第90話 『神器を求めて』
参上! 怪盗イタッチ
第90話
『神器を求めて』
現在イタッチは海上の大監獄ウェイルにいた。
マンデリンへ奇襲をするために、イタッチはダッチと別れて美術館へ侵入。多くの人の目を集めて、マンデリンの注意を引いた。
しかし、マンデリンに奇襲を仕掛けに行ったダッチとの連絡が途切れ、さらには美術館にマンデリンが現れる。
マンデリンと戦闘を行い、ゲンゴロウのアシストもありマンデリンの能力を暴くことに成功。マンデリンの過去改変の能力に立ち向かった。
マンデリンの能力の過去改変は過去の出来事を変えることで、現在の結果を変えることができる能力である。例えば、鉛筆を机の上に置くか、それとも椅子の上に置くか。それをマンデリンが変えることで、鉛筆がその場所に置かれた経緯が変わり、その結果、未来が変わるのだ。
マンデリンはその能力を使い、ゲンゴロウを倒し、さらにはイタッチも倒してしまった。マンデリンに倒されたイタッチは重傷を負い、救急搬送される。そして治療が済むとこのウェイルへと収監されたのだ。
監獄で目を覚ましたイタッチはすぐさま脱獄を企てる。一日目は囚人として普通に過ごし、監獄内の情報を集める。
そしてその情報を使って今、脱獄のために動き出したのだ。
この監獄を出る前にやることは二つ。手錠の鍵を見つけることと折り紙の回収である。手錠には居場所を知らせる装置と爆薬が仕込まれており、脱獄をすると手錠が爆発してしまう。そのため鍵を見つけて手錠を外す必要がある。
折り紙は監獄に入った時に居場所について、看守長から伝えられた。監獄内には神器に詳しいものがおり、その者が今は管理しているようだ。
神器は大きな力を持っている分、危険な者でもある。警察もそれを知っているからこそ、知識のある人物に一時的に預けているのだろう。
「よし、ここが食堂だな」
服から伸びた糸を追ってイタッチは食堂に辿り着く。夜ご飯もここを使ったようで、飯の匂いがまだ残っている。
イタッチはボロボロになった囚人服を脱いで、食堂の中を探索していく。ここは昼にも見ているため、変わったところはない。
「なら、看守しか入れない部屋だな」
食堂の奥にある調理室。そこは囚人の侵入を禁止しており、看守しか入ることができない。
イタッチは鍵がついていないことを確認して、扉を開けて調理室に入った。
巨大な鍋や冷蔵庫の設置された広い部屋。イタッチは調理室の中を探索する。
「ん〜、何かないか……」
包丁などの調理器具もあり、武器として持って行こうかとも考えるが、それは料理人に失礼だと思いやめる。
部屋の奥へと進むと休憩室があり、そこの壁に一枚の紙が貼られていた。
「見つけたぜ」
それはここ周辺のエリアの地図。監獄全体の地図ではないが、これで施設内の形が大まかに把握できる。
「ここはCフロアなのか」
地図のタイトルにはCフロアと書かれており、現在の居場所がCフロアだと分かる。フロアの数が他にいくつあるかはまだ分からないが、最低でも三つはあるということだ。
それとこの地図から分かったことは、看守と囚人で生活フロアを完全に分けているということだ。そのため手錠の鍵や折り紙がありそうな場所を絞ることができる。
「っとなると一番近い場所だとこの辺か……これ以上の情報はないし、一つ一つ潰していくしかないか」
イタッチは手錠の鍵と折り紙がありそうな場所を一つ一つ探索していくことにした。
看守の巡回は1時間ごとにやってくる。そのためまだイタッチが脱獄したことがバレるまでは時間がある。
だが、移動中に看守に遭遇したり、監視カメラに映れば、すぐに見つかることになってしまう。追われながら鍵と折り紙を探し出すのは困難だ。
だから、急ぎながらも慎重に先へと進んでいく。
「ビンゴ……」
イタッチが探索して三つ目の部屋。そこでついにお目当てのものを発見した。
⭐︎⭐︎⭐︎
紙は本当にいるのだろうか──
最初は神など信じていなかった。片田舎の農村で生まれた私は、村人が信仰している神を心の奥では信じていなかった。
村の農作物が採れるのは神のおかげ、不況の時には神の機嫌として、全てを神に押し付けることで責任から逃れる。私はそんなくだらない信仰が嫌いだった。
いつだか私の信仰心が足りないと両親が、私を神の祠へと連れて行ったことがある。自然に囲まれた綺麗な場所ではあった。しかし、目で見えるような神はいなかった。
人前では神を信じるフリをするが、心の奥では神にすがる人々を馬鹿にしていた。
そんなある日、私は徴兵された。兵士として戦場へ向かい、爆炎の中を駆け回った。いくつもの骸を超えた先で、私を待っていたのは孤独だ。
仲間は全滅。私の目の前にも爆弾が落ちてきて生を諦めかけた。
だが、私の目の前に奇跡が舞い降りた。
気がつくと私は病院で寝ていた。奇跡的に助かったのだ。なぜ、生き残ったのか、薄れる記憶を辿った末、私は分かった。
神が助けてくれたのだ。
爆炎から身を盾にして守り、吹き飛ばされた私を包んで守った。それから私は神を信仰し、神に心酔するようになった。
いくつもの書物をより、仙人のような老人に話を聞くこともあった。そうしていくうちに神はいくつもおり、神器という特殊な武器を持っていることを知った。
いつからか、あの時の神に会いたいと思うようになっていた。そんな私に奇跡が起きた。神器が手元にやってきたのだ。この神器の持ち主に会えば、あの時の神に会わせてくれるかもしれない。
ケースに入れられた真紅の紙を手に取ろうとした時、
⭐︎⭐︎⭐︎
「ビンゴ……」
図書館のような高い本棚が左右にの壁に並べられた部屋。その部屋の中央のテーブルにガラスケースに入れられた折り紙があった。
そのテーブルの奥ではナマコの老人がケースに入れられた折り紙に手を伸ばしていた。
イタッチはそんな老人を止めるように、
「俺の大切な人から貰ったもんに汚い手で触れないでもらえないか?」
強めの言葉で声をかける。すると、老人は手を止めてイタッチの方へと顔を向けた。
「怪盗……イタッチ…………」
イタッチが脱獄しているとは思っていなかったのだろう。驚きで身体が硬直している。
「まさか爺さんが監獄長だったとはな」
「……囚人目線で見るからこそ見えることもある。私の日課さ」
ナマコの老人は牢獄でイタッチの牢屋の隣にいた人物だ。あの時は囚人の服を着ていたが、今は看守のスーツを着込んでおり、胸の辺りには多くのバッチが付けられている。
ナマコの老人は監獄長でありながら、囚人達のことを知るために囚人のフリをして牢屋に入ることがあるようだ。
イタッチはテーブルに置かれた折り紙を指差す。
「俺の相棒を返してもらうぞ」
「この神器が君の相棒か…………。犯罪者には勿体無い相棒だな……」
老人はテーブルを優しく横にずらすと、イタッチと向かい合う。
「私はガンド・ギィル・ベスンダ。この監獄の監獄長である。どんな犯罪者であれ、この監獄から出ることは私が許さない。私が君を檻に閉じ込め直してやるかのぉ」
ガンドは腰に下げていたレイピアを抜いた。
美しい装飾のされ、手入れの行き届いた剣だ。美術品としての価値も高そうだが、それ以上にガンドとの連帯感を感じた。
使い慣れた武器なのだろう。握る仕草や構えに無駄が一つもない。
「俺の武器は返してくれないのに、爺さんは武器を使うのか?」
「囚人には凶器は必要なかろう!!」
ガンドは鋭い突きを放ってくる。イタッチは手錠の金属部分で突きをガードする。
「危ねぇ!?」
「避けたか……」