第91話 『ガンドvsイタッチ』
参上! 怪盗イタッチ
第91話
『ガンドvsイタッチ』
ガンドの突きをイタッチは手錠を盾にしてガードする。そのままイタッチはガンドに距離を詰めると、片足を上げて蹴りを放った。
しかし、ガンドは素早く後ろに跳ねて、イタッチの蹴りを回避した。
老人であるのに身軽な動きで躱すガンドの姿にイタッチは驚きを受ける。
囚人として潜入していたガンドは、ふらふらしていて頼りない老人のようであった。しかし、その姿も演技だったということだろう。
っと、思ったが
「おっとと…………」
ガンドは下がった後、ふらりとよろける仕草を見せた。演技っぽさを感じなかったが、これも演技の可能性もある。どちらにしろ、ガンドは油断できない相手だ。
イタッチは手錠で繋がれた手を前に突き出して、戦闘の体制を取る。
武器もなく、さらには手錠で両手の自由がない状態だ。それに戦闘に時間がかかれば、看守に発見されて応援をよばれる可能性もある。
騒ぎを大きくせず、そして迅速に折り紙を取り返す必要がある。
イタッチが構えると、ガンドもレイピアを構えてすぐに突きを放てる姿勢になった。
「…………」
イタッチはすり足で少しずつガンドに距離を詰めていく。ゆっくりとそして慎重にガンドの間合いへと近づいていく。
射程距離は武器を持っているガンドの方が長い。それに部屋の形は縦長であり、横の広さは人が三人手を伸ばせば壁に届くほどの大きさしかない。そのためレイピアを使っているガンドの方が有利である。
イタッチはガンドの射程距離のギリギリところまで踏み込む。
「行くぜ!!」
イタッチは大きく動いた。蹴りで横にある本棚を蹴ると、揺らして並んでいる本を落とす。
「なにを!?」
ガンドが動揺する中、イタッチは落ちてくる本の一つをガンドに向けて蹴り飛ばした。
「こんなもの!!」
ガンドは突きで飛んできた本を風穴を開ける。しかし、これで隙ができた。
突きを放ったガンドは剣を引き、もう一度突きを放つまで時間がかかる。イタッチはガンドの剣が戻る速度と同じ速さで接近して、ガンドの懐に入る。
そしてガンドの服を掴んで背負い投げを行った。ガンドは地面に強く叩きつけられて、レイピアを手放してしまう。
「ぐはっ!?」
ガンドが倒れた隙にイタッチはテーブルに置かれた折り紙を取り戻す。
「おかえり、相棒!!」
イタッチは折り紙を取り返すことに成功した。イタッチが折り紙を取り返したのを目視すると、ガンドは落としたレイピアを拾い、倒れた姿勢のまま剣を振るう。
しかし、イタッチはジャンプしてガンドの攻撃を避けると後ろに下がって距離を取った。
イタッチが離れると、ガンドは息を荒くしながら立ち上がる。
「その神器を渡しなさい。それは私が神に会うために使うんだ」
本棚に掴まりながらレイピアを構える。
「コイツはそういう使い方をするもんじゃない」
「犯罪者が……。しかし、神器はを取り返したところで、手錠をつけたままじゃ使いこなせなかろう……。私の勝ちだ」
ガンドは足を震わせながら、イタッチに近づいてくる。イタッチは折り紙を持つとニヤリと笑った。
「問題ない。これでも出来ることはある」
イタッチは手錠で塞がった手を使い、折り紙を折り始める。そんな中、ガンドは後少しで射程距離というところまでイタッチに近づいた。
「完成だッ!!」
イタッチが折り紙を折り終えると同時に、ガンドも射程距離にイタッチを入れた。レイピアを突き出して、イタッチの喉を貫こうとガンドが攻撃を放った時、イタッチは折り紙を前に投げ飛ばした。
「なっ!?」
ガンドの突きはイタッチに当たる前に大量の土砂によって阻まれる。
「なんだこれは!?」
「俺が折り紙で作ったもの……それは山だ!!」
イタッチが折り紙で作ったのは山であった。折り紙を三角形に折り、それをガンドとの間に投げて具現化させたのだ。
イタッチとガンドの間に大量の土が現れて、二人の間を阻む。これでガンドの攻撃を防いだ。
現れた土は山のように積まれており、部屋を完全に分けている。
「そしてこの土をこうする!!」
イタッチは土を力強く蹴る。すると、イタッチの反対側にいるガンド側の斜面で事件が起きる。
イタッチが土を蹴ったことでバランスが崩れて、土の塊がガンドに向かって倒れてきたのだ。
「こ、こんなこと……私の夢がァァァァァ!?」
ガンドは土の山に飲み込まれてしまった。
土の山が崩れたことで天井まであった土は低くなり、反対側へと行けるようになる。イタッチは土を乗り越えて、ガンドの元へ向かった。
土に埋まっているガンドを引っ張り上げると、胸ポケットの中を探る。すると、中から鍵が出てきた。
「鍵も持ってたか」
その鍵はイタッチの手錠。イタッチは手錠を外してやっと自由になった。
「手錠を外して折り紙も取り返した。後は脱出するだけだな」
イタッチは部屋を出ていこうとする。
「やれやれ、マンデリンが逃したっていうからどんな相手か気になって見にきたのに。こんなもんか〜」
頭上から声が聞こえてくる。イタッチが頭上へ目線を向けると、部屋の天井にシカが張り付いていた。
巨大を持ちに大きなツノを持つ。茶色い毛皮を持つヘラジカのようだ。
ヘラジカは天井から降りると、扉の前に立ちイタッチの出口を塞いだ。
「何者だ?」
「俺はオタリオン。マンデリンの仲間さ」