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31.紛うことなき存在

「……気持ちよかった」


「その表現の仕方はやめろ。でもまぁ、傷を治してくれたのはありがとう」


「うん」


 ハルトはシノとキスをした事でアッシュと戦った際に受けた傷が全て治った。完全回復したハルトはシノ達の支えに頼らず立ち上がる。そして辺りを見渡した。これまでそこには人々が楽しく過ごしていたはずの空間があったはずだがもう影すら残っていない。建物は崩れ落ち、地面はえぐれ、遠くでは火災も起こっている。それに関係のない命まで葬られてしまった。


 色々な感情を感じながらもハルトは沢山息を吸いそれを吐いた。何かに踏ん切りがついたハルトはシノとラムネに先を急ごうと言い再び王城に向けて歩き始めた。


 歩いていると奥に国民の姿が見えた。その先には兵が居るように見える。兵は国民を無理やり止めようとしているようで大衆に向かって槍を突きつけていた。中にはそれに恐れて進むことをやめるものもいたが大半が徐々に兵に迫っていっていた。


「これ以上王城に近づこうとするならば刺し殺すぞ」

「今すぐここを離れなさい」

「情報を鵜呑みにするな」


「そこをどけ!!! 俺達を通せ!!」

「神託官を出せ! 文句を言ってやる!」

「この詐欺師どもが! いい加減白状しろ!!」


 兵と国民はいがみ合っていた。しかしその時神託官を出せという言葉を聞いて出てきたのかはわからないがまたもやヴィーネが王城方面から歩いてきていた。それに気づいた国民はさらに罵声を浴びせる。兵も神託官であるヴィーネの安全を守るためこれ以上行ってはならないですと止めようとしたがヴィーネは止まることなくその兵を通り過ぎる。


 ヴィーネは胸の下で両手を組みどんどんと国民へと近づいていく。その度に国民の罵声は増していく。さらには物を投げるものもいたがそれらは簡単にヴィーネに弾かれてしまった。


「元気な人達がいっぱいね。みんな、安心して。もう何も問題ないわ。勝手に暴れていたアッシュも殺されたみたいだから」


「あの神託官が!?」

「アッシュってあの筋肉の人だよな?」

「殺したって一体誰があんな化け物を?」


「ふふ。いずれ、いいえ。もうすぐわかるわ」


「それはどういう事なんだ……?」

「ヴィーネ様、一体誰なのでしょう!」

「どうせハッタリだろ」


「わからないの? 感じないの? もう彼女はこの国に戻ってきてるのよ」


「彼女……」

「まさかあの……」

「……おい、に、逃げるぞ!!」


 何かを察したその場にいた国民は一斉にハルト達の方に走り出した。誰しもが先に逃げたがるせいで走りながら体がぶつかり合う。それはハルト達も同じで何がなんだかわからず立っているのだが何度も走ってくる者達の体が接触する。しかし数十秒もすればそこにはハルト達とヴィーネ、兵しかいなくなっていた。そしてヴィーネはハルトの目を見て話し始める。


「彼女がもう来るわ。ここからは貴方達の出番よ。ハルトくん、シノちゃん。それじゃあ頑張ってね?」


「え、私の存在をないことにしないでくださいよぉ!!」


 ヴィーネは後ろを向き王城の方へと歩いていく。兵達もヴィーネの後ろを遅れてついていった。一方ハルトはヴィーネの残した言葉がそこまで理解出来ずどういう意味なのかと考え悩んでいた。


「ヴィーネ……。あいつも神託官だから倒さないといけなかったんじゃね?」


「逃がしちゃった」


「なーにしてるんですか。ボーっと胸ばっか見てるからそうなるんですよ!」


「おい、変な事言うな。そしてシノ、俺を見るな」


「仕方ないですねぇ。それでどうするんですか。これから。なんだか王城に向かおうとしても道中で何かが出てきそうな雰囲気ですけど」


「確かにな。ヴィーネの言ってた彼女がもう来るも気になるし……どうするか」


 ハルト達はしばらくどうするかと悩んでいると王城の方から白いオーラの様なものが放たれているという事に気づく。ハルトが「あれはなんだ?」と聞いても他の二人が知るはずもなくただ見ていることしかできなかった。しかしずっと見ていてもそのオーラは何かを起こすわけでもなくずっとモヤモヤとしているだけだった。しょうもねぇオーラのだなとハルトが思っているとオーラが放たれているところから何やら氷の塊が周りに飛んで行き始めた。


「ちょっと行ってみるか」


「うん」


「いっきましょー!」


 その氷の塊が気になったハルト達は王城に向かって走り出す。その間にも王城に浮くオーラから複数の氷の塊が国中に落下していく。本当に何なんだとハルトが思っていると遠く離れたところで大きな爆発音が聞こえてくる。その次には別の遠い場所で爆発がさらに遠くの場所でも大きな爆発音と共に煙があがっていた。


 ハルトは一体何が起こっているんだと思っていると走るハルト達の方に向かって氷の塊が落ちてきていた。ハルト達はその氷の塊に当たらないようにするために後ろに方向転換し走り出す。そして次の瞬間後ろでとんでもない爆発が起こった。同時に衝撃波の様なものもあったがコートが激しく揺れるくらいで人が弾き飛ばされるという程の威力ではなかった。


 逃げていたハルト達は恐る恐る後ろを見るとそこは地面が深くえぐれさらには両脇に建っていた建物が半分ほど崩壊していた。王城に浮くあのオーラから放たれている氷の塊達は地面に落ちた瞬間爆発を起こしている。その様な現象を自然的に起こすことなど不可能である。つまりはあの氷の塊は誰かの能力(スキル)によって引き起こされている事だとハルトは考えた。


 ここでヴィーネの「彼女がもう来るわ」という言葉をハルトは思い出す。ヴィーネの言葉、あの大規模な桁外れの攻撃、それらから連想される人物はもう彼女しかいない。


「ハルトさん……! あれは!!」


「出たな。バケモン」


 王城にさらに近づくとそのオーラの中に姿が見えてくる。見た目は幼い少女で真っ白な髪の毛に綺麗な水色の瞳。色白な肌で真っ白で少し透明感のあるワンピースを着ていた。その少女は目を瞑ったまま両腕を大きく広げ国中に氷の塊を放っている


 その光景を見てハルト達は思わず立ち止まり見惚れていた。


「ハルト……」


「あぁ、あれは間違いなく第一神託官のメルリル・クリオーネだ」


読んで頂きありがとうございます!


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