第38話 『対決シンメンタール』
参上! 怪盗イタッチ
第38話
『対決シンメンタール』
アゲート美術館。そこの三階にある宇宙エリアのビッグムーンストーンの展示室。そこにフクロウ警部、ネコ刑事、コン刑事、シンメンタール、ラーテルの五人が集まっていた。
その他には他の展示室に3名ずつ警備員を配置。外にはパトカーが三台と40名の警察官が美術館を囲う。
展示品であるビッグムーンストーンを眺めて、コン刑事が呟く。
「本当に美しい宝石っすね〜、こんな綺麗なものがあるなんて。凄いっすよ」
その言葉を聞き、ラーテルも頷く。
「はい。私もこんな綺麗な宝石初めて見ました。絶対にイタッチから守りましょうね!」
「そうっすね! 絶対に守るっす!! そういえば、ラーテルちゃんはなんでシンメンタールさんの助手をやってるんすか?」
まだ予告の時間まで余裕があるため、コン刑事はラーテルにずっと気になっていたことを尋ねる。
「そうですねぇ〜、出会ったきっかけは偶然で、そこから手伝いをするようになって……気づいたら助手をやってました!」
「そんな感じなんすか? もっと理由があったりとかは?」
「ないですね。最初は探偵に興味もなかったですし…………でも、なんていうか、シンメンタールさんって頼りになるようでドジなんです。そこを支えるのが私かなと!」
「そうなんすね〜、意外っす。探偵になりたくて弟子入りしたのかと思ってたっす」
「そうじゃないんですよ〜」
コン刑事とラーテルが雑談をする中、フクロウ警部とシンメンタールも思い出話を始めた。
「フクロウ君。太ったんじゃない?」
「なぁ!? そんなことは……あるかもだが…………。シンメンタールはどうなんだ!?」
フクロウ警部の質問に、シンメンタールは触れと言うように腹を差し出す。フクロウ警部がシンメンタールの腹を摩ってみると、
「……シンメンタール、お前そんなに、鍛えてたか? 勉強と探偵部ばかりに力を入れてて、運動は苦手だった記憶があるんだが……」
シンメンタールは鼻を鳴らして、胸を張る。
「実際に探偵をやってると、動くことの方が多くてさ。張り込みもあるし、犯人を捕まえるためにも、あの頃のままだとな」
「凄いなぁ、君は」
「そうは言ってもフクロウ君も凄いじゃないか。まさか警官になるとは思ってなかったよ。昔の夢はなんだったっけ?」
「昔の夢か〜、そうだな〜金持ちになること」
「……凄いな君は」
シンメンタールが呆れた様子でフクロウ警部を眺める。しばらく見つめ合った二人だが、時を同じくして大笑いを始めた。
──しばらく時間が経ち、ついに予告の時間となった。
「予告の時間だ。皆警戒しろ」
フクロウ警部が皆に伝えると同時に、部屋の照明が全て落ちた。
「なっ!? 明かりが!! 急いで明かりをつけろ!!」
フクロウ警部が命令を出すと、コン刑事とネコ刑事は同時に照明をつけるため、動き出した。
二人は部屋の端につけられた予備電源のスイッチの場所を目指して、暗闇の中を慎重に進む。
「痛っ!?」
急いでいた二人は、暗闇の中で頭をぶつけ合う。
「ごめん。天月刑事、そこにいたのか」
「アタシこそ、ごめんっす。先輩」
二人は頭を押さえながら、再び、予備電源を入れにいく。ネコ刑事とコン刑事は二人でレバーを握ると、同時にレバーを下げた。
すると、電源がついて部屋が明るくなる。そしてこの場にいる全員は、現在起こっている状況に息を止めた。
「なっ!? フクロウ警部が二人に増えた!?」
視界が元に戻った皆が目撃したのは、二人に増えたフクロウ警部の姿であった。
皆はフクロウ警部を警戒して一度距離を取る。フクロウ警部は自身と同じ姿のもう一人の自分を見て、混乱しているのか、ぼーっと立っていた。
フクロウ警部の状況を見て、シンメンタールが皆に伝える。
「イタッチの仕業だ。みんな警戒するんだ!! どっちかがイタッチだぞ!!」
シンメンタールは皆に指示を出して、二人に増えたフクロウ警部を囲む。とりあえずは逃げ場は塞いだが、どちらが偽物なのがわからない。
「シンメンタールさん、どっちが本物なんですか?」
ラーテルは二人に増えたフクロウ警部を、凝視しながら聞く。じっくり見てみるが、どちらも違いはない。
「それをこれから探るんだよ」
シンメンタールがそう言うと、二人のフクロウ警部は同時に叫ぶ。
「「俺が本物だ!!」」
どちらも声も同じ。
シンメンタールは顎に手を当てて考え込む。
「見た目、声、仕草……どれも同じか…………後は」
シンメンタールは部屋に置かれた美術館のパンフレットを手に取る。そして適当なページを開くと、フクロウ警部達に見せる。
「では、このお宝について。説明してくれないかい?」
シンメンタールがそう言うと、まずは右にいる一人目のフクロウ警部が答えた。
「あー、デラックスボール……。さっきチラッと見たが、綺麗な石だったな。黒かったぞ」
続いて左にいるフクロウ警部が答える。
「デラックスボールは1867年に発掘された鉱石であり、インドの探検家クリシュナが見つけたものです。グリーンスモークに近づけることで、黒いから紫色へと色が変化します」
二人のフクロウ警部が答えた。二人の回答を聞き、シンメンタールはニヤリと笑った。
「どちらが偽物か、分かりました。しかし、その前にもう一人の侵入者を捕まえておきましょうか」
シンメンタールは隣にいるネコ刑事の腕を掴む。
「な、なんですか? シンメンタールさん」
ネコ刑事が汗を流して焦る中、シンメンタールの行動を見て、ラーテルもすぐにネコ刑事のもう一つの腕を掴んだ。
二人は協力して、抵抗するネコ刑事にロープをつける。コン刑事が口をポカーンとさせる中、ネコ刑事を捕まえたシンメンタールは、ネコ刑事の顔を触る。
「おそらく警視庁で待機してる時に入れ替わったんでしょうか。あなたの正体は……」
シンメンタールはネコ刑事の顔をペリッと剥がすと、顔の表面は折り紙で作られたものであり、中からダッチの顔が現れた。
「ダッチ!? ネコ刑事に変装してたんすか!?」
「ああ、でも、ダッチ。君はミスをしてしまったようだね」
シンメンタールはネコ刑事が偽物だと気づいた時について語る。
「明かりが消された時、君は周りが見えていなかった。そのため、コン刑事とぶつかってしまった。しかし、ネコ刑事は暗闇でも少しだけ目が見えるんだ」
「なに……!?」
ダッチが驚く中、シンメンタールは解説を続ける。
「猫は夜行性だからね。ネコの目を持つネコ刑事は、その能力が猫よりも低くても、少し目が見えるんだよ。でも、君はウサギだ。暗闇では見えない」
「そうだったのか」
正体を見破られたダッチは悔しそうにしながら、その場に座り込む。ロープで捕まったというのに、まだ余裕があるという様子。
「テメェ、フクロウのどっちが偽物だかわかったって言ってたが、相棒を舐めるなよ」
「ああ、舐めてないさ。だからこそ、分かったんだよ」
シンメンタールは次に二人に増えたフクロウ警部の正体について、皆に伝えた。
「二人に増えたフクロウ警部。どちらが偽物なのか……答えはどちらも偽物だ」