表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/103

第78話 『刀を振え』

参上! 怪盗イタッチ




第78話

『刀を振え』




 水槽を破壊したことで部屋に水が漏れて、部屋に水が溜まってくる。ミシガルは天井にワイヤーで吊るされた状態で、増えていく水を眺めていた。


「……何が目的なんだ。いや、自滅か!? 毒に侵され勝てないと分かり、自ら自滅したのか?」


 ミシガルは芋虫のようにワイヤーに捕まりながら、クルクルと回転しながら考える。


 現在ダッチは水中に姿を消し、ミシガルからダッチの姿は見えなくなっていた。ダッチの身体にはミシガルの攻撃で毒が入り、かなりのダメージを負っている。

 解毒をしなければ、時間経過でダッチは倒されることになる。


「毒の痛みに耐えられず、溺れることを選んだ……。いや、あーいう奴はそんなことはしない…………」


 ミシガルは人間を誘拐して人形にする前に、誘拐する人間の素性を詳しく調べていた。それはミシガルのこだわりであり、生前の人間性を知ることでどんな人間にするのかを決めていた。

 そしてそうしていくうちに、その人間のするであろう行動が予測できるようになっていた。


 ミシガルの分析ではダッチは最後まで争うタイプ。自滅を選ぶような人間ではない。自身が傷つくことよりも、仲間の傷つくことを嫌い。

 自分を犠牲にしてでも、仲間を守ろうとする。

 そういう男である。それがミシガルの分析したダッチという人間だ。


 そしてそのことからミシガルはダッチの今後の動きを予想する。


「彼が水槽を破壊したのは自滅ではなく、作戦……。もしそうだとしたらこの現状は僕に対する攻撃の下準備…………」


 ミシガルはコートの中に右手を入れる。そして中に隠し持っているあるものを握りしめた。


「分かったぞ。狙いが!!」


 すでに部屋の半分以上が水に浸かり、水面は天井にぶら下がっているミシガルのすぐ側まできていた。


「来たか!!」


 ミシガルの近くの水面が膨れ上がり、中からダッチが飛び出してくる。ダッチは刀を力強く振ってミシガルに切り掛かった。


 ミシガルはコートの中からナイフを取り出して、ダッチの刀をナイフで防ぐ。しかし、ダッチの力強く振りで、ワイヤーから手を離してしまい、ミシガルは水の中へと落ちた。




 ダッチの狙いは水を増やすことでミシガルに近づくことである。ミシガルは天井を移動しているため、ダッチでは攻撃することができなかった。

 そこでダッチは水槽を破壊したのだ。水槽の水が部屋へと流れ込み、部屋の半分以上を水に浸からせる。そうすることで天井まで泳ぐことができるようになり、ミシガルに近づくことができたのだ。




 ミシガルはダッチの攻撃を予測して、攻撃を防御した。ワイヤーから手を離して水の中へと落ちたが、ミシガルは冷静にナイフを構えた。


 水中でダッチとミシガルは向かい合う。ダッチの顔色は青く、かなり毒が効いてきているようだ。それに水中であるため、頬に空気を溜めて水中を泳ぐ。

 ダッチとは違い、ミシガルは魚であるため、水中で呼吸することができる。泳ぎも楽々と行っており、余裕の表情だ。


「今の一撃で勝負を決める予定だったようだね。でも、僕を仕留められなかった……。つまりそれは君の詰みを意味する。水中でウサギの君が僕に勝つのは不可能だよ」


 ミシガルはナイフを片手に水の中をスイスイと移動する。

 魚類であるミシガルは水中の方が自由に動くことができる。ダッチはミシガルに攻撃をするために水を部屋に流し込んだが、チャンスであった攻撃を防がれてしまい、不利な状況になってしまった。


 ミシガルはナイフを手にして、ダッチの周りを泳ぐ。近づいてナイフで切りつけて、反撃される前に距離を取る。そうすることで水中での機動力の差を活かしてダメージを与えていた。

 だが、本来ならミシガルはすぐにダッチを倒すことができる。しかし、ミシガルはダッチの皮を一枚切り付けるだけで、深い傷をつけることはしない。


「君をゆっくりと痛めつけてあげよう……」


 ミシガルはダッチの身体がほとんど動かないことを知っていた。毒を流し込んでから数分経過している。どんなに強靭な肉体を作り上げたとしても、毒には耐えることはできない。

 後はダッチが毒にやられるのを待つだけだった。


「反撃してこない? ……諦めたのかい?」


 ナイフで切りつけられながらも、ダッチは反撃しなかった。刀を横に持ち、その状態で足を振って泳ぐ。

 ミシガルはダッチの様子を見て不思議に感じる。


 ダッチが戦意を失うのは先ほどの行動からも考えられない。水中戦になったとしても、諦めずに向かってくるはずだ。

 しかし、ダッチは反撃をせず、ミシガルの攻撃を受けるばかりだ。着実にダメージを与えているが、ミシガルはダッチの姿に不気味さを感じ始める。


 そんな中、ダッチは刀を小刻みに振り始める。水中であるため、最初はゆっくりであったが、少しずつ振る速度が速くなり、揺れる刀の残像が扇のように見え始めた。


「なんだ……?」


 ダッチの行動にミシガルは動きを止める。反撃の準備なのか、それとも別か。ミシガルはダッチを警戒する。

 しかし、ダッチの攻撃はミシガルの予想を超える攻撃であった。震える刀から音が鳴り、水中を振動して伝わる。

 その音はミシガルの平衡感覚を奪い、身体を痙攣させた。


「何が……起きてるん…………。この音は!?」


 ミシガルは状況を理解できず、水中を流れる。力が抜けたことでナイフを落とし、ダッチの方へと流され始めた。

 ミシガルが音波でやられたのを見たダッチは、刀を振るのをやめて鞘に刃をしまう。そして再び、居合いの姿勢となった。


 水中であるため深呼吸はできないが、目を閉じて集中する。全身の力を抜いて、全ての神経を一点に集めた。


「…………っ!!!!」


 刀が振るわれて、ミシガルの身体を一刀両断する。濁った水が赤く染まった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ