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第92話 『オタリオン』

参上! 怪盗イタッチ




第92話

『オタリオン』




 オタリオンと名乗ったシカが出口を塞ぐ。オタリオンは白衣を羽織り、中には萎れたTシャツを来ている。頭にはツノにコードを巻いて左耳にイヤフォンをつけていた。


「マンデリンの仲間がなぜこんなところにいる!」


 イタッチが尋ねると、オタリオンはイタッチのことを指差す。


「君を見に来たのさ」


「俺を?」


「あのマンデリンが始末できずに逃した男。それがどれほどの人物なのか興味を持ってね。我慢できずに来てしまったのさ、しかしまぁ……期待外れだ」


 オタリオンはガクリと肩を落とす。そして深くため息を吐いた。そんなオタリオンの姿を見て、イタッチは頭を掻きながら尋ねる。


「なら、通してくれないか? 俺は急いでるんだ」


 オタリオンは部屋の出口の前を陣取って塞いでいる。オタリオンがいるため、部屋から出られないのだ。


「んー、そうだね。俺としてはどうでもいーんだけど、マンデリンはそうじゃないらしくてさ」


 オタリオンは白衣の内側に手を伸ばす。そして中で何かを掴んだ。

 武器を取り出すのかと警戒して、マントから折り紙を取り出して、いつでも折れるように構える。しかし、そんなイタッチの姿を見て、オタリオンはニコリと微笑む。


「あー大丈夫。まだ武器じゃない……」


 そう言って取り出したのは飴玉。オタリオンは飴玉を口に含むと幸せそうに頬を上げた。


「あっまーい。やっぱりこれがないと落ち着かないやぁ…………。えーっと、どこまで話したっけ……あー、そう、マンデリンがね」


 飴を口に入れて頬の片方を膨らませながら、オタリオンは語る。


「結果の確定を恐れてるんだよ」


「結果の確定?」


「そう、まずマンデリンの能力は知ってるよね」



 マンデリンの能力、それは過去改変だ。

 世界にはいくつもの並行世界があり、晩ごはんにカレーを食べたか、ハンバーグを食べたか。そんな小さな違いのある並行世界がいくつもある。

 マンデリンは過去に起こった出来事を変えることで、現在いる世界を別の並行世界に変えることができるのだ。

 Aの位置にあった石。それをBの位置に移動させる。そうすると、石がBにあるはずの世界に移動する。Aの位置に石があったのは風に吹かれて三回転がったため、しかし、Bにあるのは強風に吹かれて7回転がったため、そのように過去が変わることで、普通の風が強風に変わるのだ。



 イタッチはオタリオンの言葉に頷く。


「ああ、知ってるぜ」


「でも、その能力も万能じゃない。大きなものがより遠くへ移動すると、移動する並行世界の距離も遠くなる。すると、予測できない事態が起こりかねない」



 小石が転がる原因は風や傾き、少しぶつかっただけ程度で済む。しかし、それがもしも大岩だったらどうだろう。

 大岩が移動するような人が銃器を使ったり、大災害が起きたりと大きな出来事が起こる。そうすると、それが連鎖的に過去で起こるはずの出来事を変えて、現在を変えてしまう可能性がある。だから、マンデリンは小さなものを少しだけ動かすことで能力を発動させている。



「そのため変えられる世界線にも限度がある。その限られた世界線の中でベストを探すが、それじゃできないことがあるんだな。それこそが確定した結果だ」


 オタリオンは両手の人差し指を立てて、二つを平行を並べる。


「世界の進む方向は同じだ。時間は停止も逆行もしない。本来なら重なり合うことはない。でも稀に重なり合う事象が起きる。どの世界線でも必ず起きる確定した出来事がだ」


 オタリオンは並行していた指を斜めして、ばつ印に重なり合わせた。


「その交差するポイントは小さな改変じゃ変わらない。俺はそれを二度も見てきた」


「二度も?」


 オタリオンは懐かしむように語り出した。


「そうさ、その運命からはどんな手を使おうとも逃れるこのはできない。マンデリンのような強者であってもだ」


「その運命を引き寄せた俺をマンデリンは恐れてるってことか。じゃあ、お前がここに来たのはマンデリンの命令か?」


 イタッチが尋ねると、オタリオンは首を横に振った。


「いいや、独断さ。マンデリンが警戒する男がどんな人物か見に来ただけだったからね。しかし、ここで君を倒して俺の力をマンデリンに示してみるのも良いかもな」


 オタリオンは白衣の内ポケットに手を入れる。今度は武器を取り出すと判断して、イタッチは折り紙を構える。


「さぁって、何が出るかなぁ!!」


 オタリオンはポケットから丸いカラフルなカプセルを取り出す。そしてそれをイタッチに向けて投げた。

 イタッチはカプセルを警戒して、高く飛び上がり回避する。


 カプセルは地面に触れると、光を放ち大爆発。床に大きな穴を開けた。


「爆弾!?」


「俺の作った特製爆弾さ。うまく避けたみたいだが、食らえば跡形もなく吹っ飛ぶぜぇ!!」


 不気味な笑みを浮かべるオタリオン。イタッチが爆弾を回避して地面に着地すると同時に、気を失っていたガンドが目を覚ました。


「なんだ、今の爆発音は……」


 ガンドが目を覚ますと、目の前に大きな穴が空いていることに気づき、目を丸くして驚く。

 しかし、イタッチとオタリオンの姿を見ると、すぐに冷静さを取り戻した。


「お前は……この監獄に侵入してくるとは良い度胸だな!!」







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