０８ 父娘のダンジョン攻略②
「うへぇ」
剣に付着した粘度の高い、ネチョネチョとしたスライムの体液を軽く振り落としてから軽く拭い取って、鞘に収める。
スライムの粘液は回復ポーションにも使われるほど不純物のない綺麗なものなのだけれど……、わかっていても感触が気持ち悪い。
ドロップした《スライムの粘液》を手で掬い、耐水性のある袋に集めていく。スコップみたいなものがあればもっと楽に集められるんだけどなぁ。今度から準備して来よう。
「てあっ！ とうっ！ ていっ！」
近くではムゥがスライムを木剣で叩いている。けど、弾力のある柔らかい身体にはノーダメージだ。時々、スライムも反撃するようにぽよんっ！ と体当たりをかます。ムゥにもあんまり効いていないみたいだ。
「ルビィちゃーん、スライムたおしてぇ」
『ピュイ』
スゥゥ。——ボォッ。
赤ちゃんとはいえ、火龍の火炎息はスライムを一瞬で溶かしてしまう。
「すごーい！」
「ピュピュイッ」
えへんと胸を張る子ドラゴン。貴重な戦力というか、ひょっとすると僕よりも強いんじゃ……。
「よしっ。まだまだ頑張らないと」
「うぅ……。おもいぃ。ほんとにこれはムゥがもたなくちゃダメなの？」
アイテムを入れたリュックは小さなムゥが背負うと下が地面に着いて引き摺るかたちになっている。
「ごめん、ごめん。さすがにもう持てないよね」
集めたアイテムではち切れんばかりに膨らんだリュックサックを代わりに背負いながら移動する。
後方支援をしながら荷物を運んでくれる非戦闘職の荷物運搬員の人がひとりパーティーにいてくれるといいなぁ。荷物を背負いながらの戦闘は動きにくくて仕方ない。
そういう意味でも地下迷宮の単独攻略は難しいと言われる。
深い階層まで潜ってモンスターを倒してもそれまでに入手したドロップアイテムを誰かが地上まで持ち帰らなくてはいけないのだ。深く潜れば潜るほど、怪物を倒せば倒すほど大荷物になっていく。
そこで荷物運搬員の出番になる。
戦闘に参加しない代わりに戦闘員たちが身軽でいられるように荷物を一手に引き受ける重要な仕事なのだ。
いずれ僕らがダンジョンの下層に進んでいくのなら考えなくてはいけない問題になる。
その後、小鬼、格闘蛙、狼人と立て続けに戦闘になり、回収したアイテムをリュックに入れていく。ムゥも僕を真似て気に入ったアイテムを選んで拾っては、自分の小さなリュックに詰めている。
「はわわわぁ。このいしはとっても良い石なのねっ」
真剣の扱いや怪物との駆け引きにも慣れてきて、なんとか初心者向けのモンスターなら倒せるようになってきた。まあ、腕にはコボルトの爪に引っ掻かれた傷で血が滲んでいるけども。格闘蛙に殴られた痣もあるけどもね。それでも新人にしては万々歳じゃないだろうか。
そりゃ無傷では勝てない。
まだまだ低能力値で、剣捌きも未熟だもの。
他の怪物との戦闘の合間に何体かのハーニー・ビーと遭遇して撃破したけれど、狙っている〈大蜜蜂のハチミツ〉のドロップ率はよろしくない。
小さくて可愛らしい蜜蜂とは似ても似つかない、一匹一匹がドラム缶ほどの大きさをした大蜜蜂は下腹部が丸く大きく膨らんでおり、お尻の部分には当然のごとく、人間の腕くらいもある毒針が存在する。
正直、毒があろうがなかろうが、あの大きさの針で刺されたらひとたまりもないと思う。
花畑に張り込んで、蜜を取りにやってきたハーニー・ビーをコツコツと狩っていく。
そう言えばやけにムゥが静かだな……。
「ちょおっ——！ ハチミツ食べちゃってるじゃんっ！」
ハチミツを入れた瓶に直接手を入れ、手についた舐めている。口元は琥珀色にツヤツヤと輝き、せっかくの洋服もベタベタだ。あれほど頑張って集めたハチミツが今は瓶の底にちょびっとしか残っていない。
「ほえ？」
「それはムゥのおやつじゃないのよ……」
「ぺろぺろ。ん。あまい」
「や、やり直しかぁ」
結局、もう一度コツコツと蜜集めにやって来た大蜜蜂を倒していく。
瓶ふたつ分を琥珀色に輝くハチミツでいっぱいにしたところでバッグの容量がいっぱいになったので、少し早いけれど切り上げてダンジョンをあとにする。
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『今回の冒険』
【討伐した怪物】
・小鬼×２
・格闘蛙×１
・狼人×１
・粘液玉×５
・大蜜蜂×７
【道具】
・小鬼の牙
・格闘蛙の皮
・狼人の爪
・粘液玉の粘液
・大蜜蜂のハチミツ
【能力値】
筋力| １２ → １５
耐久| １０ → １２
魔力| ２ → ３
敏捷| １４ → １７
