10 スキル発現
今日の探索は色々とありすぎた。
涙で目を腫らした僕は蛙防具を着けていることも忘れて冒険者組合に重い足取りで帰還した。
ギルドの受付でクララさんに、
「ロイさん、その格好で帰ってきたんですか?」
と若干引き気味に言われて、ようやく自分の格好を思い出して顔を真っ赤にしたのだった。
「ドロップアイテムの換金と能力値の更新をお願いしますっ!!」
「おねがーしますっ!!」
恥ずかしさを打ち消すように大きな声で言う。
「はいはい。ルーカスくーん、ドロップアイテムの査定お願いしまーす」
受け取ったドロップアイテムの入った袋を天に掲げてルーカスくんがスキップで去っていく。
「そ、そろそろ僕にも【職業】が発現していてもいい頃ですよねっ」
ずっと「なし」だった【職業】欄もステータスが上がったことにより、方向性が見えてきたはずだ。
最初に発現する職業はおおまかに六つに分けられる。
騎士、弓兵、治癒師、重戦士、魔術師、盗賊の六つだ。
そこから転職を重ねて上位職へと派生していく。
今、ダンジョンの第一線で活躍している冒険者たちも、はじめはこのうちのどれかからスタートしているのだ。
僕自身の希望としては騎士がいいな、なんて思っていたりしている。剣一本で怪物に立ち向かい、道を切り拓いていく姿は僕の憧れだ。
僕は魔法の能力値が低いから、魔術師や治癒師になることはまずないだろう。身のこなしには少し自信があるし、弓兵や盗賊という可能性はあるかもしれない。
重戦士だったらどうしよう。モンスターの攻撃を一手に引き受け、常に矢面に立たなくちゃいけないジョブだから、僕には上手くやっていける自信がない。
「そうですね。じゃあ査定を待っている間にステータスの更新を済ませちゃいましょうか」
僕の前にステータス測定器が置かれた。
もう慣れたもので腕にベルトを巻きつけしばらくの間、おとなしくしている。これでどうやって測っているのか何回やっても不思議だ。
「はい。測定が終わりましたよ」
クララさんの言葉とともに僕の能力値が印字された紙が吐き出される。
クララさんから羊皮紙を受け取り、期待を込めて目を通す。自分がどれだけ成長したかが目に見えて現れるこの瞬間は何度経験しても嬉しいものだ。
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【能力値】
ロイ・アスタリスク
等級:【F】
筋力| 15 → 19
耐久| 12 → 16
魔力| 3 → 3
敏捷| 17 → 21
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ステータスのそれぞれの項目に関しては順調に伸びていると思う。今日なんて討伐こそできなかったものの、拳骨猿とやり合えたし。上がっている数字としては微々たるものだけど、成長が感じられるのはやっぱり嬉しい。
そうだ! 本命はジョブだった。
恐る恐る薄目で職業欄を確認する。
チラッ。
【騎士】
「やったあぁーー! 騎士だっ! よかったぁ〜」
「やった? パパ、やった?」
立ち上がってガッツポーズを決める。事態をよくわかっていないムゥも椅子に立って飛び跳ねる。
「おほんっ。ロイさん、嬉しいのはわかりましたから座ってください」
他のギルドの職員さんにクスクスと笑われて、ギルドに集まっていた冒険者には何事かと注視される。
うぅ……。恥ずかしい。今日は恥ずかしいことばっかりだ。
「ロイさん、おめでとうございます。職業だけじゃなく、スキルも一緒に発現していますよ」
「本当ですか!?」
「おお……! スキル。すごいやつ!」
喜びのあまり、再び立ち上がりかけたのを懸命に堪える。
スキル。
それは冒険者たちに様々な恩恵をもたらしてくれる力だ。
いつどのタイミングで何のスキルが得られるのか、判明していないので、発現すれば儲けものというような大変ありがたいものなのだ。
すごいよ、僕。ちゃんとレベルアップしてる。
「それでっ、僕のスキルはどんなスキルなんですか?」
「えっと、【勇者一片】っていうスキルですね。どれどれ。ロイさん、すごいです! ギルドのデータベースにない唯一スキルですよ。やりましたね!」
クララさんの口調が熱を帯びる。
「ほら、効果もなかなかいいんじゃないですか?」
「どれどれ?」
「どれぇー」
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スキル:【勇者一片】
勇者への一歩を踏み出した者が得た力。
《効果》
自身よりも能力値が上の相手との戦闘時、逃走成功確率が30%減少する代わりに全ステータスが20%上昇する。
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「えーっと。どうなんだろう?」
たしかに全ステータス20%アップのバフは破格の性能だけど、格上との戦闘でいざという時に逃げられないというのはちょっとどうなんだろうというところだ。
でもなんだろう。このスキルが発現したタイミングといい、【勇者一片】という名前といい、これは地下迷宮から僕へのメッセージに思えてならない。
逃げるな。戦え。
これまでのダンジョン攻略を思い返せばいつだって何かから逃げていた。
ゴブリン。ジャイアントツリー・ベアー。ロッククラブ。
臆病な僕はダンジョンに怯えていた。勇者にはほど遠い全能力値ひと桁という自分に自信が持てなくて。
でも、ムゥと出会って少し変われた。
格上にも臆せずに戦えるようにこのスキルが背中を押してくれる。
「『勇者への一歩を踏み出した者が得た力』。いいじゃないですか。ロイさんらしいですよ」
「もう、からかわないでくださいっ。クララさんには僕がどう見えているんですか?」
「うーん。逃げているっていうか、小動物感とでも言うんですか? オドオドして臆病っぽいというか」
「あー、そこら辺でストップしてください。オーバーキルです」
ここぞとばかりに言葉で刺してくる。僕の心が保たない。
「ですが、ロイさん。これからさらに下へと進んでいくつもりがあるのなら、ギルドとしてはパーティーを組んでダンジョンを攻略することをお勧めします。いくら素晴らしいスキルがあっても、第一階層とは比べ物にならないレベルのモンスターと会敵することもあるでしょう。その時、ひとりだけの力では厳しいと思います」
「ひとりちがう。なぜなら、ムゥもいるからっ!」
ムゥがででーんと胸を張る。でも現状、ムゥは火龍召喚しかできない。
いつにも増して真剣なクララさんの表情を見て、(やっぱり、そうだよね……)と納得する。これからダンジョン攻略を続けて行くのなら、たぶん僕ひとりの力じゃ難しい。
僕は決して優秀な冒険者じゃない。
その証拠にひと月経ってもまだ、第一階層でちょこちょこと狩りをしている。下層へと進むのなら、背中を預けられる仲間が必要だ。
「私は冒険者ではないですけど、ここからたくさんの冒険者の方を送り出してきました。帰ってこなかった人、帰ってはこれたものの、冒険者を続けられなくなった人を幾度となく見てきました。この助言はロイさんの支援者としての言葉です。ぜひ心に留めておいてください」
僕は目的を一にする冒険者たちの集まりである〈派閥〉にも所属していないし、余計に心配をかけているのだろう。
クララさんの言うように、さすがにそろそろパーティーくらいは組まないと駄目だよなぁ。今日も探索中に荷物運搬員が欲しいって思ったことだし。
「ねえ? ムゥのスキルはぁ?」
「えーーっと、ムゥちゃんはまだかなぁ」
「がぁーん。ガックシ」
僕の脇腹を一発パンチする。なんでだ。




