第72話 『現れたイタッチ』
参上! 怪盗イタッチ
第72話
『現れたイタッチ』
イタッチが姿を見せて、ネコ刑事、コン刑事、ゲンゴロウの三人は構える。
ゲンゴロウは仲間達にイタッチが現れたことを叫んで伝える。
「イタッチが現れたぞ!!」
ゲンゴロウは部下達に集まるように指示を出す。ここから展示室までは何部屋か経由する必要があり、ここで包囲できればお宝が狙われる可能性が低くなる。
しかし、そんなゲンゴロウの判断であったが、
「ゲンゴロウさん、ダメっす。人を集めるのは!?」
コン刑事はゲンゴロウに部下を呼ぶのを止めるように伝える。だが、すでに遅かった。
兵士達はイタッチを囲み、大人数がこの部屋に集まった。
イタッチはニヤリと笑うと、マントの裏から折り紙を取り出す。そして折り紙で自身の偽物を大量に作り出した。
「数には数で対抗だぜ!!」
囲まれたイタッチの集団は突破口を開こうと、全方向から兵士達に攻撃を仕掛ける。兵士達も対抗して武器で攻撃をするが、それこそがイタッチの狙いだ。
狭い部屋で乱戦となることで、イタッチはひっそりと兵士の一人に変装する。そして兵士の中に紛れ込んだのだ。
ゲンゴロウはそのことに気づかずに兵士達に指令を出す。
「全員を捕えろ!! 一人も逃すなよ!!」
ゲンゴロウが気づいていないのも当然だ。イタッチと戦うのは初めてだ。彼がどういう手段を使うのかを知らないのだ。
ゲンゴロウも戦闘に混ざろうとするが、それをネコ刑事が止めた。
「待ってください。ゲンゴロウさん!!」
「なぜ止める!? イタッチは目の前にいるのだぞ!?」
「あれは奴の作戦です。人を集めて姿を消す。すでに奴はあの中にはいませんよ!!」
ネコ刑事のアドバイスを聞き、ゲンゴロウは驚きながらも信じることにした。部下達に戦闘を止めるように命令しようとしたが、天井から物音が聞こえてくる。
鎖の揺れるような音。コン刑事が天井を見ると、天井にはイタッチが張り付いており、折り紙で作った檻を落とす準備をしていた。
「まずいっす!?」
コン刑事は近くにいたネコ刑事とゲンゴロウの服を掴み、二人を引っ張って後ろにある部屋へと逃げ込む。
イタッチが檻を落として、兵士達が閉じ込められる中、三人だけがどうにか逃げることに成功した。
「こ、これは!? 折り紙で作った檻か!?」
イタッチは兵士達の動きを封じると、お宝のある展示室を目指して走っていく。
兵士達は檻が落ちてきて、自身達が捕まったことを理解した時にはイタッチの姿は見えなくなってきた。
拳銃で柵を破壊しようとするが、固くて破壊できない。
「ゲンゴロウ隊長、脱出は不可能です。隊長達だけでもイタッチを追いかけてください!!」
何十人も閉じ込めた折り紙の檻だ。檻を破壊するためには大量の水が必要となる。
兵士達は捕まっていないゲンゴロウ達にイタッチを追うように頼む。
ここで動けるのは三人しかいないため、ゲンゴロウ、ネコ刑事、コン刑事の三人はイタッチを追いかけることにした。
太陽の紋の展示されている部屋に辿り着くと、イタッチはすでにお宝を手に入れており、マントの裏にお宝を隠していた。
「怪盗イタッチ、お宝を返すっすよ!!」
コン刑事はイタッチを睨みつける。しかし、イタッチはマントを靡かせて、ニヤリと笑う。
「取り返してみな……」
⭐︎⭐︎⭐︎
轟美術館の外には多くの野次馬が集まっていた。普段よりも多くの警官達が野次馬が美術館に入らないように厳重に警備している。
警官達がいつもよりも敏感になるのは、マンデリンの件があるからだ。
マンデリンの放送以降、イタッチに対して敵意を持つものが増えた。
野次馬の中には「イタッチを倒せ」や「世界のための犠牲は必要」などの書かれたプレートを持った人もおり、もしも美術館に入り込めば、大騒ぎになるのは確実だ。
そんな野次馬達の中に入り込む、一人のジャーナリストがいた。カメラを持った白馬は野次馬の姿をカメラで撮影する。
「彼を讃えるものも多かったはずなのに、自身の身が危険になれば、ここまで変わるか……」
白馬の名前は仲村 ケイイチ(なかむら けいいち)。フリーランスのジャーナリストだ。
彼は今回もイタッチの騒動を取材しに来ていた。
「しかし、怪盗イタッチ……。彼は何者なんだ…………」
ケイイチは手に持ったメモを確認する。そこには今回イタッチについて調べた情報がズラリと記載されていた。
怪盗イタッチ。年齢不明で正体不明の謎の大泥棒。動物の種類はおそらくニホンイタチ。怪盗としての活動は約10年前から確認されており、過去の写真と比べて、身長の伸び具合を考えると若い可能性がある。
不思議な折り紙を持っており、折ったものの効果を得られるという無敵に近い武器を持つ。弱点は水であるため、雨の日などの活動は避けられている。
天敵はフクロウ警部で月光という人物をきっかけに彼と出会い、それ以降はライバルとして何度も戦っている。イタッチを最も追い詰められるのはフクロウ警部であり、彼以外の人物が何度かイタッチを捕まえようとしたが失敗している。
イタッチにはダッチ、アンという二人の仲間がいる。ダッチはウサギで四神という中華マフィアのボスだ。アンはまだ子猫であるが、ネットや機械などの扱いが得意であり、それらを使ってイタッチをアシストしている。
この三人がイタッチ一味だ。
ケイイチは警察の関係者などに取材をしてここまで調べ上げた。だが、ここまでしかまだ分かっていない。イタッチの過去や何を目的にしているのか。
「彼が何者なのか、今回知れるんだろうか……」