23 何歳になっても虫取り少年。
「いち、にぃーの、さんっ!!」
僕は意を決してお手製ポーションを火傷した傷口にかける。
「ぎゃあ! いったぁい。痛いぃ」
冷えたポーションがまだ生々しい傷口に滲みる。回復してくれると分かっていてもこの痛みには慣れない。
歯を食いしばって耐えてみても、目尻にはあっという間に涙が溜まった。
傷口にふぅふぅと息を吹きかけてみたりするけど痛みは全然和らがない。
「いたい? いたいのいたいのとんでけぇ〜」
傷を作ってポーションで涙ぐんでいるなんて情けない姿、見られなくなかったんだけどなあ。ムゥは心配そうに傷口に手をかざして念を送ってくれている。
「はあ、こんだけやってまだ目的の月光蛾には出会えてないんだった。まったく、何かの罰ゲームだよ……」
それもこれも運悪く上級小鬼なんて強敵に出くわしたせいだ。
怪我もしちゃったし、もう帰りたい。帰りたいけど、このままじゃ、あまりに手柄がなさすぎて帰るに帰れない気持ちもある。
幸い、まだ手持ちの回復ポーションには余裕がある。
ただもうポーションが必要になるような怪我をしたくない。
痛いのは勘弁してください……。
しかし求めれば求めるほど出てこないもので、このような状況を冒険者たちは冗談めかして「物欲センサーが働いているからだ」と言う。
けれど真剣に探している当人からしたら、たまったものじゃない。それにしてもここまで出ないか。自分の運のなさに辟易する。
夜の間しか出現しない月光蛾。太陽と月の位置関係のわからない地下迷宮内でタイムリミットを気にしながら探索しなければならない。
さらに、仮にムーンライトモスを見つけたとしても必要な鱗粉は100パーセント確実にドロップするわけじゃない。ダンジョンの厳しいところだ。
ようやく見つけて倒す時には祈るようにして剣を突き立てた。
月光蛾のけばけばしい色の目玉模様の描かれた翅は冒険者に弱い怯み効果を与えてくるが、致命的に動けなくなるほどじゃない。
とにかく足を止めないことだ。
敏捷の高い僕なら一瞬動きが硬直しても、また初速の速さで襲ってくる攻撃を回避できる。
ムーンライト・モスは視力があまり良くない分、活発に働く触角を頼りにこちらの動きを認識している。なので、そこを積極的に狙って破壊するといい。
破壊すれば地に堕ちる、明確な弱点である翅を狙えれば楽なのだけれど、翅は硬い鉄板のようで弾力性に富んだゴムのようでもあり生半可な攻撃では部位破壊できない。
また蛾の習性と同じで明るい場所に引き寄せられるので、魔法のステータスの低い僕にはできない技であるけれど、〈照光〉という明かりを灯す魔法を使用しておびき寄せる方法がある。多少の知能はあるようで、松明や焚き火などの明かりには近づいて来ない。
ぽさっ。
倒れた月光蛾が消え去った跡に、ひとやまの鱗粉が地面に残る。
「はあ、よかったぁ〜。これでとりあえずひとつ」
また他のモンスターがやってくる前に急いで手で集めて瓶に入れる。
一匹討伐して気をよくした僕は蛾狩人として茂みや樹上を探し回る。
手にしているのは剣だけど、気分は網を片手に森にやって来た虫取り少年だ。空中に残された鱗粉の跡を見つけると、一目散に「わあ〜」と駆け出していく。
深夜のテンションも相まって、忘れかけていた幼き日の高揚感に我を忘れて走り回る。
「ハハハハハッ! そおれぇーーーー」
「うわーーー。パパぁ、すとっぷ! すとっぷぅーー」
暴走した僕と距離を開ける羽目になったムゥは契約が発動して離れまいと追尾するように宙を舞う。
——狂喜乱舞状態終了。
ハッ。今まで僕は何を。横でムゥといつの間にか召喚されたルビィちゃんがぐったりとしている。
「パパぁ。まだ帰らないのぉ。もう眠いぃ」
手元の瓶は鱗粉で満杯になっている。頭や防具に葉っぱが挟まり、濡れた犬のようにぷるぷるっと身を捩ると身体じゅうから葉が落ちてくる。
どこをどう通って移動してたんだ、僕。
何はともあれ目的は達成したので本日のダンジョン攻略は終了!
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『今回の冒険』
【討伐した怪物】
・小鬼×3
・上級小鬼×1
・月光蛾×13
【道具】
・小鬼の角×3
・小鬼の牙
・月光蛾の鱗粉×8
【能力値】
ロイ・アスタリスク 等級:【E】
筋力| 69→ 72
耐久| 54→ 57
魔力| 9→ 10
敏捷| 71→ 75
・回復ポーション
怪我した時の必需品。
飲んでもよし、直接傷口にかけてもよし(?)という嘘みたいな万能治療薬。傷口に撒布した場合、即効性があるものの、大の大人でも涙するほどの痛みを伴う。
主な原材料は回復草〈ヒールフラワー〉という名の草。




