第95話 『爆弾を止めろ』
参上! 怪盗イタッチ
第95話
『爆弾を止めろ』
オタリオンはリモコンを手にしてイタッチや看守達を脅していた。
「動くなよ。もしも動けばこの船は沈没する!!」
マンデリンにやられたイタッチは警察に捕まり、巨大監獄ウェイルに収監されていた。この監獄は戦艦を改造して作った海に浮かぶ船の監獄である。
目を覚ましたイタッチは脱獄を計画して、これから船から出ようというところでマンデリンの部下であるオタリオンの奇襲を受けていた。
「何が目的だ、侵入者!!」
リモコンを手にするオタリオンに看守の一人が叫ぶ。オタリオンはその問いを待っていたようで、ニコリと笑い
「君達に英雄を倒す権利を与えよう」
オタリオンは看守達に語りかける。
「そこにいるコソ泥はマンデリンから逃げ切った男だ。マンデリンの力は君達も知っているはずだ。そしてその力に対応できるということは英雄になりうるとも言える」
両手を広げて顔を上げる。
「彼を倒せば英雄を倒した人となれる。そうすれば、マンデリンがこれから作る世界では君達が英雄だ。金も権力もマンデリンからプレゼントされるだろうさ。欲しくないか? なら、イタッチを倒せ!!」
オタリオンはそう言いながらも、手に持ったリモコンを看守達にチラつかせた。色々と言っているが、オタリオンは看守達を脅しているのだ。
もしもオタリオンの要求を拒否すれば、この船は爆破されて沈没してしまう。
看守の一人が深く帽子を被り、ぼそりと呟く。
「この船には多くの従業員と囚人がいる……。船が沈没すれば、多くの被害が出る……。しかし、そこにいる囚人を一人倒せば、被害は一人で済む…………」
一人の看守の言葉を聞き、皆覚悟が決まったのだろう。看守達はそれぞれが武器を持ち、イタッチへと身体を向けた。
「酷いことしやがる」
イタッチはマントの裏から折り紙を取り出すと、折り紙の剣を作って構えた。
看守達は一斉にイタッチに飛び掛かる。イタッチは剣を振り、向かってくる看守達を次々と切り倒していく。
「数が多いな……。手加減しながらこの数はキツいか……」
なるべく傷つけすぎないように倒しているが、数が多くイタッチも苦戦をする。
このままでは厳しいと判断したイタッチは、高く飛んで天井に剣を差してぶら下がった。
「少しの間眠っててもらうぜ!!」
イタッチはマントの裏から折り紙を取って、新しい武器を作る。新たに作った武器は布団だ。
もふもふの赤い布団を作ると、上から看守達の元に布団を落とした。
「巨大な布団!?」
布団が看守達の元に落ちる。そしてふわりと包み込んだ。
「何のつもり…………だ。こんなも…………すぴー」
布団に包まれた看守達はその気持ちよさにすぐに眠ってしまう。
集まってきていた看守達を全員眠らせると、イタッチは天井から降りた。
「さて、オタリオンは……」
看守を倒したイタッチはオタリオンを探して周囲を見渡す。しかし、オタリオンの姿が見えない。
「アイツ、逃げたか……」
看守達がやられるのを察知して、早めに移動したのだろう。
「まぁ逃さないがな」
イタッチはオタリオンを追いかけて廊下を進んだ。
⭐︎⭐︎⭐︎
「看守共がやられたか……。どうする、本当に起爆させるか……いや、まだだ」
イタッチから距離を取るため逃げていたオタリオンは、自身の持つリモコンを見つめた。
「これは最後の手段だ。だが、いざって時は……やるしかない。マンデリンのために…………」
とある雪国のバー。そこにヤギとシカが会っていた。
「俺に何のようだ」
古びた作業着を着たシカは黒いスーツを着こなすヤギに問いかける。
「君をスカウトしに来たんだ。どうだい、私の仲間にならないか?」
「何度も言っているだろう、断る……。俺はもう何もかも失ったんだ、何もやりたくないさ。こんな飲んだくれの男を仲間にしたって何もないぞ」
「ふ、あるから声をかけているんだよ。私の能力が言っているんだ。君が必要だとね」
ヤギの言葉を聞いたシカは深くため息を吐く。
「そのいつも言ってる能力って何だよ。コミックの読みすぎじゃないか、くだらん」
「ふむ、そうだなぁ、信じられないなら見せてあげよう」
そう言った後、マンデリンはその力をシカに見せた。過去を改変する不思議な力。
まるでコミックの物語のような力にシカは驚き、そしてあることを思ってしまった。
「な、なぁ、その力で俺の妻と娘を……救えないか?」
「……どういうことだか説明してくれるか?」
シカはマンデリンに過去に起きた出来事について話した。
昔、シカは建物の解体屋として働いていた。
そしてとあるビルの解体作業を行うことになった。巨大なビルで雲にも届きそうなほど高いビル。そんなビルの解体を依頼されて意気込んでいたのだが、そのビルにはある秘密があった。
設計図には記されておらず、解体屋にも知らされていないビルのミス。建ててすぐに解体になったのはそのミスを隠蔽するためであり、誰にもそのミスについて知らされずに作業が行われた。
そしてビルの解体時に事故が起こった。設計図にはないビルの構造により、解体途中でビルが傾いてしまい、周囲の建物を巻き込んで倒れてしまったのである。
解体作業の責任者であったシカはその責任を負わされ、訳もわからないまま罪をなすりつけられた。
さらにシカを襲った悲劇はそれだけではなかった。
ビルの倒壊による被害に妻と娘も巻き込まれていたのである。本来なら数キロ離れた自宅にいるはずであったが、彼女達は父にお弁当を届けに行っていたのである。
シカは多くの人を犠牲にし、さらに家族を失ったことで自身を追い詰めるようになった。
話を聞いたマンデリンはゆっくりと頷く。
「事情は分かった。だが、そう簡単なものじゃない。成功するとは限らないぞ」
「それでも構わない……可能性があるのならば…………」
そうしてシカはマンデリンの能力を使い、家族を救おうとした。しかし、マンデリンの力でもシカの家族は救うことはできなかった。
だが、それでもマンデリンは何度も救おうと力を使ってくれた。その時の恩を返すため、シカはオタリオンという名を名乗り、彼の部下となった。
オタリオンは廊下を走り、甲板へと辿り着いた。まるで島のような広さを持つ甲板。塩の香りと夜空がオタリオンを出迎える。
「ここでイタッチを待つか……」
オタリオンはイタッチをここで待ち伏せ、倒す作戦を立てようとする。しかし、オタリオンの向かい側に誰かがいた。
「待つ必要はないぜ。もういるからな」
「……早すぎだよ」
そこにいたのは折り紙の剣を手にいたイタッチであった。