第56話 『コウモリとイタチ』
参上! 怪盗イタッチ
第56話
『コウモリとイタチ』
ローベルの攻撃により、右半身に大ダメージを負ったイタッチ。右手右足はダメージから動かすことができず、残った左半分で戦闘を続けることにした。
「グロロロロ……身体半分が動かなくなっても戦意を失わないか」
ローベルはダメージを負ったイタッチがまだ戦意を失っていないことに感心する。
イタッチは残った左手に折り紙を持つと、頬を上げて額から汗を流しながら
「俺は怪盗だ。お宝がすぐそこにあるのに諦めるかよ」
「まだエミリー様を狙うか……。今度こそ、貴様の身体を粉々にしてやろう」
ローベルは再び剣を掲げて、コウモリ達を呼び出す。また黒い物体を飛ばす技をするようだ。
ローベルが攻撃の準備をして、剣をコウモリ達を集める中、イタッチは折り紙を左手と口を使って折っていく。
右手が使えないことでいつもよりも時間がかかるが、左手と口を上手く使って完成させた。イタッチはその作ったものを片手に、後ろへ一歩下がる。
そんなイタッチの様子を見て、ローベルは眉をひそめる。
「何かするつもりか……だが、もう遅いぞ!!」
ローベルは剣を振り下ろして、黒い物体をイタッチに向けて飛ばした。黒い物体が飛んでくる中、イタッチは後ろにある物に手を伸ばした。
それは先ほど使用した電磁砲。イタッチが電磁砲のスイッチを入れると、装置が起動して電磁砲は弾丸を発射した。
しかし、砲台は地面の方を向いており、弾丸は地面を撃ち込まれる。
「何を!?」
電磁砲の弾丸は地面を砕いてヒビを入れる。そのヒビは先ほど作られた地割れまで届き、イタッチのいる足場は崩れて、崖の方へと崩れ落ちていく。
「グロロロロ!! 自爆か!!」
イタッチは電磁砲と共に地割れした地面の下へ落ちていく。崖から落ちていったイタッチを、ローベルは笑いながら見送った。
「ふん、勝てないことを悟って自身から命を断つとはな。さて、奴が崖下に叩きつけられれば、この空間も消えて解放されるはずだ。そしたら残りのやつも始末して………………っ!?」
勝利の余韻に浸っていたローベルであったが、ローベルの両足が突如切断される。足を失ったローベルはその場に倒れる。
「な、何が起き……」
ローベルは自身が先ほどまで立っていた場所を見る。すると、地面から黄色いビームが突き出していた。
「ビーム? なんだこれは、これが私の足を切ったのか!?」
ビームは地面の中に引っ込んで姿を消す。そして崖の下からイタッチの声が聞こえてきた。
「俺を倒したと思ったか!! 残念、俺はやられてないぜ!!」
「な、生きていたのか!?」
崖の下からプロペラを足で掴み、左手に光線を放つ剣を持ったイタッチが登ってくる。
プロペラを足で持っていることで逆さの状態のイタッチは、空を飛びながら左手に持った剣を振る。
すると、剣からビームが出て伸びると、倒れているローベルの両手をスパスパと切断した。
「ぐっ!? まさかやられたふりをしていたのか」
「そうだ」
イタッチは電磁砲を地面に撃つことで、自身の足場を破壊して崖の下へと落ちていった。
ローベルが勝利したと思い込んでいる隙に、前に作っていたプロペラを呼んで、落下中に足でプロペラを掴んで落下を回避。そのまま上空へと飛び、さらに作って落ちたビームソードで地面の中からローベルに攻撃を仕掛けた。
プロペラから足を離したイタッチは地面に着地する。そして両手両足を失って倒れているローベルの前に立つ。
イタッチはローベルを見下ろす。
「さて、ローベル。君の再生力なら手足を元に戻すのも余裕だろう。だが、こうすれば再生よりも先にトドメをさせる」
イタッチはビームソードの先をローベルの胸の前へ向ける。
「お宝は俺がもらう……」
「賊が……絶対に許さん」
「だが、エミリーは助けてやる」
「はっ!?」
⭐︎⭐︎⭐︎
それは昔々の物語。あるところにそれは才に優れた少年がいました。彼はその才能を使い、故郷の村のために便利な道具を次々と作っていきました。
村は少年のおかげで栄えました。しかし、生活が楽になった村人達でしたが、それと同時に少年を恐れるようになったのです。
当時の技術を遥かに超えた物を作る彼の才能に、村人達は恐怖を覚え、彼を村から追い出してしまったのです。
「……なんで、こんな…………俺はみんなのために……かーちゃん、とーちゃん…………」
村から追い出された少年は山を一週間以上彷徨い、ついに力尽きて突っ伏す。
「はぁ……もうここまでみたいだ…………」
朦朧とする意識の中、少年の視界に黒いブーツが現れる。
「誰だ……死神か? 俺を向かいにきたんか?」
少年は顔を上げる体力もなく、ブーツを見てブツブツと呟く。すると、ブーツを履いている人物だろう。女性の声が聞こえてくる。
「死神か。そんな優しいものじゃないよ……。なぁ、少年よ、君はまだ生きたいか?」
目が覚めると、少年は見知らぬベッドで寝ていた。周囲を見渡すと、そこは小さな村から出たことのない少年が初めて見るばかり。
石で作られた壁、平べったい何かに描かれた絵。小瓶に入れられた花。
状況が理解できずにいる少年は、ベッドから降りようとすると、それと同時に扉が開き、一人の女性が入ってきた。
「目覚めたか。具合はどうだ?」
「え……死神?」
女性の声を聞き、少年は意識を失う前に聞いた声の人物だとすぐに分かる。
「死神ではない。私はエミリー・アルカード。この城の主だ」