第25話 『革命の演説』
参上! 怪盗イタッチ
第25話
『革命の演説』
全ては一人の男から始まった。
男の名は麗音。戦時中の国に生まれた彼にとっては、戦争こそが日常であった。
武器を手にして、戦果を上げ、彼は戦争の中でのし上がっていった。だが、ある日戦争が終わった。
祖国であった国は勝利はしたものの、平和な日々がやってくれば、かつての英雄は犯罪者へと変わった。
数々の戦場で名を残した彼は、上官であった老兵に連れられて国外逃亡。その後、亡命を繰り返しながら、同じような仲間を集めていった。
そうしてジャスミンは結成された。
⭐︎⭐︎⭐︎
「警部、エレベーターを動かします!」
無線でネコ刑事の声を聞いたフクロウ警部は、エレベーターに乗り込む。
エレベーターが動き出すと、フクロウ警部は帽子を深く被った。
「良くやった。ネコ刑事、コン刑事……後は俺に任せろ」
エレベーターが21階に到着する。
ここから上の階に行くためには、フロアの反対側まで行く必要がある。そのため、21階、22階、23階を順番に進み、やっと目的地の24階に辿り着く。
フクロウ警部がエレベーターから降りると、そこは赤い絨毯に、壁には西洋風の模様が描かれた豪華な廊下だった。20階以下とは明らかに作り込みが違う。
さらに壁には一定間隔に額縁が飾られており、麗音の写真が飾られていた。
「よっぽど自分が好きみたいだな」
フクロウ警部は廊下を歩き出す。廊下は四角形のドーナツ型であり、二つの路に分かれている。フクロウ警部は左を選んで進んでいき、反対側にある何事もなく、エレベーターの見える位置に辿り着いた。このままエレベーターに乗れれば良いのだが、エレベーターの前にフードを被った動物が立ち塞がっている。
どうやらジャスミンの一員のようだ。フードの動物はフクロウ警部に気づくと、フクロウ警部に身体を向ける。
「コソ泥を待っとんたんじゃが……刑事さんが来よったか」
フードの動物はそう言いながら、フードを脱ぎ捨てる。フードの中から現れたのは雄馬。片足がなく、杖をついている。
フクロウ警部は彼の顔を見て、資料のことを思い出した。
「ジャスミンの構成員の一人、クボサか……」
「ほぉ、よく調べておられるな。刑事さん」
クボサ。ジャスミンの構成員の一人だ。海外での逃走で、足を怪我している。
「君も指名手配されている。捕まってもらうぞ」
フクロウ警部は手錠を取り出して、クボサと向き合う。クボサはやれやれと首を振ると、ポケットの中からハンドガンを取り出した。
「ワシも歳をとった。このままここにいても、麗音に消される運命だろう。だが、ここまで来てしまったからにはやるしかない時もある」
クボサはフクロウ警部に銃口を向ける。
「恨むならワシを恨め、刑事さん……」
銃声と共に弾丸が発射される。火薬の匂いが廊下に広がり、弾丸がフクロウ警部に接触しそうになった時。
弾丸はフクロウ警部の前で弾かれた。弾丸を防いだのは一本の刀。
「よぉ、フクロウ」
弾丸からフクロウ警部を守ったのは、ダッチであった。
「ダッチか。俺を守ったつもりか?」
「まぁな、アンタがやられちゃ、イタッチも張り合いがなさそうなんでな」
「ふん……。あのくらい避けられたわい。っと、お前がいるということはイタッチも来てるんだな」
フクロウ警部の言葉にダッチはニヤリと笑うと、
「ああ、もうすでに上の階にいるぜ」
「そうか。先にお前を捕まえても良いが、イタッチを優先するとしよう。それからテロリストもダッチ、君も逮捕だ」
「やれるものならやってみな」
ダッチは刀をクボサの方へ向ける。
「相棒が捕まればの話だがな。俺は相棒にお前を通すように言われてここに残った。先に行きな、フクロウ」
「言われなくてもそうするさ」
フクロウ警部はクボサの守るエレベーターへと走る。クボサはハンドガンでフクロウ警部を遠ざけようとするが、ダッチが妨害をしてきた。
ダッチが刀を持って向かってきたため、クボサはダッチに銃口を向ける。クボサが発砲し、ダッチが刀で防いでいる間に、フクロウ警部はエレベーターに乗って、上の階へと登っていった。
「邪魔はさせない」
「やるな、若ウサギ」
クボサとダッチは睨み合う。膠着した状態が続くかと思われたが、クボサは銃口を下げる。
「刑事さんにもコソ泥にも逃げられた……わしがもっと働ければ、何か変わっていただろうか」
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22階には犬の兵隊が倒れていた。どうやら先に到着したイタッチが倒したものらしい。
フクロウ警部は犬の兵隊達の上を通り、エレベーターに乗り込んで23階へと上がった。
23階はまたしても部屋の雰囲気が変わる。そこは辺り一面が水槽に囲まれたフロアであり、水槽の中では幾多もの魚が泳いでいた。
そしてそんな青い部屋の奥には、倒れている青い豚とその横で剣を握るイタッチがいた。
「イタッチ!!」
「フクロウ警部か、遅かったな」
フクロウ警部はイタッチの元へと駆け寄る。そして倒れている豚の顔を確認した。
「コイツはジャスミンの幹部の一人、スーラーか」
スーラー。麗音に仕える部下の一人で、演説を得意としている。彼の演説により、ジャスミンに所属した者も多く、ジャスミンがここまで大きくなったのは彼の功績ともいえよう。
フクロウ警部は倒れているスーラーに手錠をはめる。
「スーラーは全国指名手配犯だ。イタッチ、今捕まれば、スーラー逮捕の協力ってことで刑を軽くしてやっても良いぜ」
目を細めてニヤリとイタッチを睨むフクロウ警部。イタッチは折り紙の剣を元の折り紙に戻すと、奥にあるエレベーターへも歩き出した。
「刑が軽くなろうがどうだろうが、俺が捕まるかよ」
「ま、だろうな」
フクロウ警部はイタッチの後ろを歩く。本来ならこのまま後ろから飛びついて、捕まえたいところだが我慢をする。
「俺を捕まえなくて良いのか?」
「まずは麗音だ。お前達が潰しあってくれれば良かったんだがな。早く着きすぎちまった」
「ふ……予定通りだろう」
イタッチとフクロウ警部はエレベーターに乗り込んで、24階へと登った。
エレベーターが止まり、扉が開くとそこは荒れた廃墟のビルのような内装になっていた。
実際に荒れているわけではない、デザインでそのような見た目にしているのだ。
ヒビの入った剥き出しのコンクリートの柱、釘の抜けた壁、壊れた扉。そんな部屋の奥に赤い豚が立っていた。
組織のトップとは思えない貧相な服装。タンクトップにバンダナを巻き、前線で戦う兵士のような格好をしていた。
「来てくれたようだな。怪盗イタッチ、フクロウ警部……」
豚が二人の姿を見て、嬉しそうに微笑む。そんな豚の様子を見て、イタッチは呟く。
「変わってないな」
彼こそが麗音。テロリスト集団のジャスミンのリーダーであり、各国から指名手配されている凶悪犯だ。
イタッチとフクロウ警部は並んで、麗音と向かい合った。麗音は二人を見ながら、イタッチに言葉を返す。
「いや、変わったさ。もう4年も経った」
麗音とイタッチ、フクロウ警部が出会うのは初めてではない。
麗音は懐かしむように、バンダナを取り、目の前で広げる。バンダナをつけていた頭部には、酷い火傷の痕がある。
「君達二人が俺の仲間を奪った。あの時のことを俺は決して忘れはしない」
麗音は二人を鋭い目つきで睨む。そんな麗音をイタッチは睨み返した。
「逆恨みはやめろ。お前は見限られたんだ」
「お前達二人が現れなければ、そうはならなかった……」
麗音は背負っていたライフルを取り出す。
「お前達のせいで俺の計画は出遅れた……。だが、ついに計画は目前まで迫った。だからここでお前達に復讐をし、計画の終わりの祝いとしよう」