第85話 『過去を変える男』
参上! 怪盗イタッチ
第85話
『過去を変える男』
イタッチはマンデリンを切りつけて、マンデリンは傷口を抑えてしゃがみ込む。イタッチはそんなマンデリンを見下ろしていた。
「確かに強力な力だ。だが、対処法がないわけじゃない」
イタッチは折り紙の剣をマンデリンに向ける。負けを認めて諦めるかと思われたが、マンデリンは息を荒げながらも顔を上げた。
「はぁはぁ、痛ぇ……ああ、分かってるさ、私の力の弱点は…………。だが、君の力の弱点も知っている……」
マンデリンがそう言うと同時に、部屋の天井に取り付けられたスプリンクラーが動き出す。そして部屋に軽い雨を降らせた。
「君の折り紙は水に弱い……そうなんだろう?」
マンデリンの足元は血と水が混ざり、薄い赤色の水たまりができる。傷口から血が流れ出る中、マンデリンはニコリと笑いながらイタッチを見上げた。
イタッチの持つ折り紙の剣は、水に濡れたことでシワシワになって原型がなくなる。
「二回目のゲンゴロウへの攻撃の時に壊していたのか」
マンデリンは能力を発動させる仕草を見せなかった。そのためスプリンクラーが誤作動で動き出したのは、イタッチと戦う前に仕込んでいたということだろう。
イタッチは使い物にならなくなった剣を捨てる。
すでにマントも湿ってしまい、新たに折り紙を取り出せば、すぐに濡れてしまうだろう。そのため折り紙は使えない。
イタッチはマンデリンから目を離さないようにしながら、ゲンゴロウの応急処置を終えたネコ刑事達に叫ぶ。
「手錠をくれ、コイツを捕まえる」
ネコ刑事とコン刑事はお互いに顔を見合わせる。イタッチを信頼するべきか。
しかし、答えはすぐに決まった。
ネコ刑事は手錠を取り出すと、イタッチに投げ渡した。イタッチは飛んでくる手錠を目線を動かさずに背後でキャッチする。
そしてマンデリンに近づくと、赤く染まったマンデリンの手に手錠をつけた。
「後で治療を受けるんだな」
自身の攻撃で傷ついたマンデリンを気にしてか、そのように声をかけた。しかし、マンデリンはニコリと笑った。
「こんな手錠如きで私を封じたと?」
余裕の様子を見せるマンデリン。イタッチはそんなマンデリンの姿に、嫌な予感がして警戒を強める。
しかし、手錠で動きを封じて、マンデリンは動くことができない。能力の発動条件を考えても、ここで過去改変をすることはできないだろう。
仲間の援護がある可能性もあるが、誰かが近づいてくればすぐに気づける。何よりもイタッチの目の前にマンデリンがいるのだ。もしもの時は人質として取引もできる。
「何を企んでる?」
イタッチが聞くと、マンデリンは目を細めて手錠で繋がれた両手を上げた。
「ほぼ予定通り……私の想定通りに全てが進んだ…………。ここからが反撃だ」
マンデリンがそう言うと同時に、皆の視界が歪む。
「これは!? なぜ、過去改変ができる!?」
視界が歪んで景色が変わると、手錠で繋がれていたはずのマンデリンは部屋の隅へと移動して、手錠は外れて怪我も無くなっていた。
マンデリンは過去を変えて、別の並行世界へと移動した。それによりマンデリンを捕らえたという結果がなくなってしまったのだ。
さらにゲンゴロウは怪我をしたままであり、部屋は水浸しだ。たった一回の過去概念により、イタッチ達が不利な状況へと変化する。
完全復活したマンデリンは、指を立ててニヤリと笑う。
「私がどうして過去改変できたか、気になるかね?」
「……ああ、どうやって変えた?」
イタッチは武器もないため、素手でいつでも戦えるように構えて質問する。
イタッチの質問にマンデリンは
「ストックだよ」
「ストック?」
「そう、私の能力を込めた石を設置して、時間が来ると移動するように置いておいた。私でも制御できない強制的なもので、解除するためには他者が動かす必要があるけどね」
「つまり一定時間になったら、強制的に過去改変をして別世界へ移動するようにしてたってわけか」
「そういうこと」
マンデリンはここに来る前、さらにはダッチに奇襲される前から事態を予測して動きていたようだ。
能力を込めた石をどこかに設置して、一定時間になるとどこかへ移動する仕掛けを作る。そうすることで到底の時間になったら、過去改変が起こるようになっているようだ。
「まぁ、安心してくれ。これは仕掛けが大変でね、動かす装置が世界に観測されちゃ動作しないんだ。色々と実験の末、密室に仕掛けを作ってある。今回はこれしか用意していない」
マンデリンは両手をポケットに入れる。そして顎を上げて見下ろすように睨んだ。
「これで君を倒す、準備が整った」