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二話 皇帝崩御

 休暇が終わって帝都星マリアドキアに着くと、すぐに私は宮殿に呼び出された。陛下直々に。

 

 謁見の間に着くと扉付きの兵士二人は私に気づいた。


「剣聖閣下!」


 彼らがビシッと敬礼したから、私も軽く返した。彼らのうちの片方が私に言った。


「閣下、剣をお預かりします」


「おい! 何してる!」


 もう片方が慌てて止める。


「いや、だって謁見の間は帯刀禁止でしょう?」


「剣聖は特権で許可されてるんだよ!」


「いいわよ、新人さんなんでしょ?」


 私はこれくらいじゃ怒らない、優しいから。


 



 謁見の間に入ると、誰もいない。大臣の一人でもいるのかと思ったのだけど。


 しばらくすると、奥の方から陛下の杖の音がした。コツッコツッと。陛下が奥の幕から出てこられたので、私は片膝をつき頭を垂れた。


「よい、楽にせよ」


「は」


 顔を上げて久々に見た陛下のお姿は前に見たときより数段老け込んでいた。まだ六十を過ぎたばかりだというのに。


 陛下はただでさえしわの多い顔に眉間に余計なしわを寄せて口を開いた。


「聞いておるぞレイラ。モナズでのことだ」


 ああ、やっぱりそのことか。宝飾店を爆発させたことを言っているんだ。いや、まあ私が爆発させたわけじゃないんだけどな。


「しかし陛下、結局一般人からは怪我人も死人も出ていないではありませんか」


「そういう問題ではないのだよ。いくら田舎の星とは言ってもあれは帝国の人間が住む星だ。アンドロイド居住星とはわけがちがう。今回は普段の功に免じて何も咎めぬが、今後はしかと頼むぞ」


 もとはといえば、あの強盗が拳銃なんていう旧時代の遺物を持ち出して来たから……。でもまあ、それでも私の責任もあるかしら? 死人だしてたらなんかしらの処分されてただろうし。


「分かっております陛下。今後はないように努めますので……」


「レイラ、そなたがしっかりしてくれねば……朕は安心できなんだ……」


「……?」


 陛下にしては弱気なことを言う。悪いものでも召し上がったのか?


「よい、ともかくだ。そなたは二十にもならないとはいえ剣聖のひとりには違いないのだ。自覚せよ」


「は。肝に銘じます」


 話が終わると陛下は幕の後ろに戻っていったので、私も退室した。


 扉から出ると、内務卿バムールと皇孫ケヴィン殿下と出くわした。まだ三歳の殿下は侍女に抱かれていた。


「おや、ハインリッヒ殿。休暇から戻られたのですな」


「ええ、それなりの休暇でした。爆発した以外は」


「それで今陛下から説教を受けていたのですな。推察するに、貴方は巻き込まれただけなのでしょうが」


 バムールはどうやってここまで出世したのか不思議なほど、政治家にしては人の良すぎる男だ。


「殿下、ハインリッヒ殿ですよ」


 バムールに促されたが、ケヴィン殿下はプイッとそっぽを向いてしまった。バムールと侍女は気まずそうに私を見た。


「相変わらず私は嫌われてしまっているようですね」


「ハハハハ、どうしてでしょうか? 殿下はあまり人見知りはしないはずなのですが」


 バムールは苦笑いした。


「ところで、大臣殿はどういう用で?」


「陛下に召集されました。殿下も一緒にと」


「へえ、別々じゃなかったんですね。殿下も一緒に……」


 大臣と殿下が一緒に謁見の間に呼ばれるだなんて、今まであったかしら? 始末書で済むようなことで私を呼んでみたり、こんなふうに大臣と殿下を一緒に呼んでみたり、陛下は本当にどうかしたのか?


「では我々はこれで」


 バムールと殿下は謁見の間の扉の奥に消えていった。










 陛下が説教と違和感を残して一週間ほどして、私は通常業務に戻っていた。私の通常時の勤務はかなり忙しい。一応軍人という扱いだから、軍務もやるし練兵の視察、帝都星全体のうちの六分の一のパトロール。時には周辺の星々の監視まで行なう。


 だけど実のところ、帝都は平和そのものだ。ぎっしりと立ち並んだガラス張りの円柱のビル群は、私は窮屈で好きじゃないのだけど、帝国の繁栄の印。間違いなくこの帝都がこの銀河で一番栄えている。旧時代の人類の故郷だった惑星・地球の、どの都市よりも大きいに違いないと幼年学校の教師が言ってた気がする。


 今日はアンドロイド居住星の定期観察が予定されていたので、軍用の宇宙港に来ていた。二泊の予定だから、荷物は最低限。用意されていた船に乗り込んだ。


「よろしくね」


「任せてください!」


 運転手が元気な返事をして、宇宙船は発進した。


 向かうアンドロイド居住星ルータイルはマリアドキアから十六光年の位置にある。なので片道八時間ほどか。それなりの時間がある。


 窓から見える銀河の星々を眺めていると、一週間前の違和感を思い出した。陛下は一体何を考えてあのような……。私が考えても仕方ないのだけれど。


 結局私は、剣の才能に恵まれただけの、平民の小娘に過ぎないのだ。剣の才能を父やいろんな大人、それから陛下に見出さなければ、今頃一般市民として実家の農業を手伝っていただろうな。


 十六で剣聖になって、環境は一変した。まるで自分が貴族なんじゃないかと勘違いしてしまいそうなほどの特権を陛下から賜って、そしていま私はここにいる。ありきたりな人生は面白くないから、ちょくちょく刺激をくれる剣聖の称号は割かし気に入っている。この間のモナズであったみたいなのは御免だけど。


「あと少しで着きます」


 運転手の声で、私の考えごとは中断された。


「あれ……」


「どうかしたの?」


「向こうの港から連絡が返ってこないんです」


「どうかしたのかしら?」


 そんなやりとりをしていると、今度は私の国務緊急報知が届いた。国の最重要機密情報はこの加速粒子電報を介して、三十光年先であっても一秒とかからずに届く。


 そんなのはどうでもいい。これはよほどのことじゃなきゃ使われない代物なんだ。差出人はバムール。帝都でなにかあったのか?


 急いで開封すると、中にはたった一文。



「皇帝陛下崩御セリ」



 

 

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