃないかな。これは歴とした小説ですね間違いない。
ブクマ登録←何とも言えませんね。
感想←ふつくしい。ランキングに載ってるのより素晴らしい。
です。あ、何とも思わなくても、ブクマ登録はお願いします。10いくのが目標なんですお願いしますなんでもしませんけど。あと、こんなに悲痛な話ではないですけど、連載してるのもあるので、ぜひ読んで欲しいです!!ちなみに、これぐらいの内容になってるのは、最新話あたりです。主に60話ぐらいから。人は進化してるんです。お願いします。
ここまでのご視聴ありがとうございました!!!