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27 魔法少女ムゥ

 鼻歌交じりに集団の先頭を歩く幼女。手に持った杖をマーチングバトン代わりに振り回してご機嫌だ。


「今日は素敵なものを持っていますわね」


「でしょお!」


 ムゥのサイズに合わせた小ぶりな魔法杖を持っていた。


「これでムゥも魔法少女なのっ」


「それでそんなにフリフリのついた可愛らしい服装なんですわね」


 ノートさんたちもノリノリでクローゼットに眠っていた服を引っ張り出して着せていた。


「そうなのー。いいでしょお」


「ええ。とってもお似合いですわ」


「しゃらら〜〜ん」


「あっ! ムゥ! モンスターのいない場所で使ったら——」


 杖を振るとピンク色のシャボン玉がふわふわと出てくる。


「あら、可愛らしい魔法ですわ」


「駄目ーーー!!」


 何気なくシャボン玉に触れようとするハルカを突き飛ばす。


「痛いですわ! 何するんですのっ」


 抗議の声を上げるハルカの眼前を浮遊した泡玉(シャボン)が通過して大岩にぶつかって割れる。割れやすさも儚さもシャボン玉そのものだ。


——ボカアアァン。パラパラパラ。


 シャボンは割れると大爆発を起こし、大岩を砂粒に変えてしまった。


「まほーしょうじょムゥ、さんじょー!」


 舞い上がる砂塵と降り注ぐ礫をバックにポーズを決めてみせる幼女(ムゥ)。


「…………(パクパク)」


 ハルカは爆心地を開いた口が塞がらず、指をさして(どういうことか)と訴えている。あまりの衝撃に声が出ないみたいだ。


 さっき僕が制止せずあのまま不用意に割っていたら、無事では済まなかっただろう。


「はあ。居候先の鍛治師の親父さんがムゥに造った魔法杖なんだ。可愛らしい見た目に反して、攻撃力は見てのとおり災害級。恐ろしいでしょ? ムゥにも気軽に使わないように言ってあったんだけどさ」


「使いたかったんだもん」


 だもんで人が死ぬところだったよ。


「そんな危ないものなら先に言っておいてくださいましぃ!! ほ、ほんとに間一髪でしたわ。はーー。今の一瞬で寿命が縮んだ気がしますわぁ」


「でも使い方を間違わなければ重要なアイテムになりそうでしょ?」


「それはそうですけど……。私が使うわけにはいきませんの?」


 超火力武器をムゥが持っていることに身の危険を感じたのだろう。


「ムゥから借り受けられるんならそれでも」


「無理ですわね。あんなに嬉しそうなムゥちゃんから取り上げることは私にはできませんわ」


 キリッと良い顔で諦めるハルカ。普段よりもテンションが高い。


「いよいよ第一階層のボスモンスターに挑戦するんですわね。うぅ〜〜。滾ってきましたわぁーー! ロイの新しい装備も似合っていますわよ」


 単独(ソロ)時代には考えられなかったボスモンスターとの大一番を前にして武者震いが止まらないようだった。普段より声のボリュームがだいぶ(、、、)大きい。


 新調した鎧は黒を基調とした洗練されたフォルムで納得の仕上がりだ。


「ぼす?」


「一番強いモンスターのことですわ! そのモンスターを倒さないと下の階へ行く階段に辿り着けないんですの」


「いちばんつよい……。パパ、ムゥきいてないんだけど。ふつーのぼうけんじゃないの? こころがまえができてないよっ。ムゥにもこころのじゅんびってものがあるんだからぁ、おしえといてもらわないとこまるよぉ」


 手に持った杖で僕の脚をペシペシと叩く。


「あれ? そうだったっけ」


 事前に教えたら家でひどい抵抗に遭いそうだったので言わないでおいたのだ。絶対に行きたくないと争いが始まるに決まっていた。騙したようで悪いけど、地下2階に活動の場を移してやっていけるか力試しをしてみたかった。


 ——ガサガサガサ。ドサッ。


「な、なに! なんですの!?」


「はあ、はあ。冒険者ですか。助けてくださいっ! な、仲間が……。たくさんのモンスターに襲われて……」


 ひとりの少女が樹々の間からよろよろと現れたかと思うと僕らの前で脱力して膝をつく。胸の前に当てた手は血で濡れている。仲間の助けを求めた彼女も傷だらけで息も絶え絶えといった様子だ。

 鎧は無惨に砕け、少女の右肩から左脇腹にかけては斜めに大きな裂傷があった。すぐに処置をしなければ命に関わるような重傷に見える。


「大丈夫ですかっ!」


「いえ、私のことはいいんです。こんなことを頼むのは本当に申し訳ないのですけど、仲間を……仲間を助けてください!」


 冒険者(僕ら)にはそれぞれの冒険がある。危険が付いて回るダンジョンの中では生きるも死ぬも自己責任。少女もそのことは百も承知で、それでも一縷の望みに懸けてボロボロの身体に構わず懇願しているのだ。


「仲間を助けて欲しい」と。


 僕は行けば仲間を危険に晒すことになると理解(わか)っていながら、それでも目の前で必死に助けを求める声を簡単に突っぱねられるほど冷酷にはなれそうもなかった。


 それに自分が同じ状況——自分の力ではどうにもならない強敵と会敵してそれでも仲間を助けたい——ならきっとおんなじことをしたと思うから。


「ムゥ、ハルカ。僕は、可能性があるのなら助けに行きたい」


「もちろんですわ。私がこのまま立ち去ると思って?」


「パパはムゥのとこにもきてくれたヒーローだから。ヒーローはね、たすけるのっ」


「ふたりともありがとう……。行こうっ」

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