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第69話 『未来のために』

参上! 怪盗イタッチ




第69話

『未来のために』




「な、なんでなんすか!?」


 コン刑事の声が室内に響き渡る。近くに置かれたコップが声の振動で揺れ、隣にいたネコ刑事は両手で耳を塞ぐ。

 フクロウ警部は椅子に深く座ったまま、淡々と事情を話す。


「今回はことが大きくなりすぎた。俺達じゃどうにもできない」


「それでもっすよ!! ここはイタッチを専門とする課っすよ!! なんでアタシ達は蚊帳の外なんすか!!」


「それが上の命令だ」


 フクロウ警部は興奮するコン刑事とは違い静かだ。

 彼らの話を聞いていたネコ刑事は、髭を触りながらフクロウ警部に尋ねる。


「警部の力があっても、今回は許可が降りないんですか?」


 フクロウ警部は表向きには公表していないが、国際警察やヒーロー連盟にも所属しており、各国の警察などの組織とも繋がりがある。

 そのため海外でも活動することができ、さらには様々な組織から応援を呼ぶこともできる。そうしてイタッチを長年追いかけてきたのだ。


 しかし、フクロウ警部はネコ刑事の問いについて首を横に振る。


「今回は許可は降りない。イタッチはそれだけ大きな事件に巻き込まれたんだ……」


「それじゃあ、今回は誰がイタッチを止めるんですか?」


 フクロウ警部はテーブルに置かれた書類をコン刑事とネコ刑事の二人に見せる。


「今回は彼らが中心となって動くようだ」


「特殊防衛隊ゲンゴロウ……」


 フクロウ警部の見せた書類には軍人について書かれている。

 フクロウ警部は書類の一番上に書かれたゲンゴロウを指差す。


「そしてゲンゴロウ隊長が今回の指揮をする」


 コン刑事はゲンゴロウ隊長の写真に写された姿を見て、目を丸くして驚く。


「この方……写真からでも分かるっす。かなり強いっすね」


 それを聞き、フクロウ警部は頷く。


「ああ、彼は何十年も国を危機から救い上げてきた優秀な軍人だ。我々よりも実戦に長けている。それに特殊防衛隊ゲンゴロウのメンバーも実力者が多い、彼らならどうにかしてくれるはずだ…………」


 フクロウ警部は最後の方は声が小さくなり、自信がないような形で喋る。



 マンデリンが国会議事堂を破壊した後、新たにイタッチから予告状が届けられた。

 それは轟美術館にある太陽の紋と呼ばれるお宝を盗むというものだ。


 マンデリンの事件があってから、イタッチは今まで以上に注目されることになり、そして政府もイタッチ確保へと乗り出した。

 そしてイタッチ逮捕のために現場の指揮を任せる人物を、フクロウ警部からゲンゴロウへと変えたのだ。



 そんなフクロウ警部の姿を見て、コン刑事は力強くテーブルを叩く。


「警部!!!! 警部は長年イタッチを追ってきたんすよ!! こんなところで諦めて良いんすか!?」


 力強く訴えるコン刑事だが、フクロウ警部は椅子を回転させて背を向けた。


「今回はしょうがないんだよ」


 低い声で答えるフクロウ警部。その言葉を聞き、コン刑事は拳を握りしめた後、ネコ刑事の腕を掴む。


「ネコ先輩。行きましょう!!」


「え? 天月刑事? ちょっと、どこ行くの……どこ連れていくの!?」


 コン刑事はネコ刑事を連れて、部屋を出ていく。フクロウ警部は背を向けたまま、振り返ることはなく。深くため息を吐いた。




 コン刑事はネコ刑事を連れて部屋に出た後、近くにある休憩室に立ち寄っていた。

 休憩室には自販機が二つと、三人座れるベンチ。奥には喫煙所がある。


 コン刑事は自販機に小銭を入れると、ブツブツと言いながらオレンジジュースを購入する。


「警部は何があってもイタッチを諦めないと思ってたんすけどね。なんなんすかもう……てか、警部ならあんな軍人よりもイタッチを捕まえられるはずなのに、なんでなんすか……もう、もう!」


 そんなコン刑事の姿を後ろで見ながら、ネコ刑事がクスリと笑う。


「天月刑事はフクロウ警部のこと、そこまで信頼してくれてたんだね。はは、僕としては嬉しいよ」


「先輩!! 何言ってるんですか、アタシはフクロウ警部にイラついてるんすよ。なんで上からの命令だからってすぐ諦めたのかって!!」


 コン刑事は出てきたジュースの蓋を開けて、グビグビと飲み始める。


「でもそれってフクロウ警部なら反発してでも、イタッチを追うって思ってたってことだよね。まぁ、僕もそうなると思ってたけど、今回はそうしなかった。それは君のことを思ってじゃないかな?」


 ネコ刑事の言葉を聞き、コン刑事は疑問に感じて質問しようとする。しかし、勢いよくジュースを飲んでいたこともあり、変なところに入り咽せてしまう。


「ぐっは!? ゲホゲホ……」


「大丈夫?」


 ネコ刑事はコン刑事の背中を摩る。摩られて落ち着いたコン刑事は改めて質問する。


「それはどういうことっすか?」


「僕とフクロウ警部は警察内では異端な存在なんだよ。フクロウ警部はイタッチを専門にしすぎてるし、僕も色々経歴に問題があるからね。でも、君は違う」


「アタシは違う?」


 コン刑事が首を傾げると、ネコ刑事は頷く。


「君には未来があるんだよ。僕達と違って、警察官としての将来があるからね。だからこそ、君が上層部に嫌われることがないように、警部は今回は大人しくいようと決めたんじゃないかな」


「そんな……アタシのために…………」








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