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四話 アンドロイドの娘

 燃える行政府は昔古美術展で見た絵画のように綺麗だった。行政府は人間、いやアンドロイドたちに取り囲まれていた。火も彼らが付けたらしい。ここら辺のサルフィ粒子をすべて巻き込んで、大爆発を起きたんだ。


 熱風が遠くの私の頬にまで届いてくる。状況はまだ分からないけれど、私は携帯騎馬を収納してしまい群衆をかきわけて中に入った。


「おい、誰だお前!」


「この女、帝国の人間だぞ!」


 仕事用の軍服を着ていたから、すぐにバレて、アンドロイドどもは私に突っかかってきた。予想はしてたけど。そもそもこういうアンドロイド居住星だと帝国、特に帝都の人間に対してやたらと当たりが強い。それが軍人だとなおさら。私、普通の軍人じゃないんだけどなぁ。


「おい! その女も敵だ! 殺してしまえ!」


「つかまえろ!」


 さすがに一般の労働アンドロイドに剣を向けられないと思っていたけど、こうなってしまえばもう仕方ない。アンドロイドどもは斧やつるはしを持って殺気だっている。


「あなたたち、覚悟はできてるんでしょうね? 私のことを知らないようだけど?」


「知らねえよお前みたいな金髪ビッチ!」


「「殺せ! 殺せ!」」


「はあぁ!? もういいわ。ぶっ殺してあげる」


 スパァァァァン!!!!!




 久しぶりに力を込めて振るった剣先は面と向かって私をビッチ呼ばわりしたアンドロイドの頭を吹き飛ばした。アンドロイドだから、殺したとか死ぬとかはないけど、そいつは倒れて動かなくなった。


「お、おい。こいつやりやがった!」


「おとなしくしてちょうだい。そしたら何も危害は加えないから」


 倒れたアンドロイドをまわりのは見つめるだけ。誰も私に構わなり、私は今度こそすんなり行政府に入った。




 行政府は中まですっかり火が回っていた。七階まである建物の一階には人はもういなかった。行政府の役人はみんな逃げたか壊されたか……


 詳しい話をルータイルの星長から聞きたいけど、果たして彼はまだこの建物のなかにいるのかしら?


 事前に聞いていた話では、行政府の二階から五階まではオフィスがあり、六階と七階が星長の部屋と邸宅になっているらしい。避難していなければ、ここら辺のどこかにいるに違いない。


 さすがの私も煙たくてしんどくなってきた。忍ばせてあったさっきの酸素ガムの残りを口に放り込んだ私は動かなくなってしまったエレベーターに見切りをつけて階段をのぼった。


 

 六階にも火は回っていたけど、それ以上に変なことがあった。五階からの階段の途中、電子オルガンの音が聞こえてきた。音がひどく震えている。私に音楽は分からないけど、とにかく人がまだ残っていたんだ!


 音をたどって行くと、その源は六階の一番奥の部屋。扉を開けるとそこにはまだ火が回り切っていなかった。


 中には予想通り電子オルガン。だけどそれを弾いていたのは血だらけになった女のアンドロイドだった。人間ならば四十手前くらいの見た目だ。そしてその膝には女の子が一人、ちょこんと座っていた。母娘かしら。


 女は私に気づいて、オルガンを止めた。オルガンの音にかき消されていた娘のすすり泣く声が聞こえてきた。私を見る母の目は虚ろ、だけど口には笑みが浮かんだ。唇のふちから鮮血が一筋垂れている。


「あら…… 帝国の……軍人さんかしら? こんなところに……」


「いかにも。『剣聖』レイラ・ハインリッヒだ。あなたは星長夫人か?」


「ええ……ブリュールです。こちらは娘です」


「星長は?」


「死にました。突然押しかけてきた恩知らずの者どもに殺されて……上の階で眠っております」


「え?」


 なんと言うことだ……もう死んでいる? 殺された? というと、どういうことだ。内乱を画策したのは星長じゃない?


「私もこの通り、やられてしまいました。もう助かる見込みなく……こうして最期を穏やかにするべく……オルガンを」


 アンドロイドにもそんな心があるのかしら? 


「わかった。あなたも星長も丁重に埋葬しよう」


「そんなもの……いりません。……いりませんから……この子を生かしてやってください。まだ……八つです」


 夫人は突然娘を抱きかかえて力強く立ち上がると、私にその娘を押し付けた。娘は少し抵抗して母の方に戻ろうとしたけど、母はそれを許さなかった。


「ちょっ!」


 私が思わずその娘を抱きとめると夫人は力無くその場にドサリと倒れて動かなくなってしまった。それを見下ろす娘は静かに泣いている。ああもう、ズルいわ。最期の頼みなんかされちゃったら、断れないじゃない! 勝手なこと言ってくれちゃって。


 娘はずっと母だったものを見つめて泣いている。


「ごめんね、もう少し長く一緒に居させてやりたいけど、時間がない」


 もうこの部屋にも火が回りかけていた。煙がもうすぐ充満してしまうだろう。アンドロイドは煙があっても大丈夫だろうけど、私は人間だ。


 私は階段が焼け落ちてしまう前に娘を抱いて一階まで駆け下りた。娘はずっと私の胸に顔をうずめたまま。


「私、レイラっていうの。あなたは?」


「…………アナンシャ」


 アナンシャは顔をうずめたまま答えた。



 


 

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