第48話 『仕掛けだらけの屋敷』
参上! 怪盗イタッチ
第48話
『仕掛けだらけの屋敷』
「シンメンタールさん、これ見てください」
屋敷に入ったラーテルが埃の落ちた扉と階段を見つける。それを見てシンメンタールは頷く。
「どうやら先に来ている人物がいるようだね」
「イタッチでしょうか?」
「いや、そうとも限らない。奥の扉と階段の二つのルートに分かれてる。ここで別れたか、別の者かだろう」
「どちらを追います?」
奥の扉と階段。先に屋敷に入ったものの痕跡は二つある。しかし、シンメンタールはあることに気づいた。
「階段の途中で痕跡が消えている。何が起きたな……引き返した……いや違うな」
シンメンタールはしゃがんで床を凝視する。そして床をコンコンと叩いてみた。
「トラップがあるようだね」
「え!? どこに?」
「至る所にだよ。この屋敷はトラップだらけ、カラクリ屋敷とでも行ったほうがいいか」
シンメンタールはロビー全体を軽く見渡しながら言う。
そのシンメンタールの様子を見てラーテルも全体を見渡してみる。しかし、ラーテルではシンメンタールほどトラップを見つけることができなかった。
シンメンタールは階段を指差す。
「おそらく階段を登った人物はトラップにやられて、下に落とされたんだ」
「じゃあ、階段を登るのは危険ですね」
「その通りだ。この階段は避けよう。……そしてこの屋敷がトラップだらけなのだとしたら、そのトラップがなんの目的で作られたのか知る必要がある」
「トラップの目的ですか? そんなの知る必要あるんですか?」
「トラップの目的がわかれば、どこに仕掛けてあるのかわかるようになる。そのトラップの行き先もね」
シンメンタールは近くにある床や壁を触って、空洞がどれくらいあるのかなどを確認する。
「うん、まずは二階を目指そう。最初のトラップで二階への道を塞いでるということは、そこに何かあるのかもしれない」
「シンメンタールさん。でも、階段は使えないんですよ?」
「この階段は使えなくても他の階段が必ずあるはずだ。屋敷の構造から見せかけだけじゃないのは分かった。二階に上がるルートを探そう」
「はい! シンメンタールさん!!」
シンメンタールとラーテルは二階へと上がる階段を探して、まずは一階の探索を開始するのであった。
⭐︎⭐︎⭐︎
トラップによって、イタッチ、ダッチ、アンの三人はバラバラになってしまい、ダッチとアンは地下を探索しているのであった。
「ダッチさ〜ん、イタッチさ〜ん! どこですか〜!」
アンは暗い地下通路を一人で進んでいく。
イタッチとダッチとはぐれてしまったため、二人と合流しようと狭い通路を進んでいくが──
「想像以上に広いですね。それに入り組んでる……なんのためにこんなことを……」
アンは暗く狭い通路を冷静に分析する。バッグに入れていたパソコンを開き、通路の構造をメモしながら先へと進んでいく。
「これで西側の通路は全て記録できました……。しかし、この構造は……まるで迷い込んだ人を逃さないとするような…………」
アンが構造について考察する中、奥の通路から声が聞こえてくる。狭い通路で声が反響して誰の声かはわからない。
「もしかしてダッチさんやイタッチさんかも!!」
アンは声の聞こえた通路へと急ぐ。しかし、そこにいたのは──。
「え……」
フクロウ警部ともう一人、黒いコートを着た白髪の男性。尻尾や耳はないため、見た目は人間だ。しかし、一つ奇妙な点があった。
「牙……」
男性には牙があったのである。アンはフクロウ警部とその男性を警戒して、隠れながら様子を見る。
フクロウ警部は男性に職務質問をしている様子で、免許証の提示をお願いしている。しかし、男性は応じることなく、フクロウ警部の両肩をがっちり掴んだ。
「ちょっと何をする気ですか?」
「いただきます……」
男性はフクロウ警部の首元に口を近づけると、ネコ刑事の首を牙で突き刺した。
「ギャァァァァッ!!」
フクロウ警部の悲鳴が通路に響き渡る。牙から男性はフクロウ警部の血を吸い取る。血を吸われたフクロウ警部は白目を剥いて、その場に崩れ落ちる。
男性は血を吸い終わると、腕で血を拭った後、倒れたフクロウ警部に語りかける。
「さぁ、我が眷属よ、起きるがいい」
「はい。アルカード様」
男性の呼びかけにフクロウ警部は起き上がる。
フクロウ警部は白目を剥いたままで、口元には牙が見える。そんなフクロウ警部達の様子を見て、アンは震えながら隠れた。
「もしかしてあれって、吸血鬼!?」
アルカードと呼ばれた吸血鬼はニヤリと笑う。
「ふふふ、今日は侵入者が多いようだ。狩りが楽しみだよ……」
不気味な声で笑うアルカード。アンはとにかくこの場から離れることにした。走って地下通路を走り抜ける。
「早くダッチさんとイタッチさんに知らせないと!!」
しばらく通路を走ったアンは、もう吸血鬼は追ってこないだろうという場所まで逃げ、一旦足を止めた。
ハンカチで汗を拭き、呼吸を整える。
「しかし、吸血鬼ですか……まさかお宝を守る番人が吸血鬼だったなんて、びっくりです。それに──」
フクロウ警部は吸血鬼に血を吸われていた。アンはパソコンで吸血鬼について調べる。
すると、予想通りの検索結果が出てきた。
「吸血鬼に噛まれると吸血鬼になってしまう……。そういうこともあるんですね…………ということはフクロウ警部は吸血鬼になってしまったってことですか……」
アルカードはフクロウ警部を眷属と呼んでいた。フクロウ警部の様子からそれは確実だろう。
「とにかく今は合流を……」
アンはイタッチ達と合流するため、通路を進もうとする。すると、アンが向かおうとしていた通路から誰かが歩いてくる。
「ん? おう、無事だったか!!」
「あ!! ダッチさん!!」
通路の奥から現れたのはダッチ。
「ダッチさんも無事だったんですね!! 良かったです!」
アンはダッチの元へと駆けていく。