第68話 『崩壊へとカウントダウン』
参上! 怪盗イタッチ
第68話
『崩壊へとカウントダウン』
時計がカチカチと音を鳴らし、秒針が回る。コートを羽織り、毛並みを整える。
「さてと、スペリオン、ミシガル、ヒュンドル、エリー、オタリオン。準備は良いかね?」
ヤギはニヤリと笑い、仮面とフードで姿を隠した仲間達に話しかける。彼らはコクリと頷くと、ヤギの後ろに並んで立った。
「では、撮影を開始してくれ……」
ヤギの指示を受けて、カエルはカメラのスイッチを入れた。
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イタッチがカケココロを手に入れた翌日。全国を震撼させる事件が起きる。
そのニュースは現地の映像とともに報道され、国民に恐怖を植えつけた。
瓦礫を埋もれた建物。パトカーと警官が建物を囲み、原因を調べていた。
──国会議事堂の崩壊──
建物のある地面のみが揺れて、建物を崩壊させてしまった。奇跡的に怪我人は出なかったが、地面は割れて、そこには瓦礫のみが残った。
建物の崩壊と同時に、ある人物から国民に向けたメッセージが届けられた。
コートを羽織ったヤギが、フードの人物達の前に立ち、建物を破壊したのは自分であると宣言した。
そしてヤギはニヤリと笑い、
「次、イタッチの討伐をする意思を見せなければ、期限を待たずしてこの国を沈めよう」
マンデリンはそう宣言したのである。
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とある街にある喫茶店。そこにイタッチ、ダッチ、アンの三人が集まっていた。店の扉には貸し切りという看板がつけられており、店内を見えないようにカーテンを閉めていた。
「マンデリンの野郎、なにがしテェんだ!!」
ダッチは力強くテーブルを叩く。テーブルが揺れて、置かれたコップに入ったコーヒーが波打つ。
イタッチ達はお宝を手に入れることに成功した。しかし、その翌日、マンデリンは国会議事堂を破壊したのだ。
それはこの国に対しての脅しであり、彼らの力が本物であり、さらには本気であるという意思表明でもあった。
興奮するダッチの肩を撫でて、イタッチが落ち着かせる。
「気持ちは分かる。だが、冷静になれ」
「だがよ、相棒!! アイツらなんでこんな回りくどいやり方をするんだ。俺達に復讐をしたいなら、直接来れば良いじゃねぇか!!」
それでもダッチは落ち着かず、身体を震わせながら叫ぶ。
マンデリンはモカという人物の弟だ。とある施設の元軍人であり、兄弟で軍人として働いていた過去がある。
しかし、ある出来事から二人は軍から離れて、モカは逃亡。マンデリンは捕まり監獄へと行くことになった。
その後、モカはアンを利用して軍のシステムに入り込み、世界中で戦争を起こそうとしたが、イタッチによって妨害された。
イタッチに敗北したモカの敵討ちのために、マンデリンは釈放後、その関係者を襲撃してまわっていた。
そしてついにイタッチ達を狙い始めたのである。
アンはパソコンの画面を見ながら、ぽそりと呟く。
「おそらく私達を孤立させるためでしょう」
アンはパソコンの画面に映し出された文字を目で追っていく。それはSNSなどで書き込まれたものであり、イタッチ達に対する批判が寄せられていた。
元々イタッチの世間でも評判は、お宝を盗む悪党である。しかし、特に人を救ったり、悪事を暴いたりという行為をするため、完全な悪党として扱われていない。
それにイタッチ達を応援している集団やファンもおり、良い意見も悪い意見も同じ程度集まっていた。
だが、今回の事件が原因で多くのものがイタッチを敵対視し始めた。それは今までイタッチとは無縁の存在だったもの達であり、無関係の泥棒という考えでいた人達が大半だ。
彼らは自身の身の危険を感じ、今回の事件に巻き込んだ人物としてイタッチを叩き始めたのだ。
ダッチはアンの言葉を聞き、はぁっとため息を吐く。
「元々味方の少ないもんだろ。なんで孤立させる必要があるんだよ」
ダッチの問いにアンはパソコンから目線を逸らさずに答える。
「敵でも味方でもない野次馬が敵になったんです。それだけで脅威なんです……。マンデリンの狙いはそれなんですよ」
イタッチ達とは無縁と関わってこなかった人達。彼らが身の危険を感じたことで、イタッチ達の敵となる。
味方は増えず、どこを見渡しても敵の状態。マンデリンはこれを作るためだったのだ。
イタッチはテーブルに置かれたコーヒーを一口飲んでから、
「それにだ。俺達は逃げ続けるがそうすれば、この国を沈めると宣言してる。逃げても捕まっても、俺達に道はない」
「じゃあ、どうすんだ!? 諦めて捕まるのか?」
ダッチが尋ねると、イタッチはコーヒーをテーブルに置いて、ニヤリと笑った。
「誰が諦めるって? 俺は怪盗イタッチ様だぜ。何があろうと、お宝は手に入れてみせる」
「お宝? 何する気なんだ?」
イタッチは立ち上がるとマントを靡かせる。
「マンデリンからこの世界を盗んでやる。アイツらの思い通りにさせてやるものか!!」
それを聞き、ダッチとアンは顔を上げる。
「でも、イタッチさん、どうするんですか?」
「予告状を出すのさ。マンデリンを倒すためにな」