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第77話 『ダッチvsミシガル』

参上! 怪盗イタッチ




第77話

『ダッチvsミシガル』



 ミシガルがワイヤーを使い、天井を移動する。ダッチは刀を抜いて構えて、攻撃のチャンスを伺う。


「ッチ。あれじゃ攻撃が届かない……」


「君は手も足も出ずに僕にやられるのさ」


 ミシガルは天井を移動しながら、コートの裏に隠していた武器を取り出す。最初に取り出したのは手榴弾だ。

 口で栓を抜いて下へと手榴弾を落とす。


 落ちてくるだけの手榴弾であるため、落下位置が分かれば簡単に避けられる。ダッチは手榴弾を簡単に躱す。

 しかし、ミシガルの目的はダッチを爆発で攻撃することではなかった。


 手榴弾が地上に到達して爆発すると、近くにあった水槽のガラスが割れる。そして中に入っていた濁った水が部屋へと流れ出した。

 大きめの水槽であったため、漏れた水が部屋に溜まるとくるぶしも辺りまで水に浸かる。


 ダッチはコートが汚れるのを嫌そうに下に溜まった水を見る。しかし、重要なのはコートが汚れることではない。

 そのことにすぐにダッチは気付かされることになる。


 ミシガルは部屋の床が水に使ったことを確認すると、コートの中から今度は針金のような武器を出した。

 細く裁縫に使う針のようであり、先端は鋭く尖っている。ミシガルは天井を移動しながら、その針金を下にいるダッチに向けて投げ落とした。


「ッチ、何のつもりだよ」


 ダッチは手榴弾の時のように針金を避けようとする。しかし、今回はうまくいかなかった。床が浸水していることで、動きが鈍くなる。


「くっ!?」


 直撃は避けたが、針金の先が肩を掠めた。しかし、針金は掠めた程度であり、当たっていても大きなダメージになるような武器でもない。

 ダッチは天井にいるミシガルのことを睨み、


「こんな小物で俺を倒そうってのか? 笑わせてくれるじゃねぇかよ、雑魚野郎!!!!」


 ダッチは水に浮かぶ針金を見て、それを足を動かして小さな波を起こして遠くへ流す。小さな針金だ。波に逆らうことはせず、簡単に流れていく。

 ダッチは刀を天井に向ける。


「お遊びはここまでだ。さっさと降りてきやがれ!」


 そしてミシガルに叫ぶ。

 そんなダッチの姿を見て、ミシガルは静かに頬を上げて笑った。


「やれやれ、やはり君のような人間な好きじゃないな。僕の繊細な攻撃に気付くのが遅い…………でもね、そんな君でもそろそろ効いてくるはずだよ」


「あぁ? …………っ!? な、身体……が!?」


 ダッチは身体に違和感を感じ始める。指先が痺れて、視界が歪む。身体の重さが3倍になったような倦怠感を感じ、さらに吐き気もやってくる。


「どういうことだ。こりゃ……」


 ダッチはフラフラしながら、近くにあった水槽に手をついて寄りかかる。視界が歪む中、天井にいるミシガルのことを見る。

 ミシガルが姿が二重にも三重にも増えたり重なったりして見える。


「なにをしやがった……」


 ミシガルはコートの中から先ほど投げた針金と同じ針金を取り出す。今度は何十本も取り出して、指で挟んで持つ。


「お仲間に聞いたらどうだい? もしかしたらわかるかもよ?」


 ミシガルがそう言うと、監視カメラから二人の様子を見ていたアンが無線の先からダッチに話しかける。


「大丈夫ですか? ダッチさん!!」


「クソガキが……どこが無事に見える…………俺がなにをされたか、わかんから教えろ……」


「カメラ越しに見ていただけなので推測でしたありませんが、私の予想では毒だと思います」


「毒……だと」


 無線の先のアンの声は聞こえないが、ダッチの言葉を聞いたミシガルは、拍手をしてアンを褒める。


「うんうん、正解だね。噂通りだ、君の仲間は優秀なようだね」


 ミシガルは手に持った針金を突き出してダッチに見せる。針金の先には透明な透明な液体が塗られており、その雫が水面へ落ちる。


「そう、毒だよ。それも猛毒だ。少量体内に入っただけでも激痛と痙攣を起こしてまともには立っていられない猛毒さ。そしてこの毒の恐ろしいところは5分後には細胞を破壊して生命活動を奪うところにある」


「んだとぉ……」


 針金の先につけられた毒。ダッチが先ほど掠った針金にも毒が塗られていたのだろう。その毒がダッチの身体に入り込んで今の状態になっている。

 この状態に持ち込むのがミシガルの狙いだったのだ。

 ミシガルはダッチが針金を避けるのに失敗するように、床を浸水させて足場を悪くした。手榴弾はそのための攻撃。さらにワイヤーで天井にいるのは、ダッチが毒でやられるのを待つためだ。天井にいればダッチの攻撃は当たらない。相打ちになるということもこれでないのだ。


「この毒を喰らって立ってられてるだけで君は凄いけど、僕にとってはそれだけのことさ。全ては僕の作戦通り……」


 ミシガルはワイヤーに尽くされながら、左右に揺れる。まるでブランコに乗っているかのように遊び、余裕の様子だ。


「マンデリンから君達について聞いてたよ。それで考えてたんだ、もしも君達と倒したらどうしようかなってね」


 ミシガルは頬を上げて不気味な笑顔を作る。


「脳筋君は要らないな。でも、君の仲間は欲しい。コレクションしたいなぁぁぁ。そうだなぁ、アンちゃん、彼女は君と違って僕と話が合いそうだ……。ホルマリン漬けにして僕のコレクションにしてあげよう」





 ──9年前。とある街で通報があった。それはある家の留守中を狙ったコソ泥からの通報。そのコソ泥は酷く怯えており、到着した警察官に飛びついて助けを求めた。

 コソ泥は震えた声で警察官にこう語った。


 ──人が人形のようにされている──


 警察官がそこには驚くべき光景があった。天井に吊されたり、椅子に座らされたり、部屋中に人形が飾られていた。

 警察官達は人形の顔を見た途端、唾を飲んだ。それは人形の顔を知っていたからである。ここ何年も街では男女年齢問わず、行方不明者が続出していた。その行方不明者と人形の顔が一致していたのである。





 ダッチは刀を構えてミシガルを睨む。


「んだと……。テメェがアンを……」


 意識が朦朧とするが、聞き取ることができた。だからだろうか、ダッチは毒に侵されたからだに鞭を打ち、力強く刀を握る。

 ミシガルはそんなダッチを見て嘲笑う。


「そうさ、僕は優秀な人を集めて家族を作りたいんだ。でも、君は必要ない。ここで消えると良いよ!」


 手に持っていた針金をダッチに向けて、次々と投げ落とす。


「このぉやろぉ!!」


 ダッチは刀を振り回して飛んでくる針金を弾き落としていく。しかし、足場の悪さと毒により、ダッチの刀を振る速度は遅く、針金を全て弾くことができない。

 何本かが身体に刺さり、ダッチの体内にさらに毒が入り込んでいく。


「ダッチさん!! このままだとマズイです!! 逃げてください!!」


 ダッチを心配したアンは無線の先から呼びかける。しかし、ダッチは逃げるどころか、身体に刺さった針金を抜いて前に進む。


「逃げるだァ……んなこと、できるかよ…………。俺がくたばっても仲間には手を出させねぇ!!!! コイツはここでぶっ倒す!!!!」


 ダッチは刀を鞘にしまい、深呼吸をする。そして姿勢を低くして居合いの体制になった。

 そんなダッチの姿を見て、天井からぶら下がっているミシガルは首を傾げる。


「そんなところで居合い? 毒で頭がおかしくなっちゃったのかい?」


 ミシガルはダッチが戦意を喪失させたと判断して、さらに針金を取り出すと、雨のように針金を降らせる。

 針金が身体に刺さり、全身を血と毒が染める。しかし、ダッチは姿勢を崩すことなく、目を閉じてさらに深く集中した。


 体内を犯す毒も心配するアンの声もダッチには等しく感じなくなる。ダッチは集中することで自身の身体のみを感じて、外の全てを遮断した。


「何をする気なのか……」


 ミシガルは攻撃されても無反応なダッチの姿に、少し恐怖を感じて攻撃を止める。

 ダッチは刀を抜くと、素早くそして静かに刀を振って、近くにあった水槽を切った。


「水槽を!? そんなことをしたら!?」


 ミシガルは上からダッチの切った水槽を見て、汗を流して焦る。

 ダッチが切った水槽は部屋の中でも一番大きい水蔵であり、破壊されたことで水が漏れ出して部屋の水が増えていく。


「な、なんてことをするだ!?」


 水蔵の大きさは部屋の倍近い大きさがあった。つまり、水槽の水が漏れると、部屋の殆どが水に沈むのだ。


 ミシガルがワイヤーに捕まりながら、増えていく水に焦る。そんな中、ダッチは増え続ける水の中に潜って姿を隠す。

 水が濁っていたということもあり、ミシガルは潜ったダッチの姿が見えない。


「あのウサギ……何がしたいんだ。自滅……それが目的なのか!?」







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