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第65話 『野次馬』

参上! 怪盗イタッチ




第65話

『野次馬』




「そろそろか……」


 ヤワルナー美術館の周囲には多くのマスコミや野次馬達が集まっていた。普段の倍以上の人が集まり、警察の警備も半分近くがマスコミなどの対応に追われている。

 そんなマスコミの中に一人。カメラを手にした白馬がいた。白馬の名前は仲村 ケイイチ(なかむら けいいち)。

 彼はフリーランスのジャーナリストであり、自身の足で取材して、取材内容を出版社に売ることで生活している。


 普段はイタッチの取材は他の記者に任せているが、今回イタッチの取材にやってきたのは大きな事件があったからだ。


「マンデリン……もしもイタッチが無事にお宝を手に入れたら、彼らは何をする…………」


 ケイイチがやってきた理由。それはマンデリンの放送である。マンデリンはスマホやパソコンなどを使い、日本全国に映像を公開した。その中で彼は日本にあるゲームの提案をした。

 それこそがイタッチ討伐ゲーム。一ヶ月以内にイタッチを討伐することができなければ、日本を沈没させると宣言したのだ。


「今回は今まで以上に大きな騒動になるぞ……」


 政府からは報道に制限はかけられている。しかし、すでに国民にマンデリンのことは知られて、半分パニック状態だ。

 それでもまだ日本が国として形を纏っているのは、まだマンデリンの脅威を知らないからだ。どこの誰かもわからない人物に脅されても、それを信じる人は一部だということだ。


「やぁ、ケイイチ君!」


 報道陣の中からケイイチを呼ぶ声。ケイイチが振り返ると、後ろにはカメラを持ったアリクイがいた。


「和田さんじゃないですか。あなたも取材に?」


 和田と呼ばれたアリクイは頷く。


「ああ、君もそうみたいだね」


 二人は軽く挨拶をすると、和田はここに来るまでに見かけた人物について雑談する。


「しかし、今回はマスコミも野次馬も有名人が集まってたな」


「そうなんですか? 和田さん」


「ああ、あそこにいるのは探偵のシンメンタール君。あっちにいるのは悪の組織のネズミ将軍。そこはCOLORSのリドルグ。なかなかのメンツだ」


 和田の言う通り、かなりの実力者が今回の美術館を囲んでいた。

 その他にも四神のウンラン、不思議屋敷のフシギ伯爵、パンテールのヒョウなども集まっている。


 彼らは見に来たのだ。大きく時代の動く瞬間を……。ここが全ての分岐点である。


「和田さん。あなたは今回、どうなると考えてるんですか?」


 ケイイチは和田に尋ねる。和田は前足で鼻を擦ってから、目を細めて答える。


「ジャーナリストとしての勘だが。今回は前兆だ」


「前兆ですか」


「波で例えるなら。大きな波の起こる前の静けさ……。ここがどう動くかで、今後の大津波の危険度がわかる……」


「つまり……」


「これだけの大物が揃って、これだけ静かってのは危険だ……」




 ⭐︎⭐︎⭐︎



 ヤワルナー美術館の西側。


「ここから先は関係者以外立ち入り禁止です!」


「危険ですので押さないでください!!」


 警察達が野次馬を誘導する中、その野次馬の中に一人の男がいた。


「やっと動き出したか……。待ちくたびれたぜ、マンデリン…………」


 黒いマスクをして口元を隠したジャージ姿のカカポ。カカポは美術館に背を向けると、野次馬の中から出ていく。そしてニヤリと笑い独り言を呟いた。


「さぁってと……このことをあのお方へ報告するか」




 ⭐︎⭐︎⭐︎



 とある監獄でもマンデリンについての噂は広まっていた。


「なぁ、聞いたかよ。この前の地震、例のマンデリンって奴が起こしたって噂だぜ」


 モグラの囚人がクスクスと笑いながら、隣の牢屋にいるカニに話しかける。カニはハサミを閉じたり開いたりしながら、楽しそうに笑う。


「ガハハ!! 地震だぁ? そんなの起こせる人間がいるかよ」


「嘘じゃねぇって、そう言う噂なんだよ」


「噂だろ! 馬鹿馬鹿しい。なぁ、あんたはこの噂、どう思うんだ?」


 モグラから話を聞いたカニは、さらに隣の牢屋にいる囚人に話しかける。話しかけられた赤い豚は大きなあくびをする。


「ふわぁぁ……。地震を起こせるか……。そんなものが本当にあったなら、俺の計画も成功していたかもな……」


「ほぉ、ジャスミンの麗音。アンタが欲しがるとはなぁ」


「ふん……まぁ、今思えば、俺の計画は失敗して良かったさ」


「大人しくなったものだな。あの“戦場”の鬼が今は囚人の優等生ちゃんだからな」


 カニが麗音の現状にため息を吐く中、向かいにある檻にいるオランウータンがケッと唾を吐く。


「俺もイタッチやエリソンに邪魔されなければ、俺は世界を手に入れていた。そういうお宝はこの世に存在する……。マンデリンがそんな武器を持っていてもおかしくない」


「VIPERのアルダインか……」


「ふん、俺はVIPERを利用していただけだがな」


 アルダインは腕を組んで、壁に寄りかかる。


「しかし、マンデリンが持っている地震を起こす手段……。俺も欲しいものだ」


 アルダインが呟くと、麗音がため息を吐く。


「まだ諦めてないのか?」


「お前のように俺は野望を諦める気はねぇ。必ず脱獄してやる。そして俺は世界を手に入れる!!」


「くだらん。脱獄宣言をしていたと、看守に報告しておこう」


 麗音はやれやれと首を振る。そんな麗音の姿を見て、アルダインは麗音に睨みつける。


「脱獄の機会があっても貴様は誘ってやらん」


「俺はそんなことはしない。しっかり罪を償うさ」


 麗音とアルダインの話を聞き、近くにいたカニの囚人が笑う。


「ガハハ!! 元気だなぁ、お前達……。さてそろそろ寝ようか、イタッチがどうなったかはどうせ明日にならないと分からん」




 ⭐︎⭐︎⭐︎



 とある街にある飲み屋。そこに仕事終わりのゴリラの警官が立ち寄る。


「いらっしゃい。そちらの席にどうぞ」


 店員に案内してゴリラ警部はカウンター席に座る。座ると同時に注文を済ませ、注文したお酒が届くと一口で半分ほど飲み干した。


「はぁぁぁっ! うまい!!」


 酒を飲んで顔を赤くするゴリラ警部。そんなゴリラ警部を横目で隣にいた客が話しかけた。


「相変わらず豪快だな……」


「ん? …………お前は!?」


 話しかけてきた客を見ると、そこにはサソリがいた。サソリは串焼きを食べながら、酒をちびちびと飲む。

 ゴリラ警部はサソリを見て目を丸くする。


「なんでお前がここに!?」


 そんなゴリラ警部の問いに、サソリはため息を吐く。


「それは俺のセリフだ。……ここは俺の行きつけの店だ」


「それを言ったら俺もだよ!」


 ゴリラ警部は丁度注文していた焼き鳥が届き、豪快に一口で一つの串を食い切る。

 肉を頬張る姿を見て、懐かしそうにサソリは微笑む。


「変わらないな。お前は……。懐かしいな、昔は三人でよくここに来てた」


 ゴリラ警部とサソリ、そしてフクロウ警部はかつての同期だ。新人時代を共に過ごし、事件に立ち向かってきた。

 しかし、ある事件がきっかけでサソリは姿を消していた。この世からいなくなったものだと思われていたが、サソリは生きており、対立をすることもあったが、ある事件を解決するため、三人は数年振りに再開して力を合わせた。


 ゴリラ警部はサソリの目を見て少しトーンを下げて尋ねる。


「今は何してるんだ?」


「パンテールと行動している。リドルグの支援もあってな、正攻法じゃ捕まえられない犯罪者を捕まえてる」


「ふっ、お前はお前の正義を貫けてるんだな。それなら良いさ」


 ゴリラ警部は少し安心した様子で、ホッと肩を下ろす。そんなゴリラ警部に今度はサソリが質問する。


「あんたはどうしてるんだ? あの太っちょフクロウと仲良くしてるのか?」


「阿呆。誰があんなデブフクロウと仲良くするかよ。アイツはずっとイタッチを逃げられてる馬鹿だが、俺は暴力団をきっちり締め上げてる。格が違うんだよ、格がな!! 俺の方が出世は早いかもな!!」


 座りながら胸を張って威張るゴリラ警部。そんなゴリラ警部を見て、やれやれとサソリは首を横に振る。


「相変わらず張り合ってるんだな……。とはいえ、出世が早いのは俺だ。お前らは将来俺の下になるんだ、あぁ、可哀想なゴリラとフクロウ」


「んあぁ? そんなわけねぇだろ、俺が上だ」


「お前が下だ。俺が上だ」


「俺だ!」


「俺だ!!」


 ヒートアップし始めた二人。流石にうるさかったのか、店員に「静かにしてください」と言われて、二人は冷静になる。

 黙々とそれぞれのペースでお酒を飲み始める中、サソリはボソリと独り言のように尋ねる。


「今回は応援で呼ばれてないのか?」


「ねぇよ。こっちの課も忙しかったからな」


 フクロウ警部は自由に必要な人材を呼ぶことができる。そのためイタッチを逮捕するためにゴリラ警部に声がかけられることもある。

 しかし、今回はゴリラ警部達が忙しく、警備に参加することができなかった。


「なぁ、ゴリラ。マンデリンについてだが……」


「ああ、分かってるさ。飲みながら待とう。それしか今の俺達にはできない」









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