悪役令嬢とクリスマスイブ~婚約破棄された令嬢は、日本で「この野菜を作ったのは私です」の人になる。
※クリスマス便乗ネタです。
婚約破棄とはよく聞く演目じゃ。
悪役令嬢は、ヒロインを、噴水に落としたり。階段から突き落とす役をするそうじゃ。
しかし、現実は、そんな生ぬるいことはしないし、単純ではないと我が身になって分かったのじゃ。
王国に、聖女が転移してきたのだ。
天真爛漫な聖女、まさに、演劇のヒロインのようじゃ。
派閥を知ることもせず。ただ、愛想がいいだけの小娘。
正直、脅威ではない。
しかし、敵対派閥が担ぎ上げようとしてきたら、話が違う。
いや、
妾は、嫉妬に狂っていたのかもしれない。
ちらほら、王太子殿下の婚約者交代の噂が出てきた。
敵対派閥が動き出したのじゃ。
だから、妾は、裏組織を使い。聖女を傷物にしようとした。
一発で傷物と分かるように、夜会で、林に連れ込ませ。ドレスをビリビリに・・・にだけすれば十分じゃろう。後は宮廷雀が噂をしてくれよう。
『エリザベータ!聖女暗殺未遂の証拠を押さえた!公爵閣下も引退、義弟が公爵を継ぐであろう』
『義弟!エリヒムが・・裏切ったのかえ?馬鹿な。暗殺まではしないぞえ』
『義姉さん。いや、罪人エリザベータ、お前の計画は筒抜けだよ』
『エリヒムに公爵家は無理じゃ』
『皆、僕に親切にしてくれている。大丈夫だ』
・・・そんな。貧乏貴族の六男、拾ってやった父上の恩を忘れおって、
『ほお、まだ、そんなすまし顔をして、表情が読めない。さすがに、国境の魔の森に追放したら、泣き叫ぶだろうな!連れて行け!』
馬鹿め。聖女を支援している侯爵は、王家に取って代わろうとしている野心家だぞ・・・妾と父上が抑えてきたのに、
そして、妾は魔の森に置き去りにされた。人がいなくなる森、人食い森と言われておるのじゃ。黒い霧が出てきた。霧が晴れると、珍妙な建物と畑がある里に出たのじゃ。
『ほお、川があるのじゃ。髪の毛を釣り糸にして、このピンを針にして、ミミズを探して』
バシャン!
たき火をたき。コイとかいう魚を食していたら、原住民の母子が通りかがったのじゃ。
『お姉さん。ここでたき火はダメだよ!って、鯉を食っている?!』
『ほお、この世界の平民か?そなたは旅の途中に野営をしたことないのかえ?』
『日本語うまい。それどころじゃないよ。ここは、キャンプ場ではないよ。ダメだよ。何か分からないけど、すごくダメな感じがする。家に来なよ』
『ええ、母子家庭だから、安心よ。あら、翡翠の目に、腰まである髪の毛は、少し、紫かかっているわね。外国の方ね。ええ~と、コスプレの方かしら』
☆現在
「メリークリスマス!」
パン!パン!
「さあ、さあ、エリさんも、サンタの帽子を被って、クラッカーやったことないの?そお、このヒモを引っ張って」
「・・・・・・」
パン!
「やったー、外人さんがやると、絵になる!」
「エリさんの国でもクリスマスを祝っていたのかしら?」
「うあ、鍋だ。やった!その後に、ケーキと、え~と、チキンじゃなくて、母さんが作ってくれた唐揚げだね!」
ワナワナ~
鍋?有難いが、テレビではもっと、こう、平たいピザというパンや七面鳥ではないのか?
いや、そうじゃない。
「そなたたちは、キリストとやらの信徒なのかえ?」
「いいや。女神神社の氏子かな。そうだよね。母さん」
「まあ、女神観音寺の檀家でもあるわね」
ワナワナ~~~~
【そなたたちは、一体、何、教徒なのかえ?妾は、女神教徒じゃ!出て行くのじゃ!】
「あ、エリさん、夜の女の一人歩きは危ないわよ。和樹、ついて行きなさい!」
「エリ姉ちゃん待って!着ているの僕の中学のジャージだけじゃん。寒いよ。風邪引くよ!」
ガラガラ
妾は、外に出た。この奇妙な、引くタイプのドアには、まだなれない。
【飛翔!】
「あれ、エリ姉ちゃんいない・・・」
ふん。魔法を知らない平民め。妾が空を飛べることなんぞ。想像もつかないだろう。
「妾は、また、王国に戻るのじゃ。王国は、殿下は、妾がいないと、ダメなのじゃ・・・」
そう言えば、いつから、殿下と、話をしなくなったのじゃろう・・・
妾は飛んだ。
この里に来たときは、霧が出ていたな。霧を探したがない。
「おや、光が」
何やら、光が、和樹、いや、平民のくせに家門持ちだったな。ササキ家のビニールハウスとやらの方で、光っておるぞよ。
近くによると分かった。
光の正体は、獣の目じゃ。
「ギャ、ギャ」
「コーン!コーン!」
「グギャ、グギャ」
あれは、害獣三大天!と和樹殿が言っておったな。アナグマと、狐。ハクビシンではないか?
あれは、平民の作法に則り。母御の畑仕事を手伝っていた時じゃ。
『狩猟法があるから、勝手に殺してはダメなのよ。エリさん。手から炎を出さないで、追い払うだけでいいのよ』
『そうか・・』
・・・・・・
「おい、獣どもよ。去れ。ここは和樹殿の母御が一生懸命に育てた作物じゃ。お前らの口に入るのには、ちと高いものぞ」
「ギャ、ギャ、ギャ!」(うるせえ。やっちまえ!)
アナグマや狐が頭突きをしてくる。
ネットの破れた所から、畑に侵入してこようとしている。
凶暴だ。
だが、妾は飛ばずに、盾になった。
何故じゃ。空を飛べば逃げられるのに、
ファイヤーボールを使ったら、火事になる。
平民が汗水垂らして作った。ほんのささやかな野菜、その日の命をつなぐための収穫物。
それを、黙って奪われるのを指くわえて、眺めていることをしたら、
「貴族の矜持が許さぬわ!」
・・・・
チュン、チュン
日が昇って来たな。寒さと奴らとのバトルで、朦朧としてきた。
「お~い。外人さん!」
「エリ姉ちゃん!」
「和樹殿!」
「ギャ!」
「コーン!」
「グギャグギャ!」
(((助っ人がきた。逃げろ!)))
村の消防団が妾を捜索してくれたみたいじゃ。
「こんなに害獣どもが、ネットを張り直すぜ」
「猟友会の方々に協力要請だ。今夜、ジビエが食えるぜ!」
「エリ姉ちゃんが、このネットの切れた所で、奴らが侵入しないように、頑張ってくれたんだ!ありがと!」
「まあ、世話になった礼である・・・」
そして、
☆道の駅
「キャー、この野菜は、私が作りましたの人だ!」
「「「キャーキャーサインして」」
「罵倒して!」
妾は人気者になった。
魔道写真を撮り。『この野菜は私が作りました』と売り場に看板を立てられたのじゃ!
「うっさいの。仕事中じゃ!納品に来たのじゃ!」
「「「キャー、キャー!本物の悪役令嬢みたい!」」」
「助かる~~~」
☆数年後
「「「メリークリスマス!」」」
パン!パン!パン!
「プレゼント交換じゃ!母上には肩たたき券じゃ。和樹殿には妾が作ったお守りじゃ」
「言ったら、ダメだよ。エリ姉さん!」
「まあ、嬉しいわ」
「鍋は格別じゃ。ケーキは、今年はチョコタイプかえ?」
「それは、鍋の後のお楽しみだよ!」
「むせた。少し、外にでるでな」
ガラガラガラ~~
このドアは良いな。ドアの先に人がいるかどうか、気にせずにすむ。
・・・妾は庭に出た。
数年前、あの食害阻止事件から、妾は、この里の住人に受け入れられたみたいじゃ。
「フム、霧かえ?この季節に珍しい」
黒い霧が出てきた。夜なのに分かるぐらいの真っ暗じゃ。
「殿下!?」
「エリザベータ、どこに行っていた。王国は大変なことになっている!お前を探していたぞ!」
・・・フム、話を聞くと、父上が失脚したことで、派閥のパワーバランスが崩れ。侯爵派の専横がとどまることを知らず。
自ら王のように振る舞い始めた。
エリヒムも、養子の分際で、父上と妾を裏切ったことで、使用人と領民から総スカンをくらい。婚約者に婚約を解消され、部屋に閉じこもっているとな。
そうなるであろう。
側近が何人か暗殺され、聖女殿も、政務に無関心で、毎日、夜会に出てばかりいる。
今度、生まれる子も怪しいとな。
「君の力が必要なんだ!霧が出ている間だけ。行き来できるのだ。さあ、早く来い!」
【フリーズ!】
ドン!
妾は、手を差し伸べる殿下に、魔法をかけ。蹴って、霧に押し込めた。
「あれ、エリ姉ちゃん。声が聞こえたけど」
「これ、和樹よ。聞くでない。女には秘密の一つや二つあるものじゃ」
「ええ、母さんも?」
「そうじゃ!」
「ところで、和樹殿、来年、高校卒業じゃな。進路は決まっておるかえ?」
「うん。就職先、決まったよ」
「そうかえ。三歳差じゃな。すっかり、大きくなったのう。就職祝いに婚約を結んでもいいぞえ?」
「ええ、また、婚約して、婚約破棄する話?」
「だから!それは紳士たる者、婚約破棄をしてはいけないと言う話じゃ!母御には、そなたの気持ちさえ良ければ、婚約を結んで良いと許可を受けたでな!この里は、家同士の結婚じゃないのでな!」
「分かったよ。だけど、いつでも、エリ姉ちゃんから婚約破棄して良いよ。それとも僕から婚約破棄した方がいい?」
・・・こやつ、本気にしておらんな。まあ、ええ、これからじっくりじゃ。
後に、和樹の会社に、空を飛んで、弁当を届ける所を目撃されて、国政を揺るがす騒ぎになるのは、もう少し先の話だ。
最後までお読み頂き有難うございました。