14.託し合う背中
「そちらの手の内はもうわかっているのですよ。自分で言うのもあれですが能力なしがどうこうできる相手ではないと思うのですが」
互いにその場からは動かず距離を保ちながら話しを始めだした。ロイエルは相変わらずメガネを触っている。病的だろと思っているとロイエルがハルト達に提案をもちかけてくる。
「私はここで大人しく連行される事をおすすめしますよ。そちらの方が痛い思いをせずに済むので」
「それは無理。私はロ、ロエロ? を倒す」
「私はロイエルです!! 変な名前で呼ばないで頂きたい」
「うるさい」
シノはロイエルに指を向ける。指を向けたという事はそういうことである。何の合図もなしにシノはまた火の魔法をぶっ放した。放たれた火の魔法はロイエルの目の前で大爆発を起こした。しかし火と砂埃が消えるとそこには当たり前の様にロイエルが立っていた。普通の人間なら消滅しているはずなのだがさすが神託官である。
「奇妙なうえに厄介な能力ですね。ならば先にこちらを消した方が楽に」
ロイエルは能力なしのハルトを最初に狙うという戦略に変更した。
「せいぜい足掻くと良いでしょう」
その瞬間ロイエルの頭上に剣やら斧やら槍が現れた。
「……そんなのありかよ!?」
メガネをクイッと馴染む位置に動かし自慢気に何やら解説をしだすロイエル。
「私の能力は【武器を操る】というものでありとあらゆる武器をこの様にして自由自在に操る事が出来るのです。なんとも素晴らしい能力と思いませんか? これこそ神が託してくださった力なのです。もう一度チャンスを差し上げましょう。このまま大人しく連行されるか、それとも無駄に足掻いて死ぬか。どちらの選択をしても構いません。それが貴方の選んだ結果なのですから」
ハルトはどうするかをシノとこっそり話そうとしたが二秒もかからず「ぶっ潰す」と即答する。それを聞いたロイエルはメガネを触りながら鼻で笑った。
「その選択尊重しましょう。そしてさようなら」
放たれた武器の集合体はかなりの速さでハルトに向かっていく。
「ハルト」
シノに言われはっとなったハルトは迫りくる集合体に指を向ける。ハルトはスゥーと息を吸いフゥーと息を吐く。そして大きな声で叫ぶ。
「爆ぜろォォォ!!!!」
すると武器の集合体の前に大きな火の弾が現れる。武器の集合体がその大きな火の弾に激突した瞬間それは大爆発を起こすと同時に武器をどこかへ吹き飛ばしてしまった。
「い、今のは一体何をしたというのですか。まさかアーティファクト……」
いつもならメガネを触っていそうなロイエルだが今回ばかりは触っていなかった。理由は簡単だ。能力なしがいきなりわけのわからない力を使ったからだろう。それか単純に忘れていたかのどちらかだ。
「ハルト、ナイス」
「あぁ!!」
ハルトとシノは見つめ合いガッツポーズをする。
「アーティファクトだよりとは。どこで手に入れたかはわかりませんが能力なしにしてはよく考えた策など称賛いたしましょう。だがしかし【ロイゼン王国】神託官に対する無礼極まりない言動は称賛致しかねます。正直私は心が痛みます。村に来た客人とこの様に争うということは。でも私は神に託されたこの世界を守らなければならない。だから仕方ないのです。貴方達を殺してしまうということは!!!」
ロイエルは体全体を動かし喋った後にメガネに触れた。そして再びロイエルの頭上に武器の集合体が現れる。
「シノ、来るぞ」
「うん」
ハルトとシノはこれから来る攻撃に備えて魔法を放つ準備をする。
「死になさい!!!!」
ロイエルが合図をすると武器の集合体は一斉にハルト達に接近する。
「行くぞ!!」
先程と同じ様に魔法を放とうとしたハルトだがある事に気づく。それは武器の集合体がこれまで一斉に来ていたはずなのに今度は左右と直進に分かれだしたのだ。
(あちこちから来るこれをどうやって止めれば……!!)
その時シノがハルトに「任せて」と呟いた。えっ? となったハルトだったがシノの言葉に謎の安心感を抱いていた。
「爆ぜろ」
「また爆発ですか?! そうはさせません」
ハルトと同じ言葉を唱えた事で先程の爆発をもう一度やってくると考えたロイエルはさらに武器の集団を分裂させしまいにはハルト達の全方位を囲んだ。
(どうすんだこれ!?)
その時シノが何やら怖い笑みを浮かべる。ハルトとロイエルが一体何の笑みなのかと思っているとシノの頭上に無数の氷の塊が現れた。
「だからそれは一体何なのですか! アーティファクトには氷の力などないはずなのに!」
「知らない」
氷の塊は一斉に囲んでいる武器に激突していく。ぶつかった氷は砕け散っていくが武器も地面に次々と落ちていった。
「私の攻撃を!! 当たれ、当たりなさい!!」
必死に攻撃を当てようとするがハルト達の元に武器が到達することはなかった。すべての武器を撃ち落とすと落ちていた武器は自然消滅した。
「私は神託官なんですよ! そう私は私は神託官だ! 負けるわけがない絶対に負けない!!」
何かに怒り狂ったロイエルはかけていたメガネを草原に投げ捨てた。
(それ伊達だったのかよ)
「今までの犠牲者と同様に大人しくしていればよかったというのに。本当に愚かだ……。これでおしまいにしましょう」
するとロイエルの頭上にこれまでの武器とは輝きの違うものが七本現れた。現れた武器はまるで和希の持っていた聖剣のようだった。
「ハルトあれはまずい」
「え?」
「あれはきっと擬似的ではあるけど聖剣に違いない」
「せ、聖剣!!?」
「だからあれをやる」
「あれ?」
「今から言う事を一緒にやって」
シノはハルトに耳を近づけてといい小声で何かを伝えた。それを聞いたハルトは顔を赤らめていた。
「そ、そんな恥ずかしい事出来るかァァ!!!!」
「でもやらないと私達死ぬ」
「ぐぬぬ……やるしかないというのか」
「ハルト、腹を括りな」
「ちょっと黙ってろ!!」
(確かにシノの言う通りやらないと死ぬんだけどこれをやったら俺の精神までやられそうなんだが。さすがの俺でもそんな羞恥耐えれないぞ。いやでも待て、今はこの神託官しかいないなら……別に良いか!)
案外軽い決断をしたハルトはシノに「やろう」と言った。そしてハルトとシノは互いの背中を合わせロイエルに指を向ける。
「な、何をする気ですか。私のこの究極の力を前に何もかもが無意味だというのに!!!」
ハルトとシノはロイエルを嘲笑うように笑った。それを見たロイエルは徐々に冷静さを失っていく。
「神託官、俺達の世界最強の力を見せてやろう」
これから何かをされると気づいたロイエルは急いで聖剣をハルト達に放つ。だがもう手遅れだった。二人は背中を合わせながらコクリと頷いたあとロイエルの方を見つめる。そして二人は同時に大きな声で叫びだす。
「「これで消えろォォォォォォオオオ!!!」」
その瞬間まるで太陽の様な炎を纏った大きな球体が現れとてつもない速さでロイエルに接近していく。
「嘘だ、嘘だ。こんなばかげた力がこんな者達にィィィィィ!!!!!」
その場から逃げようとしていたロイエルだがどうやら目の前のそれを見て足が動かなくなっていたようだった。ロイエルは最後の足掻きとして聖剣をその球体に向かわせる。だが球体に触れる前に聖剣は溶けてなくなってしまった。
「来るな来るなァァァァァ!!!!」
炎の球体はロイエルの目の前で大爆発を起こす。爆発はロイエルも勿論だが馬車にハルト達までも飲み込んだ。そして爆発の衝撃で空に浮かぶ雲は消えロイエルのいた周辺の大部分の地面が深くえぐれていた。それと同時に地面も少しばかり揺れていた。
「はぁーーーー」
一方ハルトとシノは立っていられなくなり地面に並んで倒れ込んだ。そして二人は草原の中で笑顔で笑いあったのだった。
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